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気分の波が激しく自分ではどうにもできない辛さの「双極性障害」とは

おたくま経済新聞 / 2018年4月14日 8時57分

気分の波が激しく自分ではどうにもできない辛さの「双極性障害」とは

双極性障害イメージ/写真ACより

 世界的な歌手のマライア・キャリーが「双極性障害と診断されていて現在治療を受けている」と海外のメディアが報じています。

 一昔前までは「躁うつ病」という診断名だったこの疾患は、目に見える病気とは違う、脳の疾患。感情の変化が激しく周りからも誤解を受けやすいこの疾患はいったいどういったものなのかを説明します。

■ 双極性障害とは

 かつては「躁うつ病」と呼ばれていたこの疾患は、うつ病とは全く別のもの。やたらハイテンションになって次から次へと喋り出して止まらない、どれだけ動いても疲れを感じず非常に気分が良く強い勢いの精神状態(躁状態)と、激しい落ち込みや自信の喪失、希死念慮(きしねんりょ/死にたいと願うこと)といったうつ状態がはっきりとしている「1型双極性障害」と、ややテンションが上がり気分の良い状態が続いた後に、気分の落ち込みや無気力などやはりうつ状態がひどくなる「2型双極性障害」の2種類に分類されます。

 気分の波は誰しもあるもので、自分の身の回りの起こる出来事でその波は左右されますが、この双極性障害では特に気分の変化をもたらすような事柄が起きていなくても気分が浮き立ち、楽しくなってしまいます。時にはその激しいウキウキによる言動が強く出てしまう、あまりできない約束をしてしまって社会的に信用を無くしてしまう、といった事例もあります。この状態は自分で意図して起こすものではなく、気分の波を自分でも止めきれないのが特徴で、自分でもどうしていいのか途方に暮れるという人も多くいます。

 そしてその気分の波の反動は大きく、極端に良い気分の状態から極端にひどい気分となるため、現在は「うつ病」とは違うという意味合いも込めて「双極性障害」という疾患名となっています。

 極端な気分の波の原因は未だ解明されていません。発症には男女差はなく、発症する年齢層も幅広いのが特徴です。

 欧米では人口の2~3%に見られるという双極性障害。1型・2型を合わせた人数は日本人では100人に1人くらいいるという調査結果があるそうですが、きちんとした疫学調査がなくこの数値は疑問であるという話も出ています(厚生労働省HPより)。

■ 双極性障害は薬と心理療法でコントロールする

 この疾患は脳の機能障害のひとつであり、風邪や骨折などと違って完治するようなものではありません。しかし、現在は気分を安定させる薬がありますので、それを飲み続ける事で気分の波の大きさをコントロールする事ができます。海に例えると、波の大きな外海から守るための消波ブロック(テトラポット)のような役割を薬が果たしてくれます。

 マライアも2型の双極性障害と診断され、治療を開始して今ではかなり落ち着きを取り戻す事ができたと海外ニュースでは伝えられています。

 マライアはひどい精神的な落ち込みや、身近な人たちの間のトラブルなどから2001年に同疾患と診断されましたが、その事実に向き合う事に強い恐怖を持っていました。最近になってその精神的な重荷に耐えられず治療を開始したという事ですが、診断が下りてから今までの状態を振り返って話ができる状態となるまで相当な時間を要したようです。しかし、薬と心理療法(セラピー)の併用でかなりコントロールされた状態にできており、海外メディアの取材に対し「薬で過度の疲労感やだるさを感じるようなことはない」と語っているそうです。

■ 落ち込みと気分の高揚を繰り返すなら要注意

 1型双極性障害は強い気分の高揚や、睡眠時間を殆どとらなくても元気、根拠のない自信に満ち溢れ、次から次へとアイディアが出るがそれを完遂させられない、といった分かりやすい状態と、強い気分の落ち込み、無気力、自殺願望などのうつ状態がはっきりと現れるので周りも気が付きやすく診察を勧める事にも繋がりやすいのですが、2型は1型ほどの気分の高揚はなく、何となく調子がいい日が続くけれどその後にどうしようもない孤独感やうつ状態が出るので、うつ病と誤診される事もしばしばあります。

 2型が知られるようになったのはここ最近になってからであり、薬物治療は確立されてはいるものの、うつ病とは全く違うものであるため、うつ病と診断され抗うつ剤を投与されても効かない、という事がしばしば医療現場ではみられます。

 このためうつ病と2型双極性障害の鑑別は特に慎重に行う必要があります。また、薬で非常に落ち着いた状態にできるもののその薬が合うかどうかを慎重に探りながらの治療となるため、薬を飲み始めたからといってすぐに効果があるものでもなく、少しずつ良い状態へ近づけていくという形になります。効果が実感できるようになるまでの時間は人それぞれではありますが、じっくりと向き合い治療を続けていく必要があります。

 時間はかかるものの、絶望的な孤独感からマライアが救われたように治療で少しずつでも確実に良い方向に向かう事ができるので、長い時間をかけて治療をする事を諦めないのが何よりも大事です。

 そして、治療を受けている事を周りに知らせる事で救いの手を差し伸べてくれる人は必ず現れます。カミングアウトする勇気はとてもいるかもしれません。その結果離れていってしまう人もいるかもしれません。ただ、離れていってしまう人は理解をしようとしない人。自分にとって必要としない人だと思えば怖くなくなるのではないでしょうか。

 「きっと落ち着いて心穏やかに過ごせるようになる。」諦めないで自分に最適な治療を。すべての辛い気持ちを抱えている人が、良き伴走者を見つけられますように。

<参考>
CNN.co.jp : マライア・キャリーさん、双極性障害の診断を告白
双極性障害(躁うつ病)|病名から知る|こころの病気を知る|メンタルヘルス|厚生労働省
1.双極性障害(躁うつ病)ってなに? | 双極性障害ABC | 双極性障害について | こころの健康情報局 すまいるナビゲーター 双極性障害

(梓川みいな/正看護師)

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