ハイクオリティな「義指」 事故で体の一部を失った人にとって一筋の光に
おたくま経済新聞 / 2019年6月20日 6時30分
次見やをらさん(@Cuenta__Atras)提供
働いていると、思わぬところで思わぬ事故に遭う事があります。特に、工場などで機械を扱っていると、その確率も上がります。注意していても一瞬の間に起こる事故で、体の一部が切断されてしまうことも……。見た目自分の指と全く変わらないくらいのハイクオリティな「義指」が、事故で体の一部を失った人にとって一筋の光となっています。
「私は左手の人差し指を事故で欠損してから義指を作ってもらっています。作り手の立場・それに伴う発信の仕方についてのお考えを聞いて、使用者の立場から発信させてもらうのが必要としている人にはやはり直に届きやすいのかなということで載せさせてもらいます」と、自身の両手と外した状態の義指の写真をツイッターに投稿したのは、漫画家の次見やをらさん。
その写真に写る両手は、ごく自然。左手の指の表も裏も、継ぎ目がどこにあるのかかなり目を凝らしても分かりづらいくらい。そして、義指の単体は、指の第2関節辺りまでカバーするような感じに作られており、ぱっと見、指だけ抜けているのかとびっくりしそうなくらい。
このツイートが拡散され、大きな話題になりました。次見さんが作ってもらっているという愛和義肢製作所も、その大きな反響により、たくさんの問い合わせが来ているとの事。
そして、この義指を見た人たちからは、これが作り物の指だなんて信じられない、自然すぎて義指と言われてもどれがそうなのか分からない、といった声が殺到。そのハイクオリティなつくりに驚く人が続出しています。
私は左手の人差し指を事故で欠損してから義指を作ってもらっています。作り手の立場・それに伴う発信の仕方についてのお考えを聞いて、使用者の立場から発信させてもらうのが必要としている人にはやはり直に届きやすいのかなということで載せさせてもらいます(許可取り済・加工ゼロです)→ pic.twitter.com/8nQnjjvWwr
— 次見やをら🐈単行本2冊発売中 (@Cuenta__Atras) June 13, 2019
次見さんは、3~4年前に工場の現場でフライス盤という機械を扱って金属類を加工していた時に、一瞬の不注意により指を巻き込まれ第一関節の先を切断してしまいました。ケガが落ち着いた頃、次見さんのお母さまから、テレビで見た愛和義肢製作所に義指を作ってもらっては、と勧められたことをきっかけに、義指を作ってもらう事となったそうです。
実はこうした手や指のケガは今も結構多く、大きなケガだと、工場のプレス機に袖が巻き込まれ、二の腕までつぶれてしまい義手を使う事になった例や、旋盤加工で指を切り落としたという例もしばしばあります。また、交通事故でも同様なケガは起こります。
次見さんの場合は、事故からしばらくの間はビリビリとした痺れた様な感じがあり、断端が落ち着いて義指を付けられる許可が医師からおりた頃には欠損部分の違和感や痛みなどは落ち着いていたそう。しかし、ご自身は欠損した指の状態には慣れたものの、見た目の状態はやはり気になるところがあり、「怪我した部位を見て気持ちがいい人はいないだろうと思い手袋をしたりしていたので、義指を作っていただいたことでそこの引け目がなくなりました」と語ってくださいました。
指の欠損は、知らない人から見ると色々と憶測を呼ぶこともあります。事故で指を失ったことをいちいち見知らぬ人に言うこともそうない状態。次見さんは、「自分自身は今の(欠損部位そのままの指)状態に慣れていても、何も知らない他人からの見え方はそうはいかないので、そこの不安が一つなくなるというだけで、こういう怪我をされた方にとってはかなり心強いだろうなと思います」とも語ってくださいました。
こうした義指などは、「人工ボディ」とも呼ばれ、全国のあちこちにその技術を持った人や装具士がいます。乳がんで乳房が片方切除せざるを得なくなった、事故で顔面の変形が起こってしまい、手術だけでは修復が難しいという人などにも、この人工ボディの技術が生かされています。ボディイメージが今までと違ったものになるというのは、なかなか精神的にも受け入れにくいもので、体の一部が欠損してしまうことで、外出も怖くてままならないという人もいます。しかし、欠損した部分を補うことで、自分自身を取り戻すことができるのであれば、その怖さも克服できるのではないでしょうか。
<記事化協力>
次見やをらさん(@Cuenta__Atras)
(梓川みいな)
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