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サツマイモに付いている黒っぽいベタベタ 「ヤラピン」という聞きなれないものだった!

おたくま経済新聞 / 2019年11月27日 7時0分

サツマイモに付いている黒っぽいベタベタ 「ヤラピン」という聞きなれないものだった!

いもジェンヌ/新潟砂丘さつまいもさん(@imo_sienne)提供

 サツマイモがおいしい季節。多くの種類が出回っており、煮物、焼き芋、大学芋と使い勝手の良い根菜。でも買う時に表面を見ていると、時々黒っぽい樹脂みたいなものが付いていることがありますよね。その正体について、サツマイモの専門家がツイッターで紹介しています。

 新潟の日本海沿岸砂丘地帯で栽培されるさつまいもブランドである、「いもジェンヌ」という品種を紹介している公式ツイッターアカウント(通称いもジェンヌさん)。

 いもジェンヌさんのツイッターには、サツマイモに関する情報や、美味しそうな蜜がたっぷりのいもジェンヌの焼き芋画像など、思わず美味しい焼き芋が食べたくなってしまうツイートが並んでいます。

 その中で、「サツマイモも画像のように黒いシミのようなものが付着している場合がありますが、これはヤラピンという成分が変色硬化したものです(固まる前は白い乳液状)。ヤラピンには整腸作用があると言われています。店頭で見つけたら『やった!ヤラピンいっぱいの芋や!』と思ってください」とツイート。

 この黒っぽい樹脂状なもの、結構べたつきがすごくてなかなか落ちにくく、リプライにも「まな板や手についてなかなか取れない」「包丁にくっついてしまった」などの反応が。

 あー、分かる。中部地方の家庭のおやつ「鬼まんじゅう」を作る時、サツマイモをさいの目に切る時にもうっかりベタってくっつくし、普通に水洗いしても取れないし。でもジャガイモのソラニンとは違って危険とも言われていないし、食べられないものじゃないからまぁいいや~、と、芋に付いている分はそのまま付けたままにしていることが多いんですよね。

 いもジェンヌさんが、同じ新潟県内で企業ツイッター活動をしている洗浄剤メーカーに聞いてみたところ、「油汚れに強い洗剤(裏に弱アルカリ性等の記載がある物)を、お湯を張った鍋等にビューっと入れてからヤラピンの付いたお皿を5~10分くらい漬けてから擦ると落ちます」という回答が。企業アカウント同士の絆も垣間見た瞬間でした。

 ところでこの「ヤラピン」とは何ぞや?初めて聞く単語に筆者は好奇心むき出しに、いもジェンヌさんに聞いてみることに。

 ヤラピン(Jalapin)というものは、サツマイモなど一部のヒルガオ科植物にできる塊根(イモ)や茎に特有の成分で、表皮部分に特に含まれている白い乳液状の物質。スカモニンIという名前でも呼ばれています。「摂取すると腸の蠕動運動を促し、便を柔らかくする効果がある」という回答をもらったので、ヤラピンについて筆者も調べてみたところ、構造的には糖脂質の仲間で、グリセロールにヤラピノール酸(オキシパルミチン)がエステル結合し、ラムノース、グルコース、ガラクトースなどの糖が結合したもの。熱に対して安定しているため、調理によって変性することがないのだとか。16世紀ごろのヨーロッパでは、このヤラピンが生薬の下剤として使われていたようです。

 樹脂っぽいべたつきは糖樹脂の仲間だったからなのですね。そして整腸作用については、サツマイモに含まれている食物繊維はセルロースが主体の多糖類で難消化性繊維。対するヤラピンは糖樹脂の仲間。樹脂といっても松脂のような塊ではなく、非常に細かな難消化性の樹脂なので、サツマイモの食物繊維に付着するなどして、腸の蠕動(ぜんどう)運動を促すと考えられます。

 と、小難しいことを書きましたが、要はサツマイモは元から食物繊維が豊富なうえ、ヤラピンが食物繊維に付着することでさらに腸蠕動を促進するという、相乗効果があることから、食物繊維による整腸作用があるという訳です(写真は編集部撮影のアヤムラサキという品種。白く輪のように見えるのが液状のヤラピン)。

 ちなみに、このヤラピン、芋に含まれている蜜とは無関係だそうで。いもジェンヌさんによると、「”蜜”は、加熱によりサツマイモ内部に含まれるデンプンがβアミラーゼという酵素の働きにより、麦芽糖に変化することで発生します。安納芋等はこのβアミラーゼ活性が高い品種のため、蜜が出やすく甘くなると思われます。ヤラピン自体は苦味をもつ成分のため、蜜との因果関係はわかりません」とのこと。

 蜜の多さはどうやら芋の品種に関係するようです。そしてヤラピンはどのサツマイモにも含まれているため、ヤラピンの量で芋の食感が変わるわけではなく、品種に依存するのだそう。「農家の間では”ヤラピンが多く出る芋は美味い芋の証拠”」とも言われているそうですが、ヤラピン自体は1939(昭和14)年に日本農芸化学会誌で、岐阜高等農林学校の小瀬伊俊による「甘藷の樹脂質に就いて」という論文が出ているくらい、古くから知られているものではありますが、あまり詳しい研究はなされていない様子。農家のうわさもあながち間違ってなさそうな気がしてきます……。

 ちなみに、この「甘藷の樹脂質に就いて」という論文によれば、ヤラピンはアルカリで処理すると水溶性に変わるという記述があり、洗浄剤メーカーさんの「油汚れに強い洗剤(裏に弱アルカリ性等の記載がある物)」につけ置き洗いをすると落ちる、というツイートにも一致します。

 「蜜にしては甘くないんだよなぁ」と思いつつ、ヤラピンの樹脂化したものと一緒に皮ごとサツマイモを食べていた筆者ですが、ひとつ謎が解けてスッキリしました。最近、お腹もスッキリしないから、サツマイモ買ってきて焼き芋にしようかな……。

サツマイモも画像のように黒いシミのようなものが付着している場合がありますが、これはヤラピンという成分が変色硬化したものです(固まる前は白い乳液状)。ヤラピンには整腸作用があると言われています。店頭で見つけたら「やった!ヤラピンいっぱいの芋や!」と思ってください。 https://t.co/OtX4s56Xcb pic.twitter.com/QfiHLwRlzu

— いもジェンヌ/新潟砂丘さつまいも (@imo_sienne) November 24, 2019

<引用・参考>
日本農芸化学会誌 1939年 15 巻 1 号 A3-A6 甘藷の樹脂質に就いて 小瀬伊俊
日本いも類研究会 Q さつまいもを切るとでてくる白い「お汁」はなんでしょうか。

<記事化協力>
いもジェンヌ/新潟砂丘さつまいもさん(@imo_sienne)

(梓川みいな)

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