昭和の文化遺産、閉館した「秘宝館」展示物たちのその後
おたくま経済新聞 / 2018年12月5日 15時52分
「元祖国際秘宝館」のマスコットキャラクター「秘宝オジサン」
1960年後半から70年にかけて、全国各地に誕生したマル秘スポット「秘宝館」。いずれも古今東西から集められた性風俗や生物の性に関する珍品ばかりを展示していました。温泉街など観光地のそばに作られることが多く、旅行のついでにちょっと……なんて好奇心丸出しで訪れる人の多かった人気観光施設です。
最盛期には少なくとも全国に40以上は存在していたようですが、1990年代にはいると時代の流れとともに性風俗の展示が厳しく扱われるようになり、さらには人々の感性も変わって客足は減少。ひいては維持することが困難となり、閉館を余儀なくされる施設が増えて行きました。今では静岡県熱海市にある「熱海秘宝館」をはじめごくわずかしか残っていません。
そんな消えゆく昭和の文化遺産。閉館したその後はどうなっているのか……。跡地は別のものが建てられたり、そのまま建物だけ転用して別のお店になっていたり、はたまた廃墟と化し朽ち果てるのをただまつばかりであったり。それぞれの余生を過ごしているようですが、私が気になっているのがそこにあった展示物。
先にも触れたとおり、開業にあたっては世界各国から様々な品々が集められたといいます。代表的なのが、三重県にあった「元祖国際秘宝館」。十数億の巨費を投じて約1万点もの品々が展示されていました。中には、島津製作所から枝分かれした学術標本メーカー、京都科学標本(現:京都科学)が協力した学術的にも価値ある展示物があったといいます。
私が秘宝館文化に興味を持ちだしたのは2015年頃。その頃には全国の秘宝館のほとんどが閉館してしまった後でした。このため先に訪れたひとたちのブログや記事などを見ては、「あ~あの時いっておけば良かったな」と悔やんだものです。それから心のどこかで展示物の行方が気になってはいたものの、個人コレクターの方が買い取ったであるとかで、目にする機会はどうやらなさそう。そんなすっかり諦めきっていたついこの頃、それらコレクションをまとめて買い取っている人物がほんの近くにいることを知ったのです。しかも一般公開で展示していました。
■ 秘宝館コレクションが余生を送る場所「まぼろし博覧会」
買い取っていたのは、静岡県伊東市にある「まぼろし博覧会」の館長であるセーラちゃん。近頃SNSやテレビで紹介されることも多い、“あの”ニューカルチャーの聖地です。
館長のセーラちゃん(まぼろし博覧会提供)「まぼろし博覧会」の展示物はバラエティ豊か。恐竜の置物から、巨大な聖徳太子像、はたまた何かのミイラに、SFチックな展示物、モアイ像のレプリカをはじめとする世界不思議系の展示に、わけの分からないものなどなどなど。それらがギュッとまとめてエリアごとに置かれています。
「まぼろし博覧会」には、比較的オープンに近い時期に1度だけ訪れたことがあります。ただしかなり前のことなので見た内容の記憶が……、このため最初秘宝館コレクションの話を聞いたとき「そんなものあったっけ?」と思ってしまったのですが、セーラちゃん曰く「展示をどんどん増やしているからいつ来ても何かかわってるよ☆」という話。なるほど納得。
個人的な話になりますが、実はまぼろしの近くに親戚がすんでいることもあり、年数回まぼろしの前を通ることがあります。そのたんびに外観すら何かが少しずつ変わっているのに気づいていたのです。もともと植物園だった大人しい外観が、気づけば派手な受付風建物が増え、その横に昭和の木造校舎チックな建物、ある日は派手なゲートに、真っ赤な鳥居……。さらに気づけば、青い髪のコスプレイヤーさんぽい人が……。へー、あそこコスプレイヤー雇ったのかなぁ。と思っていたら、建物内で大人しく道路を見ていたその人物が徐々に通り側に出てくるようになり、またまた気づけば道路に向かって旗振りアピール。しかもセーラー服だったり、ボディコンだったり……。ある日は道路に向かってジュリアナダンスを踊ってたり。アノ人は何者なんだ!?と、ご近所さん気分で思っていたら、後に知ることになるそのお方が館長のセーラちゃんでした。
ちなみにセーラちゃんは、近くにある怪人風巨大オブジェが目印の「怪しい少年少女博物館」と、「ねこの博物館」の館長も兼任。さらに世を忍ぶ仮の姿は某出版社の社長さんです。
姉妹館の「怪しい少年少女博物館」話は長くなりましたが、そんな筆者とセーラちゃんの関係。長年、秘かに観察する側(筆者)とされる側(セーラちゃん)というだけであり、直接交流は全くなかったのですが、他のライターが記事でお世話になったのを機に、SNS上でやりとりする関係に。そんなある日、「元祖国際秘宝館の展示物をトラック10個分運び入れた」「まぼろしはニューカルチャーの聖地であるとともに、実は秘宝館文化も引き継いでいます」なんて発言がポロリと。もっと早く知りたかった!ということで、サクっと行ってきました。
■ 全国8か所の秘宝館&10か所の博物館などから大型トラック100台分を蒐集
訪れたその日は気持ちの良い秋晴れ。他のお客さんに迷惑がかからないよう、人のすくない朝一番を狙って訪れてみました。事前にセーラちゃんには行くことを連絡していたので、到着すぐに軽くお話を。この日は普段の奇抜系ファッションとは違い、清楚系の衣装。さらにいつもの青い髪の毛ではなく黒髪ロングでおしとやか仕様になっていました。
この日はお嬢様ファッションのセーラちゃんそして展示物についての詳しい由来を聞くと、やはり全国各地の秘宝館からもコレクションを集めていたとのこと。閉館した施設からのものがほとんどで、秘宝館は、元祖国際秘宝館、石和秘宝館ロマンの館など8か所。その他に鎌倉シネマワールドなど博物館や遊園地が10か所ほど。大型トラックで100台分を業者を通してであったり、オークションを通じて買い取って展示しているそうです。すごい!とはいえ、まだ全てが展示しきれているわけでもないのだとか。
■ 館内は撮影OK
というわけで、「中みておいで~」と背中を押されて、いざ館内へ。ちなみに撮影NGについて相談すると「うちは一般のお客様でも館内全て撮影OKだよ!ほらほら(看板指さし)」とのことでした。おかげでコスプレ撮影やアート写真の撮影もOKなんだとか。コスプレイヤー向けには更衣室も用意しているそうです。
久し振りに足を踏み入れた、まぼろし博覧会。ごくごく初期に訪れて以来ですので、以前の記憶はすっかり抜け落ちていました。とはいっても、植物園時代にも来たことがあり、レイアウトにはやはり見覚えが。以前植物があった場所にはセーラー服柄にペイントされたゴリラが置かれていたり、「元祖国際秘宝館」のマスコットキャラクター「秘宝オジサン」の人形が置かれていたり。
チケット売り場への階段を上るだけでもワクワクする展示物が目白押しです。そんなこんなでチケット購入。売り場のわきからまず進んでいくと、そこにあるのはお土産売り場。
■ 個性的な土産物 「藁人形」に「怨霊のビン詰」
なになに、お土産物売り場か。のぞいてみると、ふむふむTシャツに、セーラちゃん缶バッジ。ここまでは普通でしたが、「呪いの藁人形(釘・紙セット)」400円に「検便用糞入箱」100円。うわ~濃厚ラインアップ。さらには「怨霊のビン詰」(厳選怨霊5匹入り詰合せ)というこれまた怪しい商品も。お値段は1瓶500円で、1匹100円とリーズナブルになっているそうです。わーい!
さて、そのお土産物コーナーを抜けると、まぼろし博覧会のシンボルでもある巨大な「聖徳太子像」の顔が見えてきます。場所は温室となっており、元は熱帯植物などが(たしか)展示されていた場所。おかげで、植物がにょきにょき生えてまさに密林状態。そしてそこかしこに、古代文明の遺跡関係も展示されています。古代文明の遺跡展示はバブルの頃に全国をまわっていた世界不思議系の展覧会から展示物を譲り受けたものだそう。このため、作りはどれもしっかり。ただし、あえて手入れをしていないせいか、ツタにからまったりで一つ一つを見つけるのが大変。あ!ここにもあった!という具合に探検気分で、展示物を見ていくことになります。
そして奥に進むと、坂井田姉妹研究所なるコーナーや深澤優典作品の「地球外生命体ミイラ展」が出現。そうか、地球外生命体はこうなってるのかぁ、なんて未知の文化に触れることもできましたよ。もうわっけわっからーん!
■ 本来の目的、秘宝館コレクションを探す
さて、本来の目的。秘宝館のコレクションを探していくわけですが。さすが大型トラック100台分だけあり、ものすごいボリュームの展示物&雑多でどれがどれやら。
ここからはちょっと駆け足で説明していきますが、温室の次は一旦建物を出て「昭和の時代通り抜け」というコーナーに。置かれているのは、シネマワールドや博物館系からもってきたものが多くおさめられているようで、昭和のくらしが「まぼろし風」にカオステイストが加味され表現されています。
展示されているのは、昔の床屋さんに、昭和初期ぐらいの銭湯、ふと隙間を見るとボットン便所があったり、小学校の授業風景の展示に、貧乏長屋の生活、学生紛争の頃の看板に、「ゲバラ書房」という本屋さん、他にもシールが沢山はられた子供用タンスや、パーラー、パチンコ台、デコチャリと。とにかく昭和がギュギュギューーーと濃縮圧縮して展示。
また、秘宝館からの展示は「世界名作額縁ショー ズロースの微笑」など一部あるようですが、ほとんどがまぼろし風にアレンジされているのでそれ以外は「これはもしかしたら……」と探りながらの状態。とにかく、圧倒的展示量に唖然です。
ちなみに、まぼろし博覧会全ての中で唯一まともな空間がこの建物にあります。それは「昭和の時代通り抜け」のはいってすぐにあるトイレ。中が普通の和式で、展示も特になく心からほっとしてしまいました。圧倒的情報量に混乱した後だったので……。
■ 元秘宝館マネキンたちは、まぼろし風味のカオスオブジェに変化
「昭和の時代通り抜け」を抜けると、明らかに秘宝館コレクションぽいものが続々出てきました。どうやら「悪酔い横町」というエリア。ただし、昔はエッチぃ展示になっていたであろうマネキンにはほとんど布や洋服がかけられ、これらもまぼろしらしいカオステイストにアレンジ。リボンをつけられたり、変なポーズになってたり、分解されてたり……廃墟のような、なんだかこれまで以上に荒廃感の強いエリアです。
まず足を踏み入れたのは、「ペンギン山」。姉妹館の「怪しい少年少女博物館」の前身である「ペンギン」に関する博物館時代の展示物が納められています。そしてお次が「ひみつの秘密基地」。少年探偵団の基地というコンセプトらしく、科学や宇宙に憧れ正義を実現しようとした知の世界が表現されているそうですが、「【先端技術】研究室」では、ミイラの製造や、SF小説で見る実験場ぽいマネキンの展示が。
そしてさらに進むと「千の願い」という展示。ここには明らかにソレとわかる、かつての秘宝館人形が置かれています。とはいっても、先と同じように布がかけられたり分解され謎のオブジェになっていたりで、エッチとは無縁な破滅的展示に変化。
また入り口に置かれた短冊に己の欲求を書いてぶらさげて行ってもいいらしく、まぼろし博覧会らしい「土屋○鳳を抱く!」「やせたい」「気に入った女優すべてと○○○できますように(ハート)」といったドストレートな欲望が書かれていました。なんか、ほんとカオス。
■ 時空の歪みにはいったような錯覚
そしてお次はアートギャラリーであり「村崎百郎館」のコーナー。秘宝館コレクションとは関係ありませんが、廃墟風なスペースに足を踏み入れたとたん、まるで時空の歪みにはいったような錯覚に襲われました。人の狂気というか、そういうものが詰め込まれた場所。
ここのメインは鬼畜系ライターの故・村崎百郎さんの世界を表現した空間。そこに複数のアーティストの方が場所を借りて作品展示を行っています。狂気系作品は、計算しつくして作られるパターンと、ナチュラルに生み出されるパターンの2種類があると言われていますが、ここにはその両方が存在。人の焦りや苦しさ、虚無感がつめこまれたような圧迫感に、これ以上ない居心地の悪さを感じてしまいました。これがアートの力か。
■ セクシーマネキンは「まぼろし島」の住人に
さらに進むと、次は外のコーナー。最近できたばかりの「まぼろし島」です。大きく開かれた場所にはちょっとしたスペースのステージが。その上には、恐らくですがかつて秘宝館の拷問系コーナーなどで活躍していたであろう、大胆ポーズのマネキン乙女たちの姿。もちろん全て衣装を着せられ、中央の巫女(シャーマン)的マネキンを中心にトランスしたような展示に変えられていました。なるほどなぁ、ああいうポーズはこう来たかという感じ。ある意味、まぼろしだからできる使い方に大納得です。
■ 「元祖国際秘宝館」の名物、人体模型のコーナー
外から今度は3つめの建物にはいります。場所は「魔界神社 祭礼のゆうべ」。なんとここでは、入り口はいってすぐに「丑の刻参り」のリアルな展示が行われていました。そう、入り口で売られていた「藁人形」を実際にうちつけて良い場所です。マジかーーー!
一本の柱には所せましと、沢山の藁人形が。呪う相手や内容を紙に記し、それとともにうちつけるらしく、色んな呪いが書かれていました。一つ一つ見ていくと、文字がみっちり記されたマジモードの呪いから、「上司しね!」「上司の○○!」なんて職場の上司あてとおぼしきものも複数。上司嫌われすぎですよ~。
そんなこんなで気を取られつつ、恐らく博物館からの展示であろう剥製類を雑多に放り込んだスペースにも気を取られつつ……、藪医院なる怪しい展示に、Oh!これは秘宝系かな?と思われる男女のマネキンに……。
一周まわって入り口付近に戻ると、ありました!「元祖国際秘宝館」の名物でもあった模型類。(※すごーく肝心な部分なのですが、人によってはグロテスクと感じる可能性があるため、人体模型の一部の写真掲載を控えます。現物はまぼろし博覧会で!)
妊婦のお腹の中にいる赤ちゃんの状態を月齢ごとに再現した模型から、人骨などの模型。とにかく所せましと並べてあります。一部は床に転がってたりも。
これらにはかつて、一つずつ展示プレートがつけられ、人の進化やそれにともなう性に関する話題、そして動物たちの性に関する説明などもあったと思われますが、今ではどれもかしこもギュギュギュのギュー! 生物の進化が超駆け足で、しかも雑多に見ることができる展示スペースになっていました。なんだかもったいないような、でも行き場のなかった展示品たちにとってはこれでも良い余生なような。
■ 結論。秘宝館コレクションは、新しい職場でちゃんと活躍してました
かなり駆け足での紹介だったので(それでも約6千字)、「何がなんだかわかんねーよ!!」というお叱りの声が聞こえてきそうですが、安心してください。現地にいっても「何がなんだかわかんねーよー!」って思いますから。マジで。
それにしてもオープン以来の訪問でしたから、実に7年ぶりとなった「まぼろし博覧会」。久し振りすぎて全てが「こんなんだったっけ?」と思いながら見て回りましたが、実は前きたときすでに秘宝館コレクションの一部展示は行われていたようです。私が意識してなかっただけかーー!とはいっても、展示のほとんどはセーラちゃん世界に塗り替えられているので、当時も言われなければ気づかなかったような? さらに言えば、日々何かがアップデートされているので、一度目よりも二度目、三度目の訪問の方がこの世界をよりしっかり楽しめるような気がしました。
セーラちゃんにとってまぼろしの展示は、コラージュだといいます。それぞれの展示を切り取り、くっつけ、ナニカを作り上げる。展示物の中には「館長メモ」というものがありました。それによると、ここはまだまだアップデートの予定があるもよう。また展示物は見ての通り、一度設置されると特に手入れが行われません。時や自然にまかせた老朽化もこの世界観の一つ。だから展示の全ては一瞬一瞬見せる表情をかえる「まぼろし」なのです。
夢かうつつか幻か。秘宝館コレクションたちの新天地でもある「まぼろし博覧会」。彼らがそこで朽ち果てる前に、一度訪れてみてはいかがでしょうか。
館長メモ
まぼろし博覧会のアップデート予定が!?
<取材協力>
まぼろし博覧会(Twitter:@_fushiginamachi / HP: http://maboroshi.pandora.nu/)
所在地:〒413-0231 伊東市富戸梅木平1310-1(まぼろし博覧会)
(宮崎美和子)
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