稀な疾患「急性散在性脳脊髄炎」とは
おたくま経済新聞 / 2018年5月11日 14時16分
稀な疾患「急性散在性脳脊髄炎」とは
声優の梅原裕一郎さんが入院、療養中であると、所属事務所の株式会社アーツビジョンが5月10日に発表しました。病名は、「急性散在性脳脊髄炎(AEDM)」。何だかよく分からない、怖い病気みたいな名前な上にあまり知られていないこの病気。報道でもこの疾患がどういったものかまで触れているものはあまりありません。この「急性散在性脳脊髄炎(AEDM)」とはいったいどんな疾患なのでしょうか。
■発症するきっかけは?どんな病気?
AEDMは主にウイルス性の炎症から起こる脳神経の異常ですが、ウイルスが体内に入った形跡がなくても発現する「特発性AEDM」も中にはみられます。成人の症例は数年に1人程度の頻度で学会で発表されるくらいの稀なものです。複数の成人の症例報告をみると、風邪の症状があった数日後にこの疾患を発症している人が多く、小児ではウイルス性の感染症の他、ごく稀にワクチン接種後にこの疾患を引き起こしている事もあります。
「わが国における15歳以下のAEDMおよびその周辺疾患(多発性硬化症を除く)の発症頻度は年間約60例程度、15歳以下の小児人口10万人あたり年間0.32であると推計されています」(国立感染症研究所HPより引用)
成人の発症頻度は統計なく不明ですが、ワクチン接種やウイルス性の感染症にかかりやすい小児でも年間の発症頻度が低い事から、かなり稀である事がうかがえます。
この疾患は感染後に発症が多くみられる感染後AEDMが小児に多く、特発性AEDMは若年成人に多い傾向があります。梅原さんの場合、既往歴や発症前の状態が明らかにされていないので発症のきっかけは不明ですが、発疹性ウイルス(麻疹、風疹、水痘・帯状疱疹など)、ムンプス(おたふくかぜ)ウイルス、インフルエンザウイルスに感染した後に発症することが多いとされています。他にEBウイルス、コクサッキーウイルス、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス等のウイルス、マイコプラズマ、キャンピロバクター、溶連菌などその原因となる感染症は多岐にわたります。
AEDMの主な症状として、高熱と項部硬直(後ろ頭から首の根元までが硬直する、髄膜刺激反応の一つ)や排尿困難、手足のしびれ、視覚異常など脳の髄膜の一部分に起こる炎症の部分で出現する症状が異なってきます。問診や診察、頭部CT・MRI、脳波や血液、髄液の検査などで鑑別しますが、他の疾患(感染性脳症や、特に多発性硬化症)と判別がつきにくい場合も多々あるようです。
(出典)朝倉書店 内科学第7版 p1848(国立感染症研究所HPより)強い炎症が広範囲で起こると劇症化となり命に関わる事もごく稀にありますが、多くは適切な治療を行う事で予後は良好となります。治療にはステロイド剤を大量に投与する「ステロイドパルス療法」が主な治療法として使われています。
この疾患はほとんどの場合、繰り返す事のないもので、完全に回復する事も多いとされています。
■ AEDMは防ぎようのない不慮の事故みたいなもの
このように、発症の原因が謎であったり、ごくありきたりなウイルス感染でも稀に起こる病気ですので予防はかなり難しいといえます。ウイルス感染を防ぐためのワクチンでも起こり得る事もありますが、それを恐れてワクチンを打たないでいると、今度はワクチンで防げるウイルス性の疾患が蔓延した時にこの疾患を含む合併症も多く出る恐れが非常に強いのです。AEDMを恐れてワクチンを打たないという考えは非常に危険です。
小児の場合、ワクチン接種後で発症したという事であればその疾患の鑑別法も治療法も確立されており、ほとんどの場合は完全に回復します。成人でも劇症化は滅多に起こらないものであり、ほぼ完全に回復します。滅多に起こらない事を恐れる前に、予防接種ワクチンを受けて感染症にかからない様にしておく事の方が非常に有益です。
<引用・参考>
国立感染症研究所 日本脳炎 Q&A 第5版(平成28年12月一部改定)、急性散在性脳脊髄炎
他症例報告等多数
(梓川みいな/正看護師)
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