イギリスの名機スピットファイアが日本の空を飛ぶ!「シルバースピットファイア」世界一周飛行
おたくま経済新聞 / 2018年9月25日 10時49分
「シルバースピットファイア」完成予想図(Illustration by French artist Romain Hugault for IWC))
第二次世界大戦でドイツ軍の爆撃機や戦闘機からイギリスを守った戦闘機、スピットファイア。「大英帝国の誇り」ともいわれる、楕円翼の美しいプロペラ機です。そのスピットファイアが2019年の秋、日本へやってきます。機体をピカピカの銀色に磨き上げた、その名も「シルバースピットファイア」がイギリスから世界一周飛行を実施。その途上で日本に立ち寄るというのです。
2018年9月15日(イギリス時間)、意欲的なプロジェクトが発表されました。第二次世界大戦で活躍したイギリスの戦闘機、スピットファイアが世界一周飛行に挑むといいます。これまで誰も試みてこなかった、第二次世界大戦中に使われた単座戦闘機での世界一周。シルバークロームに磨き上げられた機体で4万3000km以上を飛行するという挑戦「シルバースピットファイア-The Longest Flight(最長飛行)」です。
「シルバースピットファイア」による世界一周飛行を行うのは、スティーブ・ボールトビー・ブルックスさんとマット・ジョーンズさん。二人はイギリスのグッドウッド・エステートにある、スピットファイアのパイロットを養成する世界唯一の公式飛行訓練校、「ボールトビー・フライト・アカデミー」を経営しています。ここではパイロット資格保持者を対象に、スピットファイアの操縦技術を習得するための複座型スピットファイア(TR9)を使用した飛行訓練を行なっています。また、パイロット資格を持たない一般の人向けには、訓練用の複座型スピットファイアでの飛行体験、そしてスピットファイアのフライトシミュレーターでの操縦体験を実施しています。
飛行に使用される機体は、1943年10月24日に自動車で知られるモーリス社のキャッスル・ブロムウィッチ工場(スピットファイアのメーカーであるスーパーマリン社の工場が空襲で破壊されたため、生産施設が1940年に移された)で誕生した、スピットファイアMk.IXのシリアルナンバー「CBAF IX 970」。イギリス空軍での登録記号「MJ271」です。
イギリス空軍に引き渡されたMJ271は、調整を終えた1944年2月からデトリング空軍基地の第118飛行隊に所属し、主にフランスにあるV1飛行爆弾の発進基地を攻撃するB-17やB-24、B-26爆撃機の護衛(直掩機)を務め、ドイツ軍の迎撃機と戦いを繰り広げました。第118飛行隊時代には、全部で16回の出撃を経験しています。
その後、MJ271は第132「ボンベイ」飛行隊に配置換えとなり、サセックスのフォード空軍基地を本拠として1944年4月から5月にかけ、合計28回の出撃を行なっています。主な任務はフランス海岸地方を爆撃するB-25やB-26などの護衛(直掩)。そして1944年5月9日夜、降着装置のトラブルにより、フォード空軍基地に胴体着陸し、機体を損傷してしまいます。
胴体着陸により損傷したMJ271は、5月15日に修理のためハンプシャーのハンブルへ送られ、7月24日には修理が完了しました。いくつかの部隊を経由したのちの1944年11月23日、オランダのフォッケル飛行場(現:オランダ空軍フォッケル基地)に駐留していたカナダ空軍の第401「ウエストマウント」飛行隊で実戦に復帰します。ここでは戦闘爆撃機として使用され、10回の急降下爆撃任務をこなしたのですが、重い爆弾を装備して急降下を繰り返したため、機体構造に負担がかかりすぎ、12月24日付で再び修復のため、カナダ空軍第140修理回収隊に移されました。
年が明けた1945年6月21日、イギリス空軍ハイ・エアコール基地の第29整備隊に移ったMJ271は、オランダ空軍への供与機とされました。1945年11月25日付でオランダ空軍に移され、今度はオランダ空軍の登録記号「H-8」、のちに「3W-8」となります。退役後に博物館入りしていたのですが、再び空を飛べる状態にするべく、イギリスのダックスフォードに運ばれ、スピットファイア修復のプロたちの手によって部品一つ一つの単位にまで分解して、念入りに修復作業が2018年現在も続けられています。もちろん、現役当時に搭載されていた武装は主翼から降ろされ、平和な空を謳歌し、美しい工業デザインを未来へ伝えるための飛行機へと生まれ変わるのです。修復が終わった際には、無塗装のジュラルミン素地を磨き上げた銀色のクローム仕上げとなり、登録記号もイギリスの民間機を表す「G-IRTY」となります。
2018年9月現在のスケジュールでは、ノルマンディ上陸作戦から75周年となる2019年4月~5月に修復を終えて試験飛行を実施する予定。5月にイギリス国内をめぐる飛行を行ったのち、6月~8月にかけてエアショウで展示飛行を行います。そしてパイロットのジョン・ジレスピー・マギーが綴った詩「ハイ・フライト」の中で、バトル・オブ・ブリテン「最も過酷な日(ザ・ハーデスト・デイ)」と表現された8月18日を目標に(天候等の影響で前後する可能性あり)、世界一周飛行へと旅立つ予定となっています。
飛行ルートは、イギリスからアイスランド、グリーンランドを経由して大西洋を横断し、カナダ、アメリカへ。アラスカからベーリング海峡を渡ってシベリアに入ると、日本、韓国、中国(交渉中とのこと)、香港を経てタイ、ミャンマー、バングラデシュ、インド、パキスタン、UAE、ヨルダンとアジア諸国を巡り、エジプトへ。エーゲ海を渡ってギリシャに入ると、イタリア、フランスを経由して、2019年12月にイギリスへ帰着する予定となっています。
この挑戦には、パイロットウォッチの「マーク」シリーズで知られるスイスの時計メーカー、IWCがメインスポンサーとなっています。IWCの「マークXI」パイロットウォッチは、1981年までイギリス空軍の公式採用品となっていた歴史があり、同じイギリス空軍の歴史に残る名機・スピットファイアの冒険にふさわしいパートナーと言えるかもしれません。このほかにイギリス政府の「GREAT Britain」キャンペーン事務局や、2018年に創設100年を迎えたイギリス空軍、イギリスの新聞「テレグラフ」などもプロジェクトを後援しています。
現在のところ、「シルバースピットファイア」がいつ頃、日本のどこへ立ち寄るのか、公式なアナウンスはなされていません。プロジェクトの進捗状況は、これから公式サイトで徐々に明らかになっていく予定です。
情報提供:IWC
(咲村珠樹)
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