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公共マークは誰のための物?一つの事例から考える「デザインの意味」

おたくま経済新聞 / 2018年4月24日 9時51分

公共マークは誰のための物?一つの事例から考える「デザインの意味」

早稲田大理工学部トイレ表示

 たまに見かける、街中のややこしい表示やデザイン。自動ドアの開く場所が分かりにくかったり、矢印の方に目的のものがあると思ったら行ってもたどり着けなかったり。度々ネット上では議論されることもありますが、そんな中、とある場所のトイレの表示が分かりにくいという一つのツイートが注目されました。

 「理工のトイレのマーク、男性の裾が広がっているし女性の方が肩幅があるしで、色弱の私は毎回めちゃくちゃ間違えるんですが、これどうやらMEN/WOMENのM/Wをかたどってるっぽいということに気づいた。6年目にして遂に謎が解けた。」というツイートをトイレ表示のマークの画像とともにツイッターに投稿した、ツイッターユーザーのギャルさん。

理工のトイレのマーク、男性の裾が広がっているし女性の方が肩幅があるしで、色弱の私は毎回めちゃくちゃ間違えるんですが、これどうやらMEN/WOMENのM/Wをかたどってるっぽいということに気づいた。6年目にして遂に謎が解けた。 pic.twitter.com/Z8wVnL9ccm

— ギャル (@BlackoolongteA) April 18, 2018

 この画像に表示されているトイレの表示、打ちっぱなしのコンクリートの上に、男性用にはやや薄目の水色でMenの「M」を意匠としているらしきデザイン。女性用はこちらもやや薄いピンク色で、Womenを意匠としているらしき「W」をかたどっているデザイン。

 Menの「M」をモチーフにしたデザインは台形に近く、遠目から見たらスカートを穿いている女性に見えそうです。一方、Womenの「W」もモチーフにした方は逆三角形に近い体型に見えるため男性っぽさを感じる人が多い様です。

 このツイートを見た人たちからは「自分もこれを見て一瞬悩んでから入る。」「背景がコンクリート(のグレー)な事を踏まえてもっとはっきりとした色だったらまだ良かったかも」など様々な意見が出ています。この男性用と女性用、色で判別する事が難しい色覚障害があるとかなり分かりづらい事は確かです。

 ギャルさんは度々このトイレがある早稲田大学の理工キャンパス(西早稲田キャンパス)に訪れる事があるそうですが、度々訪れている身でも色覚障害の事もあってやはり分かりにくいと感じており、「特に女性側が、背景とアイコンの彩度・明度がかなり近く、目を凝らさなければ気づくことさえ難しい」という事だそうです。

■デザインは誰のために作るものか

 こうしたデザインは意外と街中でみられ、表示が分かりづらいせいで後から説明を補足した張り紙が貼られる事も。こういった事は単にデザインを手掛けている人だけが悪いとは言い切れません。施設や建築物を構成するためのコンセプトや全体に調和したデザインなど、あらゆる要素が入り混じってくるため単にデザイナー一人が失敗といわれるデザインを設計している訳ではないはずです。建築物に付随する必要な設備を、その建築コンセプトにうまく調和させる為にと考えたデザインが、結果としてユーザーの視点を欠いているという事態に繋がっているのかもしれません。

 公共設備のサインなどに詳しい(株)石井マークさんにこうしたデザインについての考えを聞いてみました。

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元の話題は「あるデザインが判りにくい」という実例を純粋に述べたのでしょうし、それは必要な事です。ただし、何かの”悪い”と思える部分を”良く”しようとする際でも、気を付けておくべき点があります。

デザインには様々な配慮が必要ですが、こうして形となったものをご覧になり初めて問題に気付いた人も多いはず。そして、ある「配慮」や要求に応えようとした結果、「使えないもの」になる例も多いのです。勿論そうならぬ様にするのが設計者の役目ですが、、

・ある部分のみを良くしようとして、別の箇所が悪くなる
・誰の為に何を優先すべきか

そこを軽んじるなら、誰もが同じ過ちに加担する可能性があります。デザインとは機能も含めた設計全ての事です。失敗する事はあれども何かに「敗北」するものでもありません。そしてサインの要件は「よく見える事」と「意味が判る事」。完全な正解こそ無いとしても、設計のセオリーは既に多くが確立されています。

色分けはあくまで「+α」の役割に留め、明暗のコントラストをハッキリさせる事の方が重要です。また自らの主観のみで善し悪しを決めず、多くの利用者の立場で「better」に近づけねばなりません。
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 この話から見えてくるものは、「公共のサインに必要なものは建築物のデザインとの調和だけではなく、誰もが分かりやすいと思える為のセオリーを用いたデザイン方法が必要である」という事ではないかと思います。公共の施設は誰が使うものなのか、そして誰でも困る事なく使うものとなっているのか。一番重要なのは、「誰もが困らずに使える」という視点なのではないでしょうか?

■ロービジョンと視覚効果

 ロービジョン(弱視)の人が大半を占める視覚障害。その状態は眼鏡やコンタクトで補整しても輪郭がぼやけて見える状態、また視野の一部が欠けてしまう視野欠損まで幅広くあり、視力自体は悪くなくても先述のギャルさんの様に色の判別が難しい状態も。2003年3月に学校保健法施行規則の定期健康診断の必須項目からから外された色覚検査が2016年に再開となるまでの間、自身に色覚異常があると気が付かないまま成人している人もいるかもしれません。

 潜在的な色覚障害者にも分かりやすく、災害時でも誰でも見やすいものをと、今年の4月より日本工業規格(JIS)もユニバーサルデザインカラーを取り入れた安全標識の図記号を改正しています。これにより、多様な色覚を持つ人々や訪日外国人を含め、多くの人々の安全の確保及び利便性の向上が期待されるとしています。

経済産業省HPより

 デザインありきの視点ではなく、ユーザー目線の視点。これを忘れてしまう事がデザインの失敗に繋がり、視覚的なバリアフリーを妨害してしまうのではないでしょうか。多くの人が使う事を想定した場合、マイノリティである障害を抱えている人の目線も忘れないようにしたいものですね。


<参考>
日本工業規格(JIS)を制定・改正しました(平成30年4月分)~安全色及び安全標識などのJISを改正~(METI/経済産業省)

<記事化協力>
ギャルさん(@BlackoolongteA)
株式会社石井マークさん(@ishiimark_sign)

(梓川みいな / 正看護師)

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