シコルスキーとボーイングが共同開発した次世代軍用ヘリコプター「SB>1ディファイアント」を公開
おたくま経済新聞 / 2018年12月31日 12時0分
シコルスキー・ボーイングSB>1 DEFIANT(画像:Sikorsky-Boeing)
2018年12月26日(アメリカ東部時間)、シコルスキーとボーイングは、かねてより共同開発していたアメリカ陸軍向けの次世代軍用ヘリコプター「SB>1ディファイアント(DEFIANT)」を初公開しました。従来のヘリコプターに比べて倍の速度と航続距離を持ち、高い操縦性を持つ画期的な機体です。
このSB>1ディファイアントは、アメリカ陸軍の「将来型垂直離着陸機計画(Future Vertical Lift=FVL)」の一環として計画された「統合多用途中型技術実証機計画(Joint Multi-Role-Medium Technology Demonstrator program=JMR)」に即して開発されたもの。アメリカは2003年に始まったイラク戦争から現在までの実戦経験から、ヘリコプターを使用した各種作戦において、ヘリコプターの持つ低速度で航続距離(航続時間)が短いという欠点が浮き彫りになり、より作戦遂行に適した丈夫な次世代型の垂直離着陸機を開発する必要性を感じ、この計画を立案しました。早ければ2030年代の初め頃に、この計画に基づいた新しい機体が誕生することを目標にしています。
FVL計画は小型から大型、そして偵察や輸送、攻撃/強襲など、アメリカ陸軍における全ての回転翼航空機(ヘリコプターなど)を対象とした広範囲なものですが、今回シコルスキーとボーイングが公開したSB>1ディファイアントは、このうち中型の多用途機に相当する分野に関する技術実証機です。具体的な任務は、偵察・観測と長距離のヘリボーン作戦、さらにその際の近接航空支援(CAS)を兼ねられるもの。現在のUH-60ブラックホークや、AH-64アパッチなどが担っている分野になります。
シコルスキー・ボーイングSB>1ディファイアント(画像:Sikorsky-Boeing)SB>1ディファイアントは、シコルスキーが開発した高速ヘリコプターの技術実証機「X2」で得られた技術をもとに設計されています。メインローターはトルクモーメントを互いに打ち消しあう同軸二重反転式。そして高速で飛行するため、機体の尾部に推進用プロペラを装備しています。高速飛行時にはメインローターは揚力だけを担当する形になるため、ローターの回転速度を自動的に低下させ、ローターの効率が悪くなる音速に到達しないよう調整されます。
また、キャビンなどの設計は、X2をもとにシコルスキーが開発したより大型の実証機「S-97レイダー(RAIDER)」で試験された結果が反映されています。高速飛行にとって抵抗となるため、着陸装置は折りたたみ式で、軽量な複合材料製の胴体内に格納。コクピットには4人、そしてキャビン内には戦闘装備をした12人の兵士が乗れるようになっています。
シコルスキーS-97RAIDER(画像:Sikorsky)二重反転式のメインローターや推進用プロペラを組み合わせ、速度に応じて出力配分を変えたり高い操縦性を持たせるために、操縦系統はコンピュータが介在するフライ・バイ・ワイヤ式。飛行中の振動を相殺するシステムも装備し、安定した飛行を実現します。
SB>1ディファイアントの計画巡航速度は、従来のヘリコプターの倍近い時速460km(250ノット)。すでにこの速度はX2がクリアしており、実現不可能な速度ではありません。現在は仮のエンジンとして、従来型のT55ターボシャフトエンジン(CH-47が採用)を積んでいますが、燃費性能の向上した新しいエンジンを積むことで400kmを超える航続距離を実現する予定だといいます。
JMR計画にはシコルスキー・ボーイングのほか、ベルがティルトローター機のV-280で参加しています。現在シコルスキーはロッキード・マーティン傘下であり、V-280はベルとロッキード・マーティンが共同開発している機体なので、採用がどちらに転んでもロッキード・マーティングループは契約を得るということになりそうです。
Image:Sikorsky–Boeing/Bell
(咲村珠樹)
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