日本初の試み 宮崎県小林市長に「シムシティ課」の話を聞いてみた
おたくま経済新聞 / 2018年10月18日 12時0分
小林市の宮原義久市長
スマホでまちづくりを体験できるゲーム「シムシティ ビルドイット」と、実在の自治体である宮崎県小林市とのコラボが実現。市役所には「シムシティ課」が誕生し、地元の県立小林秀峰高校の生徒たちとともに、ゲームを通じて「まちづくり」をするという、今までにない形の“地方創生”を目指すことになりました。そこで、小林市の宮原義久市長をはじめ、市役所の皆さんに今回のコラボについてお話をうかがってきました。
宮崎県の南西部に位置する小林市は、霧島山地を間近に臨むロケーション。宮崎牛や、めろめろメロン、「太陽のタマゴ」で知られる完熟マンゴーといった農産物をはじめ、宮崎銘菓として知られるようになった「チーズ饅頭」の発祥の地とされるほか、春のアイスランドポピーや秋のコスモスで知られる生駒高原、そしてチョウザメの養殖と国産キャビアも知る人ぞ知る存在です。
その小林市がゲーム「シムシティ」と日本の自治体として初めてのコラボを実施。市役所内に「シムシティ課」を設け、地元の高校生たちと“まちづくり”に取り組むことになりました。市長をはじめ、職員の名刺もシムシティ仕様。ゲーム「シムシティ ビルドイット」の中にも、小林市にちなんだアイテムが登場しています。
夏祭り
霧島岑神社をモデルにした神社
六月燈祭りをモデルにした灯篭流し
これまでにも、外部の人から聞き取り不能といわれる薩摩系の方言「諸県弁(もろかたべん)」を題材とした動画など、攻めた広報を行ってきた小林市。今回ゲームとコラボしたいきさつとその内容について、宮原義久市長と、市役所「シムシティ課」の安楽究さん、柚木脇大輔さんにお話をうかがいました。
――今回「シムシティ」とのコラボに至った経緯をお聞かせください。
宮原市長「エレクトロニック・アーツ社が「シムシティ ビルドイット」のプロモーションの一環として、連携する自治体を探す中で、小林市が色々なプロモーション活動をしているということで打診がありまして。市長の私自身も出演する、ということから市役所内で協議を行いまして……、地方創生課の安楽課長らが非常に意欲的で、それではやってみようか、という話になったわけです」
市長の名刺もシムシティ仕様
名刺の裏側は家の形
――意欲的だった理由みたいなものはありますか?
柚木脇さん「まず、ゲームだった、というのが大きいかもしれないですね。これまでも色々なPR動画などを作ってきましたが、ゲームが入り口で、なにか“まちづくり”について考えるということは考えたことがなかったものですから。お話をいただいた時。市長に動画に出演するということも含めてお伺いを立てたところ、即断で「よし、やろう」と決断してくれましたので、これは面白い取り組みになるんじゃないかと思いました」
安楽さん「我々はもともと「地方創生課」なんですが、地方創生というのは自治体間の競争が働く分野でして。横並びからの脱却を図るエッジの効いた事業などが求めれるんじゃないか、ということから、ゲームを起点にして“まちづくり”に目を向けてもらう……という点で、多くの人に興味を持ってもらえるではないか、という期待をしつつ、取り組みを進めている感じです」
――今回は地元の県立小林秀峰高校の生徒さんと一緒に取り組む、ということで、今までのPR動画のように“外に対する発信”だけではなくて、市民、特に若い層にもアピールすることを意識されたのかな、と思ったのですが。
柚木脇さん「今回、3年生の生徒さんたちにワークショップに参加してもらうんですけども、3月になると卒業して外へ出ていってしまうことが多いものですから、その前にもう一度“小林市”を考えてもらうということですね。郷土愛というようなものをもう一度はぐくめないか、ということと、いろんな業種の方が協力してくださるので、キャリア教育という側面もあります。そして我々は行政側の人間ですから、ゲームを通じて「“まちづくり”ってどういうことなんだろう」ということを広く意識してほしいんですね。今は“まちづくり”に対して、非常に積極的に関わるコアな人と、逆に全く関心がないという人とにに分化してるような状況がありまして。なので、選挙権も持つようになる18歳という年齢から、意識してもらえたらな、と期待しています。もちろん、どのくらい考えるかというのは、生徒さんそれぞれによって違うとは思いますが、入っていきやすい“ゲーム”というものを得られたのは、すごく大きいと考えています」
――高校を卒業して進学する場合、小林からは遠くて通えないのでどうしても外に出てしまう……という事情もある分、その前の段階で一度“ふるさと”についてどのように思うか、と具体的に考えるきっかけに「シムシティ」があるという感じなんですね。
宮原市長「やっぱり、一回この取り組みを通じて“まちづくり”に関わる、ということになるので。ずっとこの小林に居続ける、というのは、外部の刺激もない分成長も望めないと思うので、一回外に出てみて、そこから地元を見つめると、高校時代に“まちづくり”に関わった経験が、地元に帰ってくるなり、また自分で何かを興すなりした時に生きてくるんじゃないかと思うんです。また、政治とか“まちづくり”に関わる動きが新たに生まれてくるといいな、という思いもあります」
――政治というと、つい国政から地方自治……というトップダウンの形で見がちですが、逆に地方の延長線上に国政があるんだ、というボトムアップ式の見方を提供するという感じでしょうか。
安楽さん「興味を持ってもらわないと、気持ちは動かないと思うんです。それが今回「シムシティ ビルドイット」というゲームを通して、そういう気持ちになるのであれば、本当に新しいことが起きるんじゃないかと思います」
――実際に関わっている生徒さんたちの反応はどうなんでしょう?
柚木脇さん「本格的なワークショップは来週から始まっていくことになってるんですが、これまでに3週くらい、まちづくりってどういうことなのか、とか、白い紙に自分の思う小林市のありかたみたいなものを地図のように書いてもらう、またはこの街にキャッチコピーを付けてみる、ということをしてみました。出来上がったものを見てみると、理想の街というのは生徒さんごとに本当に様々ですね。田舎のままがいい、という子もいますし、逆に中心部に大きなショッピングセンターとか、遊園地を描いてる子もいまして。こういうことをきっかけに、まちづくりに関して、どういう街がいいのか、ということを具体的に考えるようになってくれるんじゃないか、という期待を感じています」
――市長ご自身も「シムシティ ビルドイット」をプレイされたと伺ってますが、実際の市政運営と違って、一から街をつくるという点はどう感じましたか?
宮原市長「地方が抱えてる問題って、大変なんですね。関わってほしいとは思うんだけど、いろんな問題がありすぎて、なかなか難しい面がありますよね。実際に市政を運営している側としては、財源的なものもあるのでゲームの世界とは少しだけ違うところもあって、例えば、市町村合併というのは国の方針で動いてきた部分もありますし、そういったことから逃げることはできないので、そこでどうするか、というところは大変な面もありますね。国からお金(地方交付税交付金や補助金など)がどんどん来るわけでもなくて、自分のところで何とか捻出しなければいけない、というところもありますから。生徒さんたちには、街をつくるだけではなくて、その後ろにある財源の確保などといった部分にも目を向けてもらうきっかけになればな、と思います」
――小林市には既存の観光地だけでなく、国産のキャビアなどといった新たな産業資源も出ていますね。
宮原市長「いいものはいっぱいあるんですよ。でも、中にいる人たちって、それが“当たり前”だから、価値に気づいてないって面があるんです。和牛にしてもトップレベルのいい肉質のものが生産されているんだけども、ブランド力が不足しているものですから、それを高めていきつつ、地域の底上げもしていかなきゃいけないと思っています。宮崎県内では産品が知られているんですけども、それをもっと全国の人に認知してもらう努力をしていかなちゃいけない。少なくとも九州の中での地位を確立していきたいと思っています」
――地元の高校生とともに行う、これからの「シムシティ課」の活動についての展望をお聞かせください。
宮原市長「ゲームを通じて、既に動画の撮影も行っているんですが、暑い中にもかかわらず、生徒さんたちは一生懸命やるんですよ。だから、関わってくれることで“まちづくり”に対して意識してくれているのかな、と。暑くても休みの日でも積極的に参加してくれているので……。先ほども言いました通り、小林市の外に出ていったとしても、改めて地元を見つめなおす機会になってくれればと思いますし、政治の面にしても「興味ない」と思わずに、身近なところから出発しているんだ、とゲームを通じて考えてくれればと思っています」
写真撮影の際には「うまく笑えないんだよね。すぐ真顔の不機嫌そうな顔になっちゃう。」といいつつも、非常に気さくで親切な面のある市長さんでした。小林市「シムシティ課」の取り組み、新しい“地方創生”の形となるか、注目です。
取材協力:宮崎県小林市
(取材:咲村珠樹)
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