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大正ロマンの映画劇場で懐かしの映画を観るぜいたく 福島の「ニュー・シネマ・パラダイス」

おたくま経済新聞 / 2018年11月16日 12時47分

大正ロマンの映画劇場で懐かしの映画を観るぜいたく 福島の「ニュー・シネマ・パラダイス」

本宮映画劇場_06

 福島県本宮市には、日本でも唯一無二の築100年を超える映画館があります。その名も「本宮映画劇場」。レトロな雰囲気を漂わせるピンク色の外観が、その歴史を物語っているようです。

 大正3年に設立された当初は映画館としてではなく、公会堂のような役割を果たしていた施設だとか。当時は、プロレスや選挙演説、芝居や踊りなども行われており、場内の2階、3階の最大1000人まで収容できる桟敷席には、客が寿司詰め状態になるほどだったそうです。現在では2、3階席は壁でふさがれ、当時の賑わいは影を潜めていますが、そこには佐田啓二、石原裕次郎、宇津井健、芦川いづみなど往年の銀幕スターの顔写真や、懐かしい映画のポスターが壁一面に貼られていました。



 年季の入った木製の椅子に、うす暗い場内、黒々とした昔ながらのカーボン映写機。そんなレトロな映画館が100年以上に渡り存在し続けられたのは奇跡に近いこと。1963年に閉館後、45年もの時を経て2008年にみごと復活させた本宮映画劇場の館主、田村修司さん。父親から受け継いだ映画館を昭和38年にやむなく閉館したそうですが、その時「いつか必ず再開する」と心に決め、定年過ぎまで自動車販売の仕事をしながら、定期的に建物や各種機材の保全に努めていたそうです。そんな田村さんも御年82歳。

 「よく「2,3分、映画やって」と言われるけど、2分も3分も2時間も…準備する時間は同じなのよ。フィルム映写するにはいろいろ準備あんのよ」と真剣な表情で準備をされている田村さん。今でもメンテナンスをしている映写機の作業の一コマを写したツイートが印象的でした。そんな「本宮映画劇場」の館主兼映写技師でもある田村修司さんの娘さんの優子さんに取材をさせて頂きました。

館主曰く
『よく「2,3分、映画やって」
と言われるけど、2分も3分も2時間も…準備する時間は同じなのよ。フィルム映写するにはいろいろ準備あんのよ』
というわけで、来週団体様ご来場なので準備中#本宮映画劇場 #フィルム #film #映写技師 #昭和 #職人 #映画館 #映写機 pic.twitter.com/3ycMajcpSz

— 本宮映画劇場 (@motomiyaeigeki) November 7, 2018

――現在は、年にどのぐらいカーボン式映写機は稼働しているのですか?

 メンテナンスを日々しておりますので、いつでも上映できる状況です。数は数えてませんが、上映会や団体旅行、イベント時にお願いされた時など上映をします。

――現在、本宮映画劇場のスタッフは何名いらっしゃいますか?

 館主の父と娘の私だけです。

――そもそもカーボン映写機は、どのような仕組みで映像として投影されるのでしょうか?

 フィルムを光に当て、その透過光をレンズを用いてスクリーンに映すというところです。その光を出すものが、今ではキセノンランプという電球なのですが、うちではキセノンランプができる前に主流だったカーボン棒を使って光を発するタイプで、このカーボン棒を使った映写できる所は現在日本でほぼうちだけとなりました。

――Twitterで、2分の映画も2時間の映像も準備の作業時間は変わらないという言葉が印象的だったのですが、具体的にはどのような準備をされているのでしょうか?

 上映することは、すぐ出来なくもないのですが、フィルムをチェックしたり、映写機の状態を確認したり、場内を掃除したりと…丁寧に接客をしたいという気持ちからになります。フィルムチェックを怠ると、フィルムが切れたりアクシデントが発生しやすく、無料だからといっても、お客さんには「やっぱり古いから」など言われないようにしたいという、館主の職人魂といえると思います。

――本宮映画劇場では、現在どのような映画が上映されているのですか?

 手持ちのフィルムのいい場面を館主が編集してお見せしています。

――遠方からこられるお客様も多いと聞きました。映画を見られた方の反応はどうでしたか?

 古い映写機で見る映画の良さを感じてくれる方が多いです。デジタルのように、キレイすぎる映りではないですが、あたたかみがあると言ってくれます。日本全国、古い映画館、劇場がなくなっているので、みなさんとても喜んでくれます。

――これから本宮映画劇場をどのようにしていきたいですか?

 できるかぎり守っていけたらと思います。

 カーボン式映写機は、光源が現在主流のキセノンランプではなく、2本のカーボン(炭素)棒を電極として用いる「カーボンアークランプ」というもの。これは電極の間で放電現象を起こし、その際に発する光を利用しているのですが、同時に発する熱で少しずつ電極のカーボン棒がうっすらとした煙を出しながら消耗して短くなっていき、電極の間が離れて放電が起こらなくなってしまうという欠点があります。このため、上映中も放電を維持できるようカーボン棒の間隔を常に調整し続けるという技術が必要。まさに「映写技師」のテクニックを駆使する映写機なのです。

 また、キセノンランプのように電極がガラスに封入されている「電球」ではないため、上映中は映写機の周辺にかなりの熱が出て、特に可燃性のセルロイドを使っている古い映画フィルム(1984年に東京国立近代美術館フィルムセンターで火災が発生し、収蔵していたセルロイド製の貴重な映画フィルムが多数焼失したことがあります。現在は難燃性のポリエステル製フィルム)の場合、引火しないよう注意する必要もあったといいます。もちろん、映写室の中はかなり暑くなるので、夏は汗だくになってしまうとか。

 最後に「閉館後も、田村さんは定年を迎えられるまで自動車販売をしながら、映画館をキレイに維持してこられ、70歳を迎えた際に上映会を開かれたとのことですが、それまでに挫折しそうなことはなかったのでしょうか?」と伺ったところ「たぶんないです」とのこと。館主の田村さんは、つまらない映画でもお客さんが喜ぶように見どころのある場面を自分でフィルムを編集して作ってしまうそうです。まるで映画「ニュー・シネマ・パラダイス」のラストシーンのようなお話ですね。貴重なものなのにそんなことしていいの? と、ちょっと筆者的には心配してしまいますが……。映画を通して、これからもたくさんの方の思い出に残る映画を上映し続けてほしいと思います。

<取材協力>
本宮映画劇場(Twitter:@motomiyaeigeki/Facebook:@motomiyaeigeki)

(黒田芽以)

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