室屋義秀 最後のレッドブル・エアレース千葉大会直前会見
おたくま経済新聞 / 2019年8月22日 20時0分
愛機のプロペラに手をかける室屋義秀選手
2019年で終了することが発表されたレッドブル・エアレース。最後のレースとなるシーズン最終戦、千葉大会を9月7日・8日に控え、室屋義秀選手が拠点を置くふくしまスカイパークで取材に応じました。
2003年から始まり、2005年からはFAI(国際航空連盟)公認の世界選手権シリーズとして開催されてきたレッドブル・エアレース。2019年5月に残念ながらシリーズ終了が発表され、2019年は全4戦に短縮。9月に予定されている第4戦千葉大会を最後に、16年に及ぶ歴史に幕を閉じることになります。
その最終決戦を前に、2017年のワールドチャンピオンで現在年間ランキング3位につける日本の室屋義秀選手が、拠点である福島県のふくしまスカイパークで直前取材に応じてくれました。
ふくしまスカイパーク「HANGAR 1」には、前日に到着したばかり、という室屋選手の愛機エッジ540V3が。まだ仮組み状態とのことで、胴体のスペースフレーム構造やエンジンが一部むき出しになっていました。これから調整を進めていくとのことです。
2018年シーズン終盤、アメリカでのレースで投入された待望のウイングレットは、横から見るとブーメランのような形。垂直に立っている訳ではなく、外側に開いた状態です。薄い後縁部分は滑らかに立ち上がり、三次元的に考え抜かれた形状であることが判ります。
また、ウイングレット周辺の気流が主翼表面から剥がれるのを防ぎ、ウイングレットの効果を高める為に、ウイングレット取り付け部分の前縁側に銀色のボーテックス・ジェネレータ(わざと空気の渦を作り、結果として気流が滑らかに表面に沿うようにする突起)が取り付けられています。これはフランソワ・ルボット選手などのレース機にも、同じ場所に取り付けているもの。取り付けていない選手もいるので、ウイングレットの形状やフライトのスタイルによって選択されていることが判ります。
7月に行われた第3戦バラトン湖大会で、室屋選手は方向舵(ラダー)を動かす操縦索を覆うカバーを取り付けましたが、その形状も非常に複雑なものになっています。操縦索がむき出しになっていると、そこで乱気流が発生して機体表面の抗力が増し、わずかですがスピードを落としてしまうので、1000分の1秒が勝負を分ける局面で威力を発揮してくれそうです。
記者会見に登場した室屋選手は、まず最高のスタートを切った2019年シーズンを振り返り、昨年から取り組んできたことが開幕からの連勝につながったと語りました。また、今年を最後にレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップが終了してしまうことについては、2007年・2008年に室屋選手の他、ピーター・ベゼネイ氏、ポール・ボノム氏、スティーブ・ジョーンズ氏らレッドブル・エアレースのパイロットも参戦し、ツインリンクもてぎ(栃木県)で開催されたエアロバティックのワールドシリーズ『オートボルテージュ』が2008年で終了したことに触れ「コンペティション(競技)が終わるというのは残念ではあります。来年以降、なにか新しいプロジェクトは始まると思うので、ともかく今は先のことは考えず、最終戦の千葉に向けて1日を積み重ねていきたいと思います」とコメント。
千葉大会のトラックレイアウトについては、ポイントは両端の折り返しだと語り、縦のターン(VTM)ではなくフラットなターンが速いというシミュレーション結果を得ているとのこと。ただ、今回も浜側と沖側にトラックリミットライン(飛行可能区域を示すライン)が設定されているので、風向きに応じてターンを選択することになるだろうと予測していました。
全体としては第3戦のバラトン湖と似ていますが、千葉ではより飛行可能区域(トラックリミット)の幅が狭くタイトなので、どこまで攻め込めるかが鍵になりそうです。このところは飛んでいる音を聞きつけた周辺の方が、わざわざ今が食べ頃のモモを差し入れてくれることもあるということで、室屋選手が福島を代表する人物であるということも感じさせる会見でした。
■室屋義秀インタビュー
――開幕からの連勝で絶好のスタートを切りましたが、第3戦のバラトン湖で風の状態に翻弄されて12位となり、年間ランキングも首位のソンカ選手から10ポイント差の3位に後退しました。再びのワールドチャンピオンに向けては、少し苦しい展開ですが……。
「まあ、開幕からの連勝があったお陰で、現在ワールドチャンピオン争いができている訳ですから。あれがなければ、もっと良くなかったでしょうね」
――首位にソンカ選手がいて最終戦で追う立場というのは、ワールドチャンピオンを獲得した2017年と同じです。今回は10ポイント差ということで、予選首位での3ポイントというのが大きく意味を持つと思います。
「そうですね。おっしゃる通り予選で3ポイントを取って、ソンカ選手が4位以下ならポイント差が7に縮まりますし、予選は非常に重要です。その上で優勝して彼が5位以下ならチャンピオンになれます。直接対決で負かせるとベストなんですけどね」
――トラックレイアウト図を見ると、各ゲートの間隔が詰まっていて忙しいレイアウトだな、という印象だったのですが、室屋選手がシミュレーション用に配置した缶を見ると、思っていたより直線的に飛べそうですね。
「大体あれが実際のゲート間隔に近い状態ですね。なので割と余裕はあります。ちょっとスピードが出すぎて、両側のターンでオーバーGの恐れがあるんで、千葉もバラトン湖と同じように、エントリースピードが200ノットから190ノットに変更されています」
――あのゲート間隔とオフセット量からすると、確かにフラットターンをした方がタイムが稼げそうです。
「風の状態によって選択肢が変わってくるとは思うんですが、午後からの海風が強まる時間帯ならフラットターンの方が速くなると思いますね。ラウンド・オブ14の頃は、ちょうど風向きが変化する時間帯にかかってくるんですが、そのあたりは地元である経験の豊富さがアドバンテージになるかな、と思っています」
――これまでの5月末〜6月頭という時期ではなく、今年は残暑のきつい9月頭での開催です。エンジンのクーリングという点が大きなファクターになってくると思いますが、先ほど記者会見で「機体の手直しをするかもしれない」というお話をされていました。機首の下部、エンジンを冷やした空気が排出されるエンジン排気口周辺のパーツが、これまでよりスリムな新しいものに変更されているところを見ると、冷却空気の取り入れ口をもう少し小さく絞るかどうか、というテストをしようということでしょうか。
「正解です(笑)。一応、現在のクーリングでも気温35度までは十分に性能を発揮してくれるという状態ではあるんですが、もう少しエンジン周辺の空気の流れを改善して……というのをテストするつもりです」
――千葉大会というのはメディアの数も多く、最後のチャンピオンがかかるレースということで、かなりプレッシャーもかかると思います。私自身もメディアの一員なので、そのプレッシャーの一部になっていて心苦しい訳なんですが……そのあたりについては。
「千葉戦の前ということでは、今日の記者会見を最後に取材などはシャットアウトして、レースに向けて集中して準備を進めていきます。レースに入ってからのハンガー取材については、これまで同様という感じではあるんですが、うまくコントロールして気持ちを集中するようにしていくつもりです」
レッドブル・エアレース最後となる2019年最終戦、千葉大会は9月7日・8日に千葉市の幕張海浜公園で開催されます。決勝が行われる9月8日は、2008年のワールドチャンピオン、ハンネス・アルヒ選手が2016年シーズン途中に亡くなった日でもあります。アルヒ選手の母国であるオーストリア(レッドブルの本社所在地でもある)国旗や、アルヒ選手のナンバーである「22」のグッズを身につけ、かつてのチャンピオンに想いを馳せながら最後のレッドブル・エアレースを観戦するのもいいかもしれません。観戦チケットは公式サイトで発売中です。
<取材協力>
株式会社パスファインダー
千葉大会トラック図:Red Bull Media House GmbH/Red Bull Content Pool
(取材・撮影:咲村珠樹)
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