マンホールの歴史と奥深さが垣間見える「なごやのマンホール展」開催!
おたくま経済新聞 / 2018年3月17日 8時5分
名古屋市・アメンボデザインマンホール(2018年、梓川みいな撮影)
名古屋市にある「水の歴史資料館」にて企画展示「なごやのマンホール」展が3月10日(土)~4月8日(日)に開催されます。今回、この企画展に先立ち水の歴史資料館を取材してきましたらうっかり常設展示の面白さにも引き込まれてしまいました。
マンホールの蓋、それは足元に広がる秘密空間に繋がる世界への入り口のような存在。補修や点検、また災害の時に必要不可欠なマンホールを塞いでおく為の蓋の下にはどんな世界が広がっているのかちょっと想像を膨らませてしまう人もいるかもですが、そんな秘密基地感のある下水道、実は日本のそれは巨大なパイプが埋まっていてアニメや海外映画なんかで見る様な歩く場所などないのです。しかしマンホールの蓋はマニアの間では格好の観察対象。そんな名古屋市下水道のマンホールの蓋の歴史が分かる「水の歴史資料館」の今回の企画にはブームの火付け役となった「マンホールカードの生みの親」の講演も。
今回の「なごやのマンホール」展では、大正元年から採用されたマンホールの蓋に始まり、時代とともに変遷していくマンホール蓋を時代背景とともに追って観察する事ができます。
なお、ここで気になる方がいるかもしれませんが、「マンホールカード」とは、については後ほど説明。まずはマンホール蓋の基本情報などから。
【マンホールの蓋の基本スペック】
材質:鋳鉄
重さ:基本的なマンホール蓋(直径60㎝)の場合、約40㎏(=小学校6年生の平均体重並み)
耐荷重:25tまたは14tの自動車荷重に耐えうる
耐用年数:15年~20年程とも言われているが交通量など使用環境により違いはあるので実際には20年以上の使用も可能。廃棄された蓋はスクラップとして扱われ、鉄材として再生されている
【マンホールの用途別種類について】
規格別に細かく分類すると68種類あるそうですが、蓋に必要な基本的な機能による分類としては、一般蓋、水密蓋(水や空気が内部から抜けない)、グレート蓋(空気が内部から抜けやすいように格子状になっている)、耐スリップ蓋(表面の凹凸が多く、滑りにくい)などに分類されます。
また、合流区域(雨水と汚水を一緒に処理する区域)、分流区域(汚水のみ処理する区域)の分類や、蓋の大きさによる分類(60cm、30cm)、耐荷重による分類(25t、14t)などと地域の特性や使用する道路の状況に合わせて使い分けられています。
市内で一般的に用いられているアメンボを模したデザインは、平成9年に採用され現在市内で広く一般的に使用されています。このアメンボのモチーフは名古屋市下水道供用開始80周年を記念として一般公募されたもの。平成4年に「きれいな水に棲む生き物」の象徴として浄化した水のキレイさを現す意味合いを込めてイメージマークとして制定。平成9年の法改正により新しいマンホール蓋への取り換えを進めるにあたり現在の一般用のデザインに採用されました。
名古屋のマンホールカード第1弾として、このアメンボデザイン蓋のカードは下水道科学館(名古屋市北区名城1丁目3-3)で配布されています。
■イラストデザイン蓋の歴史
名古屋市で初めてイラストデザインの蓋が登場したのは、平成元年に名古屋市で行われた「世界デザイン博覧会」の時。博覧会に合わせ「デザイン都市宣言」を発表し、これを契機に単色カラーのイラストデザイン蓋が会場となった3つの場所(名古屋城・熱田区白鳥会場・名古屋港)付近や栄などの繁華街の歩道上に設置されました。カラー蓋の弱点は、塗料を使用している事による水濡れ時の滑りやすさ。これを克服するために細やかなデザインを用いてスリップ軽減にしているという事です。逆にカラー蓋は目立ちやすく視認性も良いため二輪車を使用している人からは避けやすくて良いという話も。雨の日の自転車走行でうっかり歩道の段差をなくすための鉄板の上に乗っかってしまいツルっとなった覚えがあるのでなるほどと頷かずにはいられません。
デザイン博で設置された単色カラー蓋。博覧会会場付近などに設置
第2弾マンホールカードにもなっているカラーデザイン蓋は平成24年に名古屋市下水道供用開始100周年を記念して設置したデザイン。こちらは名古屋駅からすぐの納屋橋がデザインされており、100周年の「100」を模したデザインも組み込まれています。
こちらは景観や立ち止まって足元を見ていても危険が少ない様に主に歩道に設置されています。モノクロのデザイン蓋は名古屋市内に約100か所、カラーのデザイン蓋は市内12か所に設置されており、デザインの原案となった場所である納屋橋はもちろん、名古屋駅や栄、市役所前などに設置されています。
このデザイン蓋の実物、デザイン博のカラー蓋のうちの2つが今回の企画展で展示されていますので、3会場跡地を巡らずにじっくりと見る事ができますよ。また、水の歴史資料館内で第2弾のマンホールカードを配布しているので展示物をじっくりと見た記念にカードを手に入れるというのも良いですね。
水の歴史資料館でもらえるマンホールカード
■マンホールカードと仕掛け人、そして講演会
全国のマンホール蓋はマニアの間でも情報交換が活発に行われておりその熱量はすごいものがあります。全国のマンホール蓋の情報を網羅した趣味のサイトでも情報交換が活発に行われております。そんなマンホール蓋に魅せられた人たちが集めているのが、マンホール蓋の情報を一枚のカードに収めた「マンホールカード」と言うもの。
このカード、「下水道広報プラットホーム(GKP)」という団体が下水道についてより多くの人に知ってもらい考えてもらいたいという趣旨で開発しました。2016年4月に第1弾が配布開始になり、現在は第6弾まで発行。参加自治体は252自治体にのぼります。名古屋市も第1弾から参加し、現在も先述したそれぞれの施設で配布されています。ちなみに、第1弾は2016年4月の配布開始から1万1千枚以上、第2弾も7500枚以上が各施設で配布され、現在も好評配布中との事。遠方からもカードを求めに来る人がいるようです。
さらにこのマンホールカードの全情報を1冊にまとめた本も出版されています(マンホールカード コレクション1・スモール出版)。
マンホールカードのフォーマットを作成した、マンホールカードブームの仕掛け人ともいえる山田秀人さんが、この企画展開催期間の3月24日に「日本のマンホールふたは世界に誇れる文化物」という演題で講演会を行います(午前10時~・当日先着30名・参加無料)。
山田さんはマンホール広報のプロとして活動しておりその界隈では「神」扱いされているという人物。マンホールカードのプロジェクトリーダーとして活躍されている山田さんの講演はマニアにとっても、下水道と広報に携わる人にとってもまたとないチャンスとなります。
名古屋市上下水道局としてのマンホールカードの今後は未定という事ですが、GKPはまだまだ精力的にマンホールの魅力を発信し続けているので今後の展開が楽しみですね。
■ブラタモリや歴史が好きなら展示も見逃せない!
NHKで放送された「ブラタモリ」が名古屋で3回もロケを行った事は地元民はもとより全国的にも大騒ぎとなりましたが、そのタモリさんもとても興味深そうに見ていた名古屋の城下町の古地図がこの「水の歴史資料館」に展示されています。取材ついでにと副館長の日比野さんの解説を聞きながら館内を案内して頂き、日本初の技術も取り入れられた名古屋の治水事業や上水道、下水道の発達の流れを学ぶ事ができました。この展示内容が非常に貴重なものばかり。筆者宅からそんなに遠くない場所なのにどうして今まで足を運んだことがなかったのか、と悔やまれるくらいにとても興味深く貴重な資料がこれでもかというくらいに展示してあります。
名古屋城下町古地図
足元には現代
ここ、ホントに無料で入館してもよかったんですか?となるレベルで名古屋の治水の歴史や上下水道についての知識を深める事ができます。日比野さんの解説が非常に分かりやすく興味をひく話ばかりで、つい長居をしてしまいました。時間が許すなら端折った部分の解説も聞きたかった……。
マンホール展に来た際にはぜひ展示物をじっくりと見て回ってください。治水の重要性や防災について、下水処理の技術などホントにとても興味深いものばかりですよ。さらに歴史的大発見だというポンド債も展示されています。
■都心部から離れている「水の歴史資料館」ですが、周辺にもみどころが
現在、この資料館のすぐ近くにある「東山給水塔」は工事中の為周辺を含めて立ち入る事ができませんが、その塔を少し離れた場所から見る事はできます。そして、資料館の北側には学問の神様である「上野天満宮」があります。名古屋駅から名鉄バス、または栄から市バスの基幹2号バス「谷口」を下車して谷口の交差点を真っすぐ南に15分くらい歩くと「水の歴史資料館」に到着します。車は18台が駐車可能。
ちょうど桜が咲き始める頃、資料館近辺には見事な桜の木もあるので散策がてら歩いてみるのもいいかもしれません。
うっかり近所だからと軽い気持ちで取材したらものすごく引き込まれてしまうくらいに興味深さしかなかった「水の歴史資料館」の今回の企画展「なごやのマンホール」は3月10日~4月8日(月曜休館・月曜が祝日の場合は直後の平日が休館)に開催です。
所在地:愛知県名古屋市千種区月ヶ丘1丁目1番44号
入館料:無料
開館時間:午前9:30~午後4:30
(取材協力)
名古屋市上下水道局
<参考サイト>
水の歴史資料館
下水道広報プラットホーム
(梓川みいな)
Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By 梓川みいな | 記事元URL https://otakuma.net/archives/2018031701.html外部リンク
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