浴衣にもピッタリ!およそ100年前のハイカラヘアがかわいい
おたくま経済新聞 / 2019年7月30日 16時0分
明治〜昭和戦前期の髪型を紹介する伊田チヨ子さんのツイート
いつの時代も女子はかわいいヘアスタイルをしたいもの。大正時代を舞台にした作品を発表している漫画家さんが、当時の女子の間で流行していたヘアスタイルのいくつかを「浴衣にも合う」とTwitterで紹介したところ、大きな反響を呼んでいます。
Twitterで昔の髪型を紹介したのは、漫画家の伊田チヨ子さん(@chiyocooooo73)。月刊あすか(ASUKA)で、大正時代を舞台にした4コマ作品「ベルと紫太郎」を連載しています。この作品を執筆する上で収集した参考資料の中から、ちょっとしたエピソードなどをTwitterで「ベルと紫太郎零れ話」として紹介しています。
【単行本発売のお知らせ】
『ベルと紫太郎』一巻が10月24日発売にします!
あすかに掲載された1話〜21話に加えて完全書き下ろしエピソード2話収録、仕掛けや遊びがいっぱいの楽しい一冊です!表紙や本体カバーの紙も是非触ってお楽しみください。
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— 伊田チヨ子 (@chiyocooooo73) October 15, 2018
2019年7月25日に紹介したのは、浴衣にも合うという明治大正時代の髪型3種。当時の女学生を中心とした若い世代の女子に流行したヘアスタイルです。
【 #ベルと紫太郎零れ話 】
★浴衣にも合う❤️明治大正の髪型
浴衣の時は今時の盛りヘアもいいけれど…今年の花火大会はハイカラさんやモダンガールになってみませんか?
浴衣姿にも合う戦前の流行ヘアアレンジをご紹介
大正同棲日記ベルと紫太郎ネットでも連載中→ https://t.co/FNNrsKdmg2 pic.twitter.com/257EOyU2dN
— 伊田チヨ子 (@chiyocooooo73) July 25, 2019
まずは「マガレイト」。資料によっては当て字の「まがれ糸」という表記も見られるスタイルで、マーガレットの意味です。長い髪を後ろで1本の三つ編み(このヘアスタイルを当時は「英吉利(イギリス)結び下結び」と呼んでいました)にし、根元の方へ折り返してリボンで結ぶ、というもの。
明治18(1885)年10月に出版された「洋式夫人束髪法 附束髪図」(編:村野徳三郎)によると、このマガレイトは「専ら十六七歳の女子の間に行はるるものなり」とあり、ちょうど現在の高校生(当時の女学生)くらいの年代で流行していたことが伺えます。ちなみに根元に折り返すのではなく、頭の後ろで小さくグルグルと巻きつけてまとめると「英吉利(イギリス)結び」となります。
続いての「ラジオ巻き」は、長い髪を2つに束ねて両耳の辺りでクルクルと巻き、まるでヘッドホンのようにしたスタイル。束ね髪は三つ編みか、そのままねじって棒状のシルエットにして巻いていきます。大正14(1925)年に始まったラジオ放送の受信機(鉱石ラジオ)のイヤーレシーバーに形が似ている、ということから名付けられたようです。
当時は女性の間で耳を隠すヘアスタイルが流行しており、パーマ(1925年に山野結髪所を開業した山野愛子が日本初のパーマ指導技術者)でウェーブをかけた髪で耳を隠す「耳かくし」というものも定番化していました。
ぐるりと三つ編みが円を描く「外巻き」は、ラジオ巻きと同様に2つに分けた髪を三つ編みにし、それを根元で交差させるようにして、頭のラインに沿ってぐるりと巻きつけ、ピンで留めるもの。明治20(1887)年4月に女学雑誌社から出版された「束髪案内」(編:渡部鼎)には、このスタイルを「甚だ活発に見ゆるる為十七八の女子にはよく適するなり」と紹介しています。
これらのヘアスタイルは、明治の文明開化を受けて旧来の結い髪(結髪)より簡便で、洋装に向くように考案された「束髪(そくはつ)」と呼ばれるもの。陸軍の軍医でのちに衆議院議員も務めた渡部鼎と、雑誌「東京経済雑誌」の編集者で明治女学校創立にも協力した石川暎作が中心となり、明治18(1885)年に結成された「婦人束髪会」の活動を通じて考案・普及していったものです。
それまでの結い髪(日本髪)は、基本的に結ったらしばらく解かず、乱れたらびん付け油をつけて整えるといった具合で、毎日髪を洗うようなことはありませんでした。髪や頭皮のケアの面でもあまり良くないのではないか、という考えのもと、整髪料を使わず簡便に整えたり解いたりできるもの、として提唱されたのが束髪だったのです。
いわゆるハイカラな「女学生スタイル」として紹介されることの多い、前髪を上に巻き上げ、後ろ髪はそのまま垂らすというヘアスタイルも「西洋下げ髪」という束髪の一種。それと同時にリボンも日本に入ってきて、当時の「婦人画報」や「女学雑誌」などで流行が紹介されています。
明治41(1908)年に演歌師の神長瞭月によって作られた「ハイカラ節」には、当時の女学校に通う女子が歌われています。その一節に「髪のなでしこ色添うて 掛けしリボンはひーらひら 海老茶袴はさーらさら 春の胡蝶の戯れは 桜に優るスクールガール」とあり、リボンを髪に結んだ女学生は桜より美しいとしています。今も昔も、この年頃の女子は流行の最先端だったようですね。
しかしこの束髪の流行は、あまり長くは続きませんでした。大正末から昭和初期にかけて、アール・デコを中心とした「モダン」が流行しはじめると、モダンガール(モガ)を中心に、長い髪をバッサリ切った「断髪(ショートヘア)」が最先端のヘアスタイルとなり、より多様なスタイルの時代に入っていったのです。
これまでの和服と、新しく入ってきた洋服とが混在する時代だったからこそ生まれた束髪。それゆえに、洋服でも和服でも似合うヘアスタイルとして再度注目してみてはいかがでしょうか。
伊田チヨ子さんの「ベルと紫太郎」の時代である、大正から昭和初期にかけて流行した和服「銘仙」にもモダンな柄がたくさんあり、当時は普段着だったので古着屋さんでも比較的お手頃な値段で売られています。浴衣だけでなく、こういったもので今回紹介されたヘアスタイルを楽しむのも素敵ですよ。
<記事化協力>
伊田チヨ子さん(@chiyocooooo73)
<参考文献>
「洋式夫人束髪法 附束髪図」(国立国会図書館デジタルコレクション)
「束髪案内」(国立国会図書館デジタルコレクション)
(咲村珠樹)
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