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テツの夢「ウェディングトレイン」幸せ行きの列車が越後路を走った日

おたくま経済新聞 / 2018年9月26日 16時51分

テツの夢「ウェディングトレイン」幸せ行きの列車が越後路を走った日

ブライダルトレインの表示を指差すかつかれいさん

 自分のために列車を走らせる。鉄道ファンにとっては一つの夢です。しかもそれが、自分の結婚式だとしたら……。そんな夢を実現した人がいます。2018年9月9日朝、新潟県のJR柏崎駅に見慣れない列車の表記が現れました。9時33分発「ウェディングトレイン」幸せ行き。この列車の主役である鉄道ファンの新郎、かつかれいさん(@nansen37)にその経緯を伺いました。

 かつかれいさんは鉄道写真撮影を趣味とする、いわゆる「撮り鉄」。地元である柏崎を中心に、主にJR信越線やJR越後線を走る国鉄型車両、115系電車を撮影しています。115系の鉄道写真では、ファンの間でも知られた存在です。

豪雪の中を走る旧新潟色115系N37編成(撮影:かつかれいさん)
こいのぼりと国鉄色115系(撮影:かつかれいさん)

 鉄道にあまり詳しくない方に説明すると、115系電車は主に勾配線区や寒冷地用として1963年デビューした近郊型直流電車。きつい登り勾配に対応するためモーターの出力を強化し、逆に下り勾配に対しては車でいうところのエンジンブレーキである「勾配抑速ブレーキ」を装備しています。また、雪の多い寒冷地に対応するために、屋根上にある車内換気用の通風器は雪や冷気を遮断できるようになっており、モーター冷却用の空気取り入れ口に、雪を巻き込んでダクトを塞がないための雪切り室(車両端の窓横にあるルーバー)が設けられた車両もあります。現在は老朽化から新型車両への置き換えが進んでおり、JR東日本では新潟地区で40両(3両編成7本)が最後の活躍をしている状況です。

黄金色のススキと115系(撮影:かつかれいさん)
湘南色の115系N38編成(撮影:かつかれいさん)

 そんなかつかれいさんが奥様との結婚式に際して「ウェディングトレイン」を走らせるきっかけになったのは、2017年の12月のこと。新潟県の当間高原にあるリゾートホテル、あてま高原リゾート ホテル ベルナティオが企画した模擬ブライダルで、長岡〜越後水沢の区間をキハ110系気動車2両編成による臨時列車が走りました。この臨時列車の撮影をしに行ったかつかれいさん、当日夕方のニュースで列車を使った模擬ブライダルの話題が紹介され、実施してみたいカップルを募集していることを知り、ご友人の勧めもあって応募することに。

 あてま高原リゾート ホテル ベルナティオ側がJRへの申請関係を担当するとのことで、ホテルのブライダルプランナーと「ウェディングトレイン」のプランを詰めていきました。出発駅は新郎、かつかれいさんの地元である柏崎駅。新郎と出席者が乗った列車は、信越線を通って新婦の地元である長岡駅へ。ここで花嫁と新たな出席者が列車に乗り込みます。長岡から宮内まで1駅引き返したあと、列車は上越線に入り、越後川口から飯山線へ。そしてホテルの最寄駅である十日町駅が終点となります。列車の扱いは、団体旅行用の貸切臨時列車(団臨)というもの。

 使用する車両は、今回のウェディングトレイン運行ルートと重なるJR東日本の観光列車「越乃Shu*Kura」(上越妙高~長岡~十日町)用の車両(気動車)を使う案もあったそうですが、1編成しかない車両の運転スケジュール(2018年は3月〜11月の金・土・日曜日に運行で、平日に車両整備)から、JR側から貸し出しは厳しいとの回答が。結局、模擬ブライダル同様、新潟県の新津運輸区に所属するキハ110系を使用するという形で話は進んでいきました。

 そんな中、2018年6月になってウエディングプランナーさんから、使用する車両がキハ110系から国鉄型気動車のキハ47形に変更になったという知らせが、かつかれいさんのもとに届きます。JR移行後30年を過ぎ、老朽化で数を減らしていることもあって、鉄道ファンにとって特別な存在である国鉄型車両での運行。車両に関しては特にリクエストはしていなかったので、「棚からぼた餅状態(かつかれいさん)」の喜びとなりました。

 そして迎えた9月9日。柏崎駅の1番線に「ウェディングトレイン 幸せ行き」キハ47形2両編成(キハ47 522+キハ47 513)が入線します。車両は、もともと鉄道ファンではなかった新婦(現在では一緒に撮り鉄を楽しむようになったとのこと)お気に入りの「旧新潟色」。JR移行直前の国鉄末期、新潟地区の車両に採用されたもので、白地に青の窓ライン、赤の細ラインの側面デザインで、車両の顔に当たる前面には、青の運転席窓ラインと3本の細ライン、下部に赤の細ラインが施されており、青い細ストライプが猫のヒゲのように見えるためファンから「青ひげ」とも呼ばれるデザインです。

 ホームでの記念撮影用にヘッドマーク(寝台特急「彗星/あかつき」のデザインがモチーフ)、そして車内には週刊誌の広告風にデザインされた結婚式の概要が掲示されていました。列車のホスト役となる新郎のかつかれいさんには、特製の車掌帽も。

ホームでの撮影用ヘッドマークと車掌帽、車内広告(画像提供:かつかれいさん)

 柏崎駅を9時33分に発車した「幸せ行きのウェディングトレイン」は、花嫁の待つ長岡駅を目指して信越線を走ります。沿線にはこの列車を撮影する鉄道ファンの姿も。中にはスーツ姿の人も混じっているのですが、このあとホテルで開かれた披露宴に出席する予定の人だったとか。こんな時にも撮り鉄……と思うなかれ。友人としては記念となるいい写真を撮って、新郎新婦にプレゼントしたいですもんね。

沿線で撮影する人々(撮影:かつかれいさん)

 長岡駅に到着したウェディングトレインは、レッドカーペットで待つ花嫁さんを迎え入れます。新たな乗客を乗せ、列車はディーゼルエンジンの音を響かせながら上越線を走り始めました。越後川口から飯山線に入った時には車内が湧いたそうです。新郎は車掌室でホスト役を務め、車内アナウンスまで担当したそう。そして終着地である十日町駅では、駅長さん立ち会いのもと結婚式が執り行われました。

花嫁とホームでの撮影用ヘッドマークをつけたブライダルトレイン(撮影:かつかれいさん)

 結婚式を済ませた新郎新婦と出席者は、披露宴会場である「あてま高原リゾート ホテル ベルナティオ」へ。こちらでも非常に盛りがったそうですよ。末長くお幸せに!

 このような「貸切列車で結婚式」というものは、鉄道会社などが企画していることがあります。それに応募するのが近道ですが、ウエディングプランナーや旅行会社と協力して、独自に結婚式の団体列車を走らせる(扱いは「貸切列車による企画旅行」となる)ことも不可能ではありません。やはり通常のダイヤや車両運用計画に影響のない形で走らせなければならないため、全てが希望通りに実現するわけではありません。しかし、カップルの熱意とそれ相応の準備期間と資金、そして招待を予定している周りの方の理解を得られるのであれば、チャレンジしてみるのも悪くないと思いますよ。

<記事化協力>
かつかれいさん(@nansen37)

(咲村珠樹)

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