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高次脳機能障害の症状と当事者・家族の苦悩

おたくま経済新聞 / 2018年1月22日 16時0分

高次脳機能障害の症状と当事者・家族の苦悩

イメージPhoto / 写真ACより

 小室哲哉さんの不倫疑惑報道から、介護の大変さにフォーカスしている言葉がネット上のあちこちから出ています。

 小室さんの妻KEIKOさんがくも膜下出血で倒れたのは、KEIKOさんが39歳の時。小室さんがKEIKOさんの発症にすぐに気が付いて救急搬送した先の病院で5時間以上にわたる大手術で一命をとりとめ体には大きな障害が出なかったものの、脳の機能障害が著しく出てしまった事は様々なメディアが伝えている通りです。
KEIKOさんが発症している、高次脳機能障害とは。

■高次脳機能障害の症状と当事者・家族の苦悩

 脳へのけがや病気などによる損傷により、身体面以外での障害が出現するのが高次脳機能障害と呼ばれています。具体的には

・数分前の事を覚えている事ができず同じ質問を繰り返してしまったり、物をどこに置いたのか分からなくなったり、新しい事を覚える事が非常に困難となる『記憶障害』
・二つ以上の事が同時に起こると混乱してしまう、ぼんやりしていて注意力が散漫になる、一つの作業を長く続けられないなどの『注意障害』
・自分で計画を組んで物事を進める事ができない、人に指示してもらわないと行動を起こすことができない、約束した時間を守る事ができなくなってしまう、『遂行機能障害』
・興奮しやすくなり暴力性が出てしまう、自分の思い通りに物事が進まないと大声を出してしまう、自己中心的になるなどの性格の変化が病後に出現する『社会的行動障害』

といった症状がけがや脳疾患などで出現します。

 突然の病気の発症と、その後の性格や行動の変化に一番戸惑い辛く思うのはその本人と家族。急激な変化を受け止め切るのは並大抵な事ではありません。「今までこんな事難しい事でも何でもなかったのに」「どうしてこんな簡単な事ができないのか」など、「なぜ、どうして」という気持ちに苦しんでいるのです。

■若年者の介護の難しさ、しんどさ

 介護というと高齢者が主な年齢層であり、その要介護者である高齢者を見守り介護していく家族のしんどさや辛さは今までも度々話題となっていました。高齢者介護は国を挙げて対策を整えてきていますが、その一方でKEIKOさんの様な比較的若い人が要介護状態になった時の受け皿は未だ少ないのが現状です。

 デイサービスやショートステイ、入居施設などは高齢者しかいない事も多く、40~50代の世代の利用者は非常に少ないのです。同世代がほとんどいない、高齢者しかいない施設で馴染めないなどの理由で通所施設に通ってもすぐにやめてしまう人も多くいます。

 小室さんの場合、KEIKOさん自身が有名人でありそういった施設の利用が難しかった側面もあるかもしれません。若く身体的に機能障害がないために施設利用を検討するのが困難だったという側面もあるかもしれません。様々な要因があったがために小室さんがKEIKOさんと密接した状態で介護せざるを得なくなったのは想像に難くありません。KEIKOさんの実家にも支えてもらっていたとはいえ、常に一緒に暮らしていながら大人同士の会話もできない、本来であれば支えあって生きていくはずの人の責任を全部負って仕事しながら介護をこなすのは相当の苦労があったはずです。

 病前の状態に回復できる見込みの不明な、日々出口のないトンネルの中を歩き続ける様な日々を何年間も続けていて精神的に辛くない人なんていないのではないでしょうか?自分の辛さ、介護の辛さを何でも話せる心の支えになる人がいなければ早晩精神が病んでしまいます。

 筆者は7年間リハビリ支援型のデイサービスに看護師として勤務しており、その前は脳外科を含む混合病棟でも勤務していました。脳外科病棟に入院していた人の1~2割は60歳未満。中には30代で子供が生まれたばかりという若い父親も重篤な脳疾患で入院していたのを看てきました。病棟から施設勤務になって見えてきたのは、支援する側の一貫した継続的な関わりの重要性と、家族の計り知れない苦悩でした。退院後の生活をどうしていいか分からないという人も多く、ケースワーカーも一緒に悩んできた事も数知れず。一家の大黒柱や心の拠り所から一転してケアされる側になってしまった患者さんの苦悩にどう言葉をかけていいか分からない事も多くありました。決まった答えなどはないのです。その患者さんや家族を深く知る以外には本当に必要な支援はできないのです。

■頑張らない介護の必要性

 仕事を続けながら介護をするのは並大抵な事ではありません。介護のために仕事をやめる「介護離職」も社会的問題として取り沙汰されています。仕事と介護の両立は、どちらも頑張り過ぎないで家庭外の力を借りる事で初めて成り立ちます。

 頑張らない介護に必要なのは、社会的資源。いくらお金がたくさんあってもそのお金を自分の負担を軽くするために振り分ける事ができなければ意味がないと言えます。お金も必要ですが、そのお金を使ってでも味方にできる人や病医院・介護施設などの社会的資源はまだまだ足りていません。特に、若年層の要介護者を支える受け皿は特に少なく、介護の専門家であるヘルパーや介護福祉士も低賃金で働かざるを得ない現状ではやりたくても職業として選ぶのが困難という声も現場では常に上がっています。
一方で、医師などの有識者の間では高次脳機能障害を含め要介護者は家族以外のプロの介護支援を入れなければ介護にまつわる問題はいつまでも解決しないという声も多く上がっています。

 この問題を解決するためには税金や国政から変えていかないといけない、壮大な話になってしまいますが、だからこそ選挙に行ったり一人ひとりが問題を報告しあうなど自分たちにできる事をやり続ける必要があると思います。黙っていたら解決しないのです。幸いな事にネット上では平等に発言できる場所が昔よりも格段に増えています。ネットを使いこなせる人たちはテレビや新聞だけしか情報ソースを持たない人たちへの情報の橋渡しをして、より多くの問題提起や解決策を共有できるようになっていっていますがまだまだ不十分。必死に頑張っている人には届いていない情報や心遣いも多く、孤立している人を見つけるのは未だ困難な状態。紋切り型の今までの支援体制からより踏み込んだ支援に発展させるためにも、自分たちの未来に失望しないためにも、できる事をそれぞれが積み重ねていければと思います。

(梓川みいな / 正看護師)

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