骨董屋が入手した「少女の手紙」が昭和を物語る
おたくま経済新聞 / 2018年10月5日 17時12分
![骨董屋が入手した「少女の手紙」が昭和を物語る](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/otakuma/otakuma_20181005_06_0-small.jpg)
山となった少女の手紙
授業中に友達同士で手紙を回す。少女時代にそんな経験をした人も多いと思います。いつしかその手紙もどこか行ってしまって忘れてしまいがちですが、中にはちゃんと保存してる人もいるようです。大事に保管された「少女の手紙」を入手した骨董屋さんが、その一部をTwitterで紹介していました。
「少女の手紙」を紹介したのは、骨董商を営むTwitterユーザーのpieinthesky(@pieinthesky4)さん。主に京都の東寺や大阪の四天王寺、名古屋の大須観音などで開かれる骨董市に出店しているそうです。取り扱うのは大正~昭和にかけての写真や絵葉書、パンフレット、マッチ箱や容器包装などの「紙もの」と呼ばれる分野。その当時の大衆文化が判る、非常に面白い品物です。広告や容器包装などは、デザイナーさんが参考にすることも。
少女の手紙の場合、直接買取するよりも家を解体した際に出る不用品を処分する過程で、市場に出てくることが多いんだとか。骨董屋さんでもそれぞれ個性があり、自分のお店で取り扱わない品物は、市場を通じて他の骨董屋さんに売り、また自分の取り扱いたい商品を仕入れているそうです。
入手した際は、品物の内容を調べるために一通り目を通します。紙くずのように見えても、そこに何かが記されていれば、その時代を感じる手がかりになるかもしれません。書かれている内容とは別に、少女の手紙は便箋など「かわいい」ものを使ったりしていて、それもまた面白みを感じる部分で人気も高いそうです。
紹介された箱入りの手紙は、1971年当時高校生だった少女の書いたもの。内容は日常会話の延長で、特に大きな出来事が記されているわけではありません。今でいうSNSでの発信に近いものがあります。しかし16組と書かれていますが、ものすごい数のクラスですね。この当時高校生ということは、第1次ベビーブーム、いわゆる「団塊の世代」の子供に当たる感じでしょうか。「あまいのダ」という書き方、当時の「乙女チック」と称された少女まんがによく出てきた表現です。
ほかにもpieintheskyさんは、少女の手紙をいくつかTwitter上で紹介しています。その中で興味をそそられたのは、八重桜のマークが入った便箋にしたためられた、年代物の手紙。これは女子学習院の院章(1933年制定)です。どうやら手紙の持ち主(宛名に「泰子様」とあるので泰子さん)は、かなりのお嬢様だったようです。内容に「学徒勤労」という言葉が入っているので、戦争末期のようですね。内容は泰子さんの同級生か知り合いとおつき合いがしたくて、その仲介をしてくれないか、というもの。
差出人がその人を好きだと知っているのは、南組の鷹司靖子さん(おそらく鷹司信熙男爵の次女。のちに文部大臣を務めた鎌田栄吉の孫、義郎と結婚する)ということで、もしよかったら返事は鷹司さん経由で渡してくださいとあります。また、先方の連絡先を教えてほしいとも書いてあり、この差出人の住所と電話番号が書いてあります。結びは日比谷公会堂で今月23日に開かれる音楽会に泰子さんは行きますか?というもの。末尾の「ごめん遊ばせ ごきげんよう」が女子学習院のお嬢様らしさを表していますね。
また、そのほかには、泰子さんに「お姉様」になって欲しいというものも。いわゆる「マリア様がみてる」などに見られる、友愛の印として結ばれる姉妹関係「エス(Sisterの頭文字)」をお願いする手紙です。当時は吉屋信子の少女小説など、このような関係を描いた作品が多くあり、その世界に憧れる少女が多かったようです。
この手紙にも「空襲」の文字が見えることから、書かれたのは戦争末期。そして最後の「遠く塩原から」とあるので、差出人がいるのは当時女子学習院の生徒が疎開していた栃木県塩原のようです。疎開していたのは初等科4年から中等科2年までの計212名。おそらくこの差出人(美彌子さん)は中等科の1年生か2年生といったところでしょうか。
別の手紙には、一緒に下校して嬉しかったということが書いてあります。この当時女子学習院は赤坂区青山北町(現:港区北青山。秩父宮ラグビー場)にあったので、そこからの帰り道ですね。「此の次は私が赤坂見附から帰るわ」とあり、そのあとで「坂町」とあるので、当時泰子さんは赤坂区新坂町(現:港区赤坂)あたりに住んでいたことがうかがえます。
そしてここにも空襲の影が。「16日も17日も」ときて「今日もまた来たわね」とあるので、この手紙が書かれたのは1945年2月19日であることが判ります。「灰が一ぱい降って来たので、せっかくの雪がごま塩みたい」とおどけて書いてありますが、この日の空襲は赤坂区をはじめ隣接する四谷区や京橋区など東京の広い範囲が狙われて、163人の死者が出ています。おそらく多くの人が犠牲になっているだろうことは判った上で書いているでしょうから、そのことを考えて読むと、当時の少女の気持ちが想像できるかもしれません。
と、たったこれだけの手紙でも、当時の色々なことが判ります。書いた時は意識していなくても、年月が経つと歴史を物語るようになるんですね。もし昔やりとりした手紙を保存しているなら、久しぶりに見てみると、当時のことを思い出すかもしれません。
少女の手紙あったらぜひ~♪と
いろんな業者に声かけてたら、こんなのきたw
女子が授業中によくノートの端とかに
書いて回してたのあったじゃないですか♪
あれの山w
うん、内容はほぼないw
lineの会話みたいなもんだよね
71年に女子高生をしてた人のお手紙♪ pic.twitter.com/EMJqwlvvnp
— pieinthesky (@pieinthesky4) October 3, 2018
記事化協力:pieintheskyさん(@pieinthesky4)
(咲村珠樹/宮崎県民俗学会員)
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