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知ってほしい エスカレーターの「わけあってこちら側で止まっています」

おたくま経済新聞 / 2019年6月21日 8時0分

知ってほしい エスカレーターの「わけあってこちら側で止まっています」

あきつさん(@trms_umee)提供

 駅やビル内に設置されているエスカレーター。本来なら乗っている人を自動的に上下の階に運んでくれるものですが、いつの間にか、都市部では「片側空け」が当たり前となっている状況。しかし、あらゆる理由で、右か左のどちらかに寄って立つことができない人も多くいます。今、その「訳があって」片側空けができない人用のキーホルダーが注目を浴びています。

 「先程、駅のエスカレーターに乗っている人がこのようなマークを付けていたので『ほう』となり、帰宅して即調べた。身体の麻痺などの事情でどうしても左右特定の位置にしか立てない人のためとの事だそうで。ヘルプマークもだいぶ普及しつつあると思うので、他にもこういうのもあるという事が広まればと」と、そのマークが付いたキーホルダーの画像とともにツイッターに投稿したのは、ネットユーザーのあきつさん。

 キーホルダーは丸い形にエスカレーターに乗っている人が二人、これから乗ろうとしている人が一人、ピクトグラム風に描かれています。乗っているうちの一人は赤で示されており、乗ろうとしている人は、何かに気が付いたような様子。キーホルダーには、絵の丸い枠外に「わけあってこちら側で止まっています」の文字が。

先程、駅のエスカレーターに乗っている人がこのようなマークを付けていたので「ほう」となり、帰宅して即調べた。身体の麻痺などの事情でどうしても左右特定の位置にしか立てない人のためとの事だそうで。ヘルプマークもだいぶ普及しつつあると思うので、他にもこういうのもあるという事が広まればと。 pic.twitter.com/i9iDkXfb2u

— 🍜あきつ🍜 (@trms_umee) June 14, 2019

 このツイートは12万5千回以上もリツイートされ、注目を集めています。そこで、このキーホルダーを制作した、「公益財団法人 東京都理学療法士協会」にお話を伺いました。

 東京都理学療法士協会では、2016年の冬に「エスカレーターマナーアップ推進委員会」を発足。2017年の夏より駅前での啓蒙活動やシンポジウム、商業施設でのイベント等を実施しているそうです。障害者のリハビリテーションを通じて支援する中で、障害がある方でも安心して外出できる社会を作ることを役目として考えて実施しているのだそう。

 病気やケガなどで、片腕や片足が使えなくなったり、半身に麻痺が生じた場合、歩行は自立できても、階段を使うのにはバランスを崩しやすくなるなど、かなりの危険を伴う事があります。脳卒中などの後遺症で、片麻痺が生じた場合、バランス感覚も崩れてしまうので、麻痺がない方でてすりに掴まる必要があります。しかし、そのような場合でも、後ろからエスカレーターを歩いてくる人に後ろからぶつかられることも。エスカレーターの中でバランスを崩して転落してしまう、などということになったら、他の利用者も巻き添えとなることは明らかです。

 このような事故を防ぎ、各自利用者がマナーを守ってエスカレーターを使えるように、と「エスカレーターマナーアップ推進委員会」が発足されました。

 事故を防ぎ、マナーの向上を図るために、2018年の夏にエスカレーターマナーアップキーホルダーが作成されました。配布から約1年間で全国へ2000個以上配布されているそうですが、ツイッターや各メディアが取り上げたこともあって在庫は不足している状況なのだとか。

 「今後も増産を進める所存ですが、ご請求いただいてから配送までに時間がかかっている現状です」と広報の方。このキーホルダーには、「キーホルダーの使用は困っている当事者だけでなく、健常な方にも正しいルールを知ってもらうために『わけあって』の文言とさせていたいています。決して歩いている人が悪いのではなく、暗黙のルールとなってしまっている間違った常識が是正されることにあると思っております」との願いを込めているのだそう。

 また、都内では今までにも「エスカレーター 止まって乗りたい人がいる」というキャッチコピーで啓発運動を行ってきていますが、今年の夏以降で多施設とのコラボレーションを検討中。また、10月27日には練馬駅周辺で、「エスカレーターマナーアップ推進委員会」主催のイベントも実施予定なのだそう。

公益財団法人 東京都理学療法士協会 「エスカレーターマナーアップ推進委員会」HPより

 現在は東京都理学療法士協会のみがこの啓発活動にともなうキーホルダーの配布を行っており、活動を行っていますが、広報担当者によると、「他の県士会からもお声掛けを頂くことが多くなっている状況です。全国に広がってくことを我々も望んでおります。また、理学療法士協会のみならず多くの企業や鉄道団体との関わりが非常に重要となってくると考えています」と、全国に活動を広げ、各関連団体などとも協働をはかっていきたいということです。

 筆者の住む名古屋市の交通局は、一部のエスカレーターが非常に長く、片側空けを行うことによる巻き込み事故の防止を、すでに10年以上前から取り組んできています。特にエスカレーターが長く続く、名古屋の最深部を通る桜通線や、金山駅コンコースに続くエスカレーターなどには、壁に「危険 歩かない」などといった文字が1文字ずつ大きく貼られており、啓発活動も盛ん。一部の混雑する駅ではまだまだ片側空けが見られるところもありますが、両側に立つというマナーはかなり定着しつつあります。

 本来、エスカレーターは歩いて昇降するために造られているものではなく、効率よく多くの人を移動させるためのもの。片側空けは、本来なら100%乗れる状態を半分にして効率を下げるやり方であり、片側に負荷がかかることによって故障も発生しやすくなるデメリットも生じます。

 長い階段を昇降するのがつらい場所に設置されていることがほとんどであるエスカレーターは、移動時間を短縮させるための昇降機ではありません。より多くの人が、安全に昇降するためのものです。急いでいる時に、ついエスカレーターを駆け上ってしまうという人もいるかと思いますが、その行動自体が、思わぬ事故を引き起こす可能性も高いのです。駆け上がっている時に、体の不自由な人にぶつかって大事故になったときに、その責任を取れますか?

<取材・記事化協力>
公益財団法人 東京都理学療法士協会 「エスカレーターマナーアップ推進委員会」
あきつさん(@trms_umee)

(梓川みいな)

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