理不尽なクレームに毅然と対応した病院 命を守る仕事をする人にも必要なのは健康!
おたくま経済新聞 / 2019年11月6日 20時0分
突然の病気やケガで救急に駆け込んだ時、患者と付き添いの人は不安を抱え、待ち時間が長いとイライラも募ります。だからと言って理不尽なクレームは問題外。そんなクレームに毅然とした態度を示した病院の態度が人々を考えさせています。
■ 理不尽なクレーム
“病院の投書で
「救急受診で待たされている間に医師がコンビニで買い物をしていた」
という苦情があって
それに対する病院の答えが
「医師も看護師も人間ですので休まないと仕事はできません。よりよい医療を提供するためにも当然許されることと思います」
と毅然と対応してて、少し嬉しくなった。”
と、総合病院に置いてある投書箱からの意見に対し、病院管理者側が毅然とした態度を示して医療者を守る発言で返しているの見てツイッターに投稿したのは、肝胆膵と内科救急を得意とする消化器内科医の、ふろ仙人さん。
こういった投書箱に入ってくるクレームは、大概が「医療者の態度が悪い、設備に不満がある」といった内容で、回答する側は「申し訳ございません、善処します」という内容が多いものです。
しかし、ツイートの内容のように、救急担当以外の医師なのか、担当医なのかも分からないだろう投稿者からの「告げ口」ともいえるような内容は、病院で健康と命を預かる仕事をしている側からしたら、こんなことでなぜ苦情を言われなければならないのか、と理不尽を覚えます。
それだけに、病院の管理者側としての回答が医療者をきちんと守るという態度を示してるのは、そこで働いている人たちにとって大きな安心感となります。
病院で救急外来をやっていると、時には当直の間、一晩中患者さんが途切れないこともあります。そうした現状を知っている人や、心ある人たちからは、「医者が顔色悪くて体調悪そうなら逆に大丈夫なのかなと思います」「むしろ、コンビニで済まされているのが気の毒なくらい」「人として尊重し合えないんですかねー?安全な医療のためにも休憩が必須ですよ」と、当直医を気遣う声が多くリプライに集まっています。
そして、「医師も看護師も消防士も救急救命士も警察官もみんな人間ですからね!」「警察も、自衛隊、鉄道やバスの運転手なども同じクレームを受けていますよね」などなど、人の命を預かり助ける職業に対する理解を示す人からのリプライも。不特定多数の安全や健康、命を守る仕事をするには気力も体力も精神力も必要です。
病院の投書で
「救急受診で待たされている間に医師がコンビニで買い物をしていた」
という苦情があって
それに対する病院の答えが
「医師も看護師も人間ですので休まないと仕事はできません。よりよい医療を提供するためにも当然許されることと思います」
と毅然と対応してて、少し嬉しくなった。
— ふろ仙人🛀🏻@胆膵内科 (@doctorhirosan) November 3, 2019
■ 「自分の代わりがいない職業」の実態救急外来がある病院勤務の医師の場合、「自分以外の代わりがいない」立場となることが非常に多く、当直明けてそのまま外来勤務、その外来が混んでいると午前11時に受付を締め切ったとしても、予約患者と当日受診患者の合計がものすごい数となってしまい、結局すべての診療を終えるのが夕方近くになる……ということも実際に起こっています。
さらに病棟にいる受け持ちの患者さんの状態が思わしくないと、病棟回診の担当医から情報を受け取って自分で様子をみにいく場合も。ほぼ寝ない状態で、夕方以降の当直入りから翌日の終わり近くまで病院にいることも結構ざらにあるのです。
筆者は病棟、外来、老人施設と看護師として働いてきましたが、職員食堂でいつもは定食を頼んでいる医師がお蕎麦を食べている時は、決まって外来が午後まで押している状態。「先生今日は外来ですね」と話しかけると、「直明け(当直終了後)だけどとっとと食べないと次が待ってるからね」と言い残してさっさと席を立つ、といったこともしばしばでした。
幸いなことに、院内の売店で他のスタッフが何か買っていても、特に患者さんからは何も言われることはなく、病院隣にコンビニが新しくできた時でも特に「白衣着たままコンビニで買い物していた」なんてクレームは、筆者が働いていた頃には見かけることはありませんでした。逆に、患者さんの方から、「あらぁ、○○さんもご飯買いに来たの~?」なんてこともありました……。
さすがに患者さんが点滴棒をガラガラ押しながらコンビニで何やら買っていたのを見た時には、「酒買ってないよね?他病棟の患者さんだけど大丈夫なんだよね??」と逆に心配に思う時も……。中にはいるんですよ、糖尿病や禁酒なのにこっそり病棟を抜けて買いに行っちゃう人。
■ 「医師の働き方改革」とはどこの総合病院でも普通にありがちな医師の超長時間労働。担当医である自分の代わりがいない上に、勤務医の待遇の悪さや経営陣側が働く側を守ろうとしない姿勢など、様々な問題を抱えているのが実情。病院の運営が良くないと医師は自分の身を守るために離職し続け、結局残った人たちで命を守ることになってしまいます。病棟の一部閉鎖や病院自体を閉鎖する、あるいは統合してしまう、ということもあちこちで起こっています。
これで結局、一番にツケが回っていくのは患者側となるでしょう。突然病院を退職し、前触れもなく開業したという医師も実際にいました。その医師は敢えて病棟での受け持ちを作らず、外来のみ担当という姿勢を崩さなかったツワモノでしたが、外来でその医師に定期的にかかっていた患者さんにとっては大きなショックとなってしまいました。
結局、理不尽なクレームを入れて医療者側に無理をさせることは、患者として診察を受ける側全員の首を絞めることにつながりかねないのです。だから、病院の管理者は「患者さんのために」医師を守るべき行動を取る必要があります。
■ 誰かに迷惑をかけていないクレームには毅然とした態度で先日、三重県が警察官の制服でのコンビニ利用を認めるという報道がありました。これを実施している県はわずか。そして、救急隊が搬送先から帰る途中でコンビニに寄ったらクレーム、鉄道員が水分補給をしたらクレーム、自衛隊員が復旧作業にあたっているときにも食事をとればクレーム……。誰かを守るために自分の体力を維持することがなぜクレームになるのでしょうか?
昭和の高度成長期時代から続いている日本の企業文化の中での悪習は、顧客第一主義。譲れないところでも「お客様のため」と譲歩してしまう風潮は未だ絶えません。そういった「昭和時代の負の遺物」を当然としている人たちが多いと、こうした理不尽なクレームはきっと毎日どこかで起きていることと思います。
しかし、時代は進んでいます。きちんと自分を守ることが、誰かのためにつながる。自分を削る時代は、もう終わりにしませんか?
<記事化協力>
ふろ仙人・胆膵内科さん(@doctorhirosan)
(梓川みいな/正看護師)
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