全部が疲弊している世の中でできる事とは。~実例から介護の現状を考える~
おたくま経済新聞 / 2018年3月22日 17時34分
介護風景 / 写真ACより
看病や介護って誰の為に誰がするのか……今まで当たり前のように「要介護者は家族が看病する」という意識が普通であるかのように通ってきていますが、果たしてそれはそのまま「当たり前」としてしまっていいのでしょうか。
筆者は病棟と外来、介護施設を渡り歩いてきましたがそこから経験したいくつかの実例から、患者と家族にとって本当に必要な事とは何かを考えてみたいと思います。
■ケース1
認知症が進み、自宅での介護が難しくなったAさん(女性・70代後半)は、噂話やおしゃべりが大好きな足腰丈夫で活発な性格。昔は一人で地下鉄を乗り継いで出かけていたいつもの場所へ、自力で行く事が困難となり日常生活でも介助が必要となったため通所型介護施設(デイサービス)に週5日間通っています。
自宅では洗剤と飲み物の区別がつかず誤飲して入院、入院中も消毒液のスプレーの頭の部分を外して飲んでしまうといった行動があり目が離せない状態。主な介護者は同居の長男(50代未婚・会社役員)。普段は仕事の為デイサービスへAさんを預け、週末は自宅で二人という状態だそうです。
デイサービスでは他の利用者に対し攻撃的な言動を見せる部分もあったものの、場所や人に慣れるにしたがって同じことを繰り返し話しながらも落ち着て過ごす事が出来ていました。大企業で活躍している二人の息子さんの自慢話が何よりも大好き。話を聞くのが得意な他の認知症の女性に3分に1回は同じ話をしていましたが、この女性も聞いた話をすぐに忘れてしまうので同じ話でも普通に相槌を打ちながら話を聞いておりいいペアだね、と周りからも評されていました。
自宅では息子さんに同じ様に話を繰り返したり、汚れた衣類を隠してしまうなどある反面、ヘルパーさんに辛辣に当たる事もよく見られていたので息子さんもだいぶ苦労があったようです。
■ケース2
80代男性のBさんは、脳梗塞による後遺症で左半分がほぼ動かない状態。身長180㎝以上と大柄で、トイレの介助は男性職員が少ない為女性ヘルパーがしばしば入る事も。
元軍人だったBさんはプライドの高い人でしたが認知症はなく穏やかな性格だったためリハビリやレクリエーション活動にも積極的に参加し、介助すれば数分はつかまり立ちができるまでになりました。しかし、家族の身体的な負担は大きく主な介助者は高齢の妻。子供たちは遠方ではないもののそれぞれに家庭があり実質的な介助に参加するのが難しい状態でした。
Bさんは正義感が強く他の認知症の利用者がとる行動に対し大声で注意をする事も見られましたが、理解力もある人だったのでその都度職員が間に入る事で大きなトラブルになる事はありませんでした。
■ケース3
気難しく介助をなかなか受けてくれようとしない、80代男性のCさん。身体的に障害はなかったものの元々の性格と認知症の症状から、他の利用者に対し声を荒げたりトイレの介助も入浴も拒否があったりと清潔を維持するのがかなり困難であったりと難しさを感じる人。主な介助者である妻と娘も疲労困憊の状態。
しばらくデイサービスで入浴と昼食は維持できていましたが、持病(慢性腎不全)により入院となってからは筋力が維持できなくなり寝たきり状態に。自宅近くの老人ホームへ入所となりましたがそこでも職員に対し大声を出して暴言をはいたりおむつ交換や入浴の拒否があったりといった状態が続いていました。
■家族も介護施設も疲弊している
普段生活するだけでいっぱいいっぱいの人は多いと思います。仕事と子育てを掛け持ちして、さらに親の介護もという人もいます。「介護離職」という言葉も依然なくなりません。
介護施設も常に人手不足。月給10万そこそこで認知症の問題行動が多い人を介護し、排泄物を処理し、入浴を介助し、毎日のレクリエーション活動のプログラムを考え家族とも連携をとり記録を書き通所施設では毎日利用者さんの命を預かって送迎し、入所施設では2人とかで30人~50人の入所者の夜間の様子を預かり、利用者の家族には「プロなんでしょ」となじられたり無茶を言われたり。これで介護の問題をどう解決できるというのでしょうか?
そして家族も、このまま同居していたら自分がおかしくなる、生活に支障が出るという状態なのにどこの入所施設も空きがありませんと言われたり空いていても良くない噂を聞く施設に大事な家族を預けたくても預けられない現状。閉塞感ばかりが漂う状態で綱渡りをするかのような精神状態で介護をしている家族は実に多く、不満や苛立ちを施設職員や訪問ヘルパーにぶつけてしまう人も少なくありません。
■打開策を探るために必要な事
いっその事見放せるような仕打ちをされれば、家族も何も未練なく評価の良し悪しに関わらず入所施設へ入れてそのまま顔も出さないという事もできるかもしれません。介護する職員も「あの人はああいう人だったから」と機械的に介護をするだけになるかもしれません。でもそれは誰も幸せにならない方法。心もへったくれもない世界なんて、誰も望まないのではないでしょうか?
老々介護の末、先行きを悲観して心中する人が後を絶たないのは世の中への諦めや絶望、頼りたくても頼れないという現状が目の前にあるから。
いくら介護の仕事が好きでも、仕事量に見合った、生活できる賃金も満足にもらえない現状ではこの負のスパイラルから抜け出す事は難しいのではないでしょうか。「育児と介護は社会でやろう」という言葉も聞こえてきますが実際は自分の事で手一杯な人ばかりではないでしょうか。シングルマザーの筆者も、一人で問題を抱える子供二人をみながら外で激務に拘束される仕事はできません。
その代わりといっては何ですが、こうして世論の足しに少しでもなる事を皆さんに読んでもらう事で、どうしていけばいいのか考えを出し合っていく一つの手がかりを提供できればと思います。専門職も、そこを志す人も、そこに出せるお金も足りないだらけの現状と社会が疲弊している現状。余裕がない世の中ですが少しだけ、他の人に目を向ける人で解決につなげる何かを見つける事ができるかもしれません。
(梓川みいな / 正看護師)
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