エアバス後援のグライダー「Perlan 2」が高度2万3000m超えの世界記録を更新
おたくま経済新聞 / 2018年9月3日 17時4分
滑空中のPerlan2
2018年9月2日(現地時間)、南米パタゴニア上空で、エアバスが後援するグライダーによる高高度観測プロジェクト「Perlan Project II」において、与圧グライダー「Perlan 2」が自身の持つ記録を更新する、グライダーの飛行高度世界記録、7万6124フィート(約2万3202m)を樹立しました。現在、FAI(世界航空連盟)の記録認定待ちです。
高高度、成層圏における地球の大気とオゾン層の状態を調べ、気象の変化や気候変動についての手がかりを得るために計画された「Perlan」プロジェクト。なぜグライダーを使うかというと、動力を用いる航空機の場合、どうしてもその排気ガスの温度や、成分が計測データに混入する可能性はゼロとは言えません。また、気球も熱気球なら熱を、ヘリウム気球なら内部のヘリウムが漏れ出して観測データに影響を与える可能性があります。外部の環境に影響を与えないため、動力を持たないグライダーが選ばれたのです。
成層圏まで上昇するため、使用するグライダー「Perlan 2」は、操縦席が与圧された唯一のグライダーとなっています。実用上昇限度は9万フィート(2万7432m)。これはアメリカ軍の偵察機U-2の作戦飛行高度である8万2000フィート(2万5000m)をも上回るもの。通常の旅客機が飛行する高度の2倍以上にあたります。
自分で動力を持たないグライダーが、どうやって成層圏まで上昇するかというと、パタゴニアのアンデス山脈を偏西風が吹き上がって発生する「山岳波」と呼ばれる気流と、南極に存在する「極渦(ポーラーサイクロン)」によって発生する上昇気流の複合作用を利用します。この上昇気流にうまく乗ることで、機体を成層圏まで導くという訳です。その過程で、地上や人工衛星からでは観測が難しい、この気流の実態も一緒に観測する、という目的もあります。
Perlan 2滑空のイメージジム・ペインさんとモーガン・サンダーロックさんが乗ったグライダー「Perlan 2」は、2018年8月26日、Grob社の高高度観測機G550に牽引されてアルゼンチンのパタゴニア地方にあるエル・カラファテの飛行場を離陸し、高度4万2000フィート(約1万2800m)で切り離されて滑空を開始しました。
アンデス山脈の山岳波をうまく捕まえて上昇に移り、2017年9月1日に同じ機体・同じパイロットの組み合わせで記録したグライダーの高度記録5万2221フィート(GPS計測値)を突破。6万フィートの大台を超え、最終的に気圧高度6万2000フィート(GPS計測値は6万669フィート)を超えるところまで到達しました。これは、気圧が低下して水の沸点が下がり、体温(摂氏37度)で血液をはじめとする体液が沸騰する高度を表す「アームストロング点(5万9000~6万2000フィート付近)」を超える高度。与圧なしでは到達できない高度でした。
そして8月28日。同じ高度で牽引機から切り離されたPerlan 2は、上昇気流に乗って上昇開始。ほんの2日前に到達した6万2000フィートを超え、6万5000フィートも突破。気圧高度6万5605フィート(1万9996m)に達しました。この高度に約1分とどまった後、機体は滑空しながら高度を下げ、2時間あまりに渡ったフライトを終えて着陸しました。
高度記録への挑戦はなおも続きます。9月2日(日本時間3日未明)、パタゴニアを離陸したPerlan 2は再び滑空を開始。これまでより強い、162ノット(秒速83m:時速300km)の上昇気流に乗ってぐんぐん高度を上げ、わずか30分後には高度6万フィートを超えました。ついには7万5000フィート(約2万3000m)を超え、気圧高度7万6124フィート(約2万3202m:GPS高度7万4295フィート/約2万2645m)まで到達しました。こちらの記録もFAIの正式認定待ちです。
飛ぶごとに高度記録を更新しているPerlan 2。今回の「Perlan Project II」では、9月中旬までフライトが予定されています。風の力だけで高度20km以上まで上昇できるとは驚きですが、このプロジェクトの最終目標は実用最高高度である9万フィート(2万7432m)にできるだけ近づくこと。どこまで高くグライダーが飛翔できるのか、公式サイトや公式Twitterアカウント(@PerlanProject)に注目です。また、フライト中はリアルタイムで様子がわかる「バーチャルコクピット」で、データを確認できるので、興味のある方はご覧になってください。
Image:Perlan Project
(咲村珠樹)
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