事故と感染症。野生動物とヒト。両方守るために覚えておきたいただ一つの事
おたくま経済新聞 / 2018年3月31日 10時0分
キツネ
愛知県知多半島地域でエキノコックス感染症が発生し、このほど愛知県が注意喚起を発表。一方、北海道では野生動物への餌付けが問題となっています。
愛知県内でエキノコックスが確認されたのは、知多半島で捕獲された犬から。県発表によると「平成26年4月4日付けで1例(捕獲場所:阿久比町)、平成30年3月27日付けで3例(捕獲場所:阿久比町、南知多町、及び知多市)、『「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)に基づき」犬の獣医師によるエキノコックス症を診断した旨の届出がありました』(原文ママ)という事です。
エキノコックスは野ネズミなどの中間宿主を通しイヌ科動物にもヒトにも感染する感染症で、寄生虫の一種。このエキノコックスは寄生した動物の腸内で産み付けた虫卵をイヌ科動物やヒトが口を通して感染する「経口感染」が主なルート。エキノコックスの虫卵は腸内でふ化し、その幼虫は腸壁から血液やリンパ液に乗って体内の各所に流れ着き臓器に定着します。
その間の潜伏期間は約10年。無症状であるため10年もの間感染している事に気が付かないまま過ごす事も稀ではなく、主に肝臓に出る病変がはっきりと分かる状態になった時には感染から10年以上経過し、症状も進行している場合も多くあります。
このエキノコックスはヒトからヒト、イヌ科以外の動物からヒトに直接感染する事はないのできちんと予防をすれば発生を広げる事はありません。しかし、今回愛知県の野生の犬で感染が確認されたという事は知多半島地域にエキノコックスが定着している可能性も否定できないという事になります。
エキノコック感染ルート(愛知県HPより)
一方、このエキノコックスは主に北海道でよく感染が確認されている感染症で道民なら学校の授業でも習うくらいには感染予防の知識が身についている人が多いのですが、他の地域ではあまり馴染みがない為か知られていない事もあります。
そして野生のキツネにエキノコックスが常在しているというのも道民なら常識の範囲内かと思いますが、他の地域では知られていない事も。その為かキツネの可愛さにつられてつい餌をやってしまう人もいるようです。
先日、その野生のキツネが人間から餌をもらえる事を覚えてしまった事に危惧感を持った人がこんな投稿をSNSにしていました。
「ココまで近づいて『エサ下さい』のポーズ。こうやって車に轢かれ命を落とします。野生動物を守るためにも絶対にエサを与えないで下さいね。知床公園線(道道93号)より」
この投稿はツイッターで北海道の流氷の様子を紹介している「流氷なび」さんのツイート。
アスファルトで整備されている車道で、人のすぐ近くまで近づいて餌をもらおうと待ち構えている様子の写真とともに注意喚起を行っています。
ココまで近づいて『エサ下さい』のポーズ。こうやって車に轢かれ命を落とします。野生動物を守るためにも絶対にエサを与えないで下さいね。知床公園線(道道93号)より pic.twitter.com/CZSlQSTta8
— 流氷なび (@ryuhyonavi) March 24, 2018
確かに可愛いし、つい餌をあげてモフりたくもなるのは分かります。しかし、人間の知識のなさや「ちょっとくらい」という気持ち、「自分だけなら」「だって可愛いから」という気持ちはキツネには悪影響なのです。一度餌をもらえると覚えたキツネは人間に近づいていくようになります。そして、車が走っているところに飛び出していき不幸な結果を招く事もしばしばあるようです。
観光客の安易な気持ちによる餌付けは、キツネに不幸をもたらします。そして、野生動物の生息地に入る事がエキノコックスを広める原因にもなります。この二つの不幸を防止するためには、「キツネの生息地にむやみに入って餌をあげない」この一言に尽きると思います。
可愛い振る舞いで近づいて来ますが、エサを貰えないとわかった時の目つきがヤバイ…。※野生動物はペットではありません。この様に睨まれても決してエサは与えないで下さいね。 pic.twitter.com/XguqK3kNic
— 流氷なび (@ryuhyonavi) March 25, 2018
知床への観光客は、ヒグマにも安易に餌をやってしまう事があるようです。また、食べ残しのゴミを路上に放置した結果ヒグマが人の近くまで近づき、攻撃する事も。民家にヒグマが近づき人を襲ったり畑を荒らすなどの被害も深刻です。
この為知床一体の知床斜里町観光協会・斜里町・知床羅臼町観光協会・羅臼町などが「えさ禁企画実行委員会」を結成、注意を呼び掛けています。
これから北海道も雪が解けて本格的な観光シーズンを迎えます。同時にエキノコックスが発生・蔓延しやすい時期にもなります。もし野生動物の生息地に足を踏み入れてしまった場合、アスファルトに出て靴底の泥をしっかりと落としてから車に乗ってください。エキノコックスの虫卵をその場で落として、手も清潔に。泥が手についたり服についた場合はしっかりと洗い流す事で感染は防げます。経口感染は手についた病原体を口に持っていく事で入り込み感染が成立するので口元を触ったり清潔にしないまま食べ物や飲み物を摂る事が一番危険です。
すべての感染症は、正しい知識の元に予防する事で発生を防げます。野生動物に安易に手を出さない事はヒトを守る事にもつながるのです。是非覚えておいてください。
<参考>
犬におけるエキノコックス症の発生に伴う注意喚起について – 愛知県
エキノコックス症とは|国立感染症研究所
知床ヒグマえさやり禁止キャンペーン
<記事化協力>
流氷なびさん(@ryuhyonavi)
(梓川みいな / 正看護師)
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