祝10回!アニメライターが選ぶ2019年アニメ映画ベスト10
おたくま経済新聞 / 2020年3月14日 16時0分
第5位「ルパン三世 THE FIRST」
毎年欠かさす発表している「アニメ映画ベスト10」ですが、今回が第10回となりました。今回もまた、2019年に公開されたアニメ映画のうち、筆者が良かったと思う作品ベスト10を挙げたいと思います。選び方は完全に独断で、実際に見て“素”で良かったものを選んでいます。
なお、できるだけ多く劇場には足を運びましたが、2019年に公開された全てのアニメを網羅できているわけではありません。その点ご了承ください。それぞれご覧になった方によって順位や価値観は異なると思います。読者の皆様が注目なさったポイントと、私が注目したポイントが異なることもあり得ることを最初にお断り申し上げておきます。
※本稿はネタバレを含んでいますのでご注意ください。
■ 第10位「HELLO WORLD」現実世界そっくりに作られた仮想空間を舞台にした作品。本作に登場する仮想空間には自分の意志を持った人間すら居住しており、そのことが仮想空間の再現度をより一層高めています。
本作の台詞の中で私が特に鋭いと思ったのは、仮想空間の住人に対し、自分が住む世界が仮想空間だと納得させるのは無理だという指摘です。本作の仮想空間は自我を持った住人が住んでいますので、我々が住む現実世界に実在する仮想空間よりも未来の代物なのですが、上記の指摘は、我々が住む現実世界に実在する仮想空間に対しても鋭い意味を持っていると思います。
即ち、リアリティーが高まった仮想空間は、現実世界と区別がつかないということを意味しています。AR(拡張現実)はスマートフォンやタブレットの画面を通して視聴するので、流石に現実世界と区別がつかなくなることはないでしょうが、ゴーグルを着用して視聴するVR(仮想現実)は、現状よりももっと進化すれば現実と区別がつかない程のリアリティーを獲得するかもしれません。
本作で仮想空間が構築された理由は、歴史の記録の為に都市を丸ごと仮想空間に保存してしまおうというもので、現実の我々が昔の都市を知ろうとする場合は昔の映画や写真に頼っているのに比べれば大変価値のある行為です。仮想空間の技術を、我々がどのように進化させ、どのように活用するのか、果たして有益な活用の仕方ができるのか、この映画は我々に問うていると言えます。
<製作委員会>東宝、グラフィニカ、ひかりTV、集英社、ジェイアール東日本企画、ムービック、毎日放送、テレビ大阪、関西テレビ放送、読売テレビ放送、ローソンエンタテインメント、サイバーエージェント、丸井グループ、TOKYO MX、LINE、メモリーテック・ホールディングス
<配給>東宝
<アニメーション制作>グラフィニカ
<スタッフ>脚本:野崎まど、キャラクターデザイン/作画監督:堀口悠紀子、音楽:2027Sound、CG監督:横川和政、監督:伊藤智彦
<出演者>堅書直実:北村匠海、カタガキナオミ:松坂桃李、一行瑠璃:浜辺美波、カラス:釘宮理恵、他
テレビアニメ「響け! ユーフォニアム」シリーズの新作で、映画としては「劇場版響け! ユーフォニアム ~北宇治高校吹奏楽部へようこそ~」「劇場版響け! ユーフォニアム ~届けたいメロディ~」、そして「リズと青い鳥」に続く4作目。主人公世代は2年生となり、部長・副部長も過去の作品から交代しました。
個人的には、中川夏紀(声:藤村鼓乃美)が副部長に就任したのが感慨深い。劇中の描写では、演奏の腕前はあまり巧いとはされていませんでしたが、人柄が良かったですからね。私は現実の部活動における人事は存じておりませんが、演奏の腕前が求められる役職と、人柄の良さが求められる役職は異なるのでしょうね。
さて、本作は高校の部活動を描いた作品ではありますが、高校の部活動と雖も現代日本社会の風潮からは逃れられず、現代日本の縮図みたいになっているのが興味深かったです。本作の部活動におけるパート練習は〇時までと定められていますが、まだ不充分であると考える部員は居残りで練習する一方、練習の目的は達成されたと考える部員は帰宅します。この時、居残りで練習する部員の方が多数派なんですね。
従来の日本社会におけるよくある風潮だと、ここで「自分達は残るのにお前だけ先に帰るのか」という不満が出たり、また「遅くまで残る人が偉い」という基準で他人を評価する人が現れたりする訳ですが、近頃流行りの働き方改革によれば、長時間かけて出した成果と、より短い時間で出した成果が同じであるならば、より短い時間で同一の成果を出す方が価値のある行為であるとされています。
これを踏まえて本作の上記シーンを見ますと、もし全員が居残るべきなのであれば、最初からそれを踏まえて時刻を設定すればよい訳ですが、居残る部員が心の中で本当はどう思っているのかは別として、練習の目的は達成されたと考える部員は帰宅し、他の部員から居残りを強制されてはいません。
本作は高校生の努力や苦悩を活き活きと描いている点が優れていますが、それだけではなく、現代日本社会特有の事情を背景にチョロッと潜り込ませることで、よりリアリティーのある作品になっているというのが筆者の結論です。
<製作委員会>京都アニメーション、ポニーキャニオン、バンダイナムコアーツ、楽音舎
<配給>松竹
<アニメーション制作>京都アニメーション
<スタッフ>原作:武田綾乃、原作イラスト:アサダニッキ、脚本:花田十輝、キャラクターデザイン:池田晶子、総作画監督:池田晶子/西屋太志、楽器作画監督:髙橋博行、音楽:松田彬人、監督:石原立也
<出演者>黄前久美子:黒沢ともよ、吉川優子:山岡ゆり、中川夏紀:藤村鼓乃美、久石奏:雨宮天、他
サンエックスのキャラクター商品「すみっコぐらし」の映画化。本作の最も魅力的な点は、キャラクター(すみっコと呼ばれる)が可愛いことなのですよ。すみっコが喫茶店のソファーで座っているだけで可愛いんですからもう反則です。
ストーリーは、すみっコ達が世界の童話を描いた絵本の中に入り込んでしまうというもので、絵本の世界の住民との出会いを描いています。出会いがあれば必ず別れもあるということで、終盤の別れのシーンがとても悲しかったです。しかし本作の良い所は悲しい別れのシーンの後に心温まる展開を用意し、後味の良い余韻を残したことです。
<製作委員会>アスミック・エース、サンエックス、ファンワークス、タカラトミー、イマジニア、日本コロムビア、ジェイアール東日本企画、主婦と生活社、イオンエンターテイメント、システムサービス、日本出版販売
<配給>アスミック・エース
<アニメーション制作>ファンワークス
<スタッフ>原作:よこみぞゆり、脚本:角田貴志、音楽:羽深由理/出羽良彰/堀川真理子、監督:まんきゅう
<出演者>井ノ原快彦、本上まなみ
テレビアニメ「あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない。」そして映画「心が叫びたがってるんだ。」に続く、埼玉県秩父地方を舞台にした作品です。本作は、13年前に両親を事故で亡くして以来、2人で暮らしてきた相生あかね(声:吉岡里帆)と、あおい(声:若山詩音)の姉妹を描きます。
私が本作の中で特に印象深かった場面は、あおいがあかねのノートを発見する場面です。そこには家事のやり方が詳細に記載されていたのでした。本作ではあかねが現在のあおいの年齢について、13年前の自分と同じ年齢になったと感慨深く語る場面があるのですが、私の推測によれば、あおいも13年前のあかねと同じ年齢になってしまったと感慨深く思っているのではないでしょうか。
私事で恐縮ですが私も10年位前は、10歳位上の諸先輩方に色々と尻拭いをして戴いたものですが、約10年経って私の年齢も当時の諸先輩方と同年代になってしまいました。しかし現在の私が当時の諸先輩方と同様に後輩の面倒を見ているかと言うと全くそんなことはなく、現在の私は大変お恥ずかしいことに約10年前に現在の私と同年代だった諸先輩方のレベルには全く達しておりません。
そんなことを思いながら、あおいがあかねのノートを発見する場面を見た訳でありますが、本作で胸を打つのは、あおいが、あかねが家事に苦労したことに思いを馳せ、だからこそあかねにはこれ以上の苦労をさせたくないという思いやりです。今までお世話になったことに対する恩返しの感情は、とても大切な気持ちだと思います。本作は、自分に負担を強いながらも妹の為を思う姉の有り難さと、姉に感謝する妹の気持ちが、とても美しい作品だったと結論付けることができます。
<製作委員会>アニプレックス、フジテレビジョン、東宝、STORY、KADOKAWA
<配給>東宝
<アニメーション制作>CloverWorks
<スタッフ>原作:超平和バスターズ、脚本:岡田麿里、キャラクターデザイン/総作画監督:田中将賀、音楽:横山克、監督:長井龍雪
<出演者>相生あおい:若山詩音、相生あかね:吉岡里帆、金室慎之介:吉沢亮、新渡戸団吉:松平健、他
宗田理の小説のアニメ映画化。1988年公開の実写映画『ぼくらの七日間戦争』と同一の時間軸となっています。本作の面白さとしてまず挙げられるのは、理不尽な大人と、それに反抗する少年少女による攻防戦です。戦いは廃工場を舞台に繰り広げられますが、工場の設備を巧みに利用して大人を撃退する少年達の智慧は見事です。
このような物理的な攻防戦も充分盛り上がるのですが、本作は2019年に制作されただけあって、現代に相応しい攻防戦を用意します。それは、大人と少年がお互いにインターネット世論を有利に導こうとした点です。現実のインターネット空間で繰り広げられている醜い騒動を、かなりショッキングな形で再現し、話題になった人物がいれば「あいつは何という学校に通う何という奴だ」と個人情報を暴露し、 憎悪に満ちた罵詈雑言を繰り広げる行為を極端に描くことで、現実社会の我々に警告を与えていると言えるでしょう。
インターネット上の炎上から、登場人物の間にも不信感が蔓延しますが、インターネットから生じる憎悪を超克したのは、生身の人間同士による面と向かった対話でした。インターネットに端を発する炎上事件が日常茶飯事である現代社会人に対して、人間関係の再考を促した作品であったと結論付けることができます。本作は理不尽な大人とそれに反抗する少年少女の戦いの物語でしたが、同時に、理不尽な大人に反発する大人の戦いの物語でもあり、理不尽な目に遭っている世の大人達をも勇気付ける作品でありました。
<製作委員会>KADOKAWA、ギャガ、電通、グローバル・ソリューションズ、ソニー・ミュージックソリューションズ、亜細亜堂、GYAO、TBSラジオ、ユニバーサル ミュージック、読売新聞社
<配給>ギャガ/KADOKAWA
<アニメーション制作>亜細亜堂
<スタッフ>原作:宗田理、脚本:大河内一楼、キャラクター原案:けーしん、キャラクターデザイン:清水洋、総作画監督:清水洋/西岡夕樹、音楽:市川淳、監督:村野佑太
<出演者>鈴原守:北村匠海、千代野綾:芳根京子、山咲香織:潘めぐみ、緒形壮馬:鈴木達央、本庄博人:大塚剛央、阿久津紗希:道井悠、他
息の長い人気を誇る「ルパン三世」シリーズの最新作。本作品には、歴史の裏を探るワクワク感と、アクション面のワクワク感という二つのワクワク感が同居していました。
本作のストーリーは第二次世界大戦中のフランスの場面から始まります。ナチス占領下の北フランスかビシー政権下のフランスのどちらかと思われますが、このフランスの歴史が現代のストーリーに繋がっているのです。
劇中世界の現代では、何とナチス総統であるアドルフ・ヒットラーが生存しているという噂が流れています。ちなみに、ヒットラーが生存していたという設定の作品では、昭和40年公開の映画「クレージー・キャッツ結成十周年記念映画 大冒険」(本篇監督:古沢憲吾/特技監督:円谷英二)もありましたが、本作もフィクションであるが故に、現実世界とは全く異なる現代史が描かれ、「一体この作品の世界では戦後の歴史はどうなっているんだ!!」と観客に興味を抱かせています。
本作のもう1つの魅力はアクション。画面の中の要素が縦横無尽に動き回り、軽快さや迫力を生んでいました。例えば、飛行機同士の空中戦。本作の山崎貴監督は、実写映画「永遠の0」で迫力溢れる空中戦を描きましたが、本作でも手に汗握る空中戦が描かれています。
また、天変地異を発生させるエネルギーの描写でも、この世の終わりかのような絶望感に満ちていました。もちろん「ルパン三世」シリーズらしく、観客にスリルを与えるものばかりではなく、喜劇的なアクションシーンもあり、観客に喜怒哀楽の感情を与える娯楽性の高いものとなりました。次元大介がルパン三世を助けると思いきや助けなかった場面では笑ってしまいました。
印象深かったのは、悪役に良心が残されていたシーンです。悪役が心の底から悪人であったならば、登場人物の1人はショックを受けていたでしょうが、その登場人物のショックも多少は和らいだことでしょう。
そして一番のお気に入りは、予告篇でも出てきたルパン三世、銭形警部、次元、石川五ヱ門、峰不二子がズラリと並んでポーズを決めるカット。映画館のグッズ売り場で売られていたクリア栞にも、そのカットが含まれていたので即購入しました。
<製作委員会>トムス・エンタテインメント、日本テレビ放送網、東宝、バップ、読売テレビ放送、白組、阿部秀司事務所、札幌テレビ放送、ミヤギテレビ、静岡第一テレビ、中京テレビ放送、広島テレビ放送、福岡放送
<配給>東宝
<アニメーション制作>トムス・エンタテインメント/マーザ・アニメーションプラネット
<スタッフ>原作:モンキー・パンチ、脚本:山崎貴、音楽:大野雄二、CGスーパーバイザー:荒川孝宏、共同監督:波田琢也/中嶌隆史、監督:山崎貴
<出演者>ルパン三世:栗田貫一、レティシア:広瀬すず、ランベール:吉田鋼太郎、ゲラルト:藤原竜也、他
3分間だけ時間を止められる高校生・森谷美鈴と、美鈴が時間を止めている時も唯一動き回れるクラスメイト・村上遥の人間関係を描く、さと原作の漫画をアニメ化した作品です。本作で私が重要だと思った点は、美鈴も遥も、そのアプローチは異なるけれども、他人に対してあまり信用せず、表面的に上手くやり過ごせばいいと考えていることでした。
美鈴が時間を止めた状況として、クラスメイトの小林由香利に話し掛けられて面倒臭かったから時間を止めた、という場面がありました。つまり、その場しのぎのやり方でクラスメイトとのコミュニケーションを避けているのです。
一方、遥はクラスメイトから授業のノートをうつさせてと頼まれれば快く貸し出す、心優しく頼り甲斐のある人物。しかし実は、遥は自我を押し殺した上で他人の望みに応えているだけであり、本心では「自分は本当はこういう人間なんだ」と周囲に公表したいという願望を持っているようです。
本作の後半で、美鈴と遥がお互いに普段隠していた「言いたいこと」をぶちまける場面があるのですが、この場面こそ本作における重要な点を解決に導く通過点と言えます。
人間同士の真の信頼関係を築き上げる為には表面だけ取り繕ってなあなあでやっているだけでは駄目なのだ、そうやって得られた人間関係は、一見、友好的に見えるけれども、その実態は上辺だけの関係に過ぎないのだ、という痛烈な指摘が描かれているのです。そこで、美鈴と遥が本音をぶつけ合う場面が重要な意味を持ってきます。あのような激論を経験した上で成り立つ友情こそ本物なのですね。
美鈴はクラスメイトの由香利から話し掛けられた時、面倒臭いので時間を止めて逃げていたのですが、ある時、きちんと受け答えをして以来、信頼できる友人関係になります。このエピソードも、人間関係から逃げているだけでは人間関係は築けない、真っ正面から他人に向き合うべきだというメッセージを発しているように見受けられます。
<配給>ポニーキャニオン
<アニメーション制作>ティアスタジオ
<スタッフ>原作:さと、脚本:佐藤卓哉、キャラクターデザイン:須藤智子、音楽:rionos、監督:佐藤卓哉
<出演者>森谷美鈴:伊藤美来、村上遥:宮本侑芽、小林由香利:安済知佳、他
ゲーム「モンスターストライク」の登場キャラクター・パンドラ(本作では声:小倉唯)と、アニメ「ハクション大魔王」のアクビ(本作では声:天城サリー)が会社の垣根を越え、アニメとゲームというジャンルの垣根も越えて異色の共演!アクビだけでなく、歴代のタツノコプロ作品のキャラクターも何人も登場しています。
個人的に印象深かったのは、「ヤッターマン」の敵キャラクターであるドロンジョ(本作では声・甲斐田裕子)です。ドロンジョは敵キャラクターでありながらも、昭和52年のアニメでは実は純情な心を持った乙女としても描かれました。本作では、ドロンジョのまた違う一面が描かれ、ドロンジョの魅力が深まっています。
本作でドロンジョは、普段は面倒見の良い店員として正体を隠しながらも、自分のせいで悪人に捕えられたパンドラとアクビを助けに来るという義侠心に厚い一面も持った人物として描かれました。普段、店員をしている時も優しくていい人なんですけど、義侠心にあふれた姿も超カッコ良かったです。
<製作>XFLAG
<配給>角川ANIMATION
<アニメーション制作>BAKKEN RECORD
<スタッフ>原作:XFLAG/タツノコプロ、キャラクターデザイン/総作画監督:大倉啓右、音楽:小畑貴裕、監督:曽我準
<出演者>パンドラ:小倉唯、アクビ:天城サリー、三船剛:吉野裕行、ルイーズ:甲斐田裕子、グズラ:江原正士、他
テレビアニメ「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」とシリーズをなす一篇。第一印象として、美しい映像に目を奪われます。朝の日差しが一気に建物に差し込む描写や、木洩れ日の中を進む場面等は大変緻密で、まるで単独の絵画のようです。
ストーリーの方は、手紙が重要な要素となっており、主要登場人物であるイザベラ・ヨーク(またの名をエイミー・バートレット)が、テイラー・バートレットに手紙を送る場面と、テイラーがエイミーに手紙を送る場面があります。
いずれも手紙の本文は短いものなのですが、この2通の手紙を見て私が改めて感じたことは、手紙は文字を運ぶものではなく思いを運ぶものなんだということです。つまり、文字情報だけを見れば、この2通はあまり多くを語っていないのです。しかし、これらの手紙に込められている情報量は文字数より遥かに多く、お互いがお互いのことを大事に考えているという愛情や思いやりが沢山詰まっています。私も、手紙を書く際は、手紙というものは単なる文字情報を伝達する手段ではなく、思いを伝達をするものだと意識していきたいものです。
さて、本作を制作した京都アニメーションについては、あの放火事件が本作の完成翌日だったということも含め、非常に胸が痛みます。お亡くなりになった方々に哀悼の意を表すると共に、負傷された方々が心身共に健やかにお過ごしになれるようお祈り申し上げ、更には会社のご発展もお祈り申し上げる次第です。
<製作委員会>京都アニメーション、ポニーキャニオン、ABCアニメーション、バンダイナムコアーツ、楽音舎
<配給>松竹
<アニメーション制作>京都アニメーション
<スタッフ>原作:暁佳奈、脚本:鈴木貴昭/浦畑達彦、キャラクターデザイン/総作画監督:高瀬亜貴子、音楽:Evan Call、監督:藤田春香
<出演者>ヴァイオレット・エヴァーガーデン:石川由依、イザベラ・ヨーク:寿美菜子、テイラー・バートレット:悠木碧、他
ゲームソフト「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」をアニメ映画化。かつてスーパーファミコン版ドラクエVをプレイした観客を、二段階で懐かしいドラクエVの世界に引き込みます。
冒頭でスーパーファミコンの画面が映し出され、観客をスーファミの時代にタイムスリップさせました。ただスーファミの画面を出したことにより、途中までのストーリーがすっ飛ばされてしまったので、ゲームをプレイしていない観客にはストーリーが分かりづらくなってしまいました。
さてスーファミの画面を経て、いよいよ新たに制作された映像に突入します。それまで4:3のSDテレビの画面比率から、一気に横長のシネマスコープに切り替わるため、一気に世界が広がる感じがします。ここから、ゲームで描かれた感動的な場面が次々と新たな映像となって甦ります。
まず私が挙げたいのが、主人公・リュカが父親であるパパスからの手紙を読む場面です。スーパーファミコン版ではこの場面で「哀愁物語」という泣ける曲が流れるのですが、映画版でもやはりここで「哀愁物語」が流れて場面を盛り上げています。
次に挙げたいのが、リュカがタイムスリップして幼い頃の自分自身に会う場面です。大人になったリュカは、幼い頃の自分を励まそうとするのですが、逆に幼い頃の自分から励まされる展開が描かれました。とても勇気付けられる場面です。そして映画版におけるこの場面では、スーパーファミコン版にはなかった描写が登場するのですが、この追加描写が感動的でした。
ここで本作の劇伴についても言及しておきます。本作ではゲーム版ドラクエVの劇伴が流れますが、それだけではなく、歴代ドラクエシリーズの劇伴が幅広く活用されています。プサン(声:安田顕)が魔王について語る場面では、ドラクエVIの劇伴「ムドーの城」、リュカとヘンリー(声:坂口健太郎)の友情を象徴する場面でドラクエVIの劇伴「精霊の冠」が流れ、2人の友情が確固とした厚みのあるものであると表現していました。喜劇的な場面ではドラクエVIの「空飛ぶベッド」が流れ、ラストでは、ドラクエIIのエンディングを飾った名曲「この道わが旅」。もう感慨無量です。
個人的に、最も感動的なポイントだと思うのが、タイトルの「ユア・ストーリー」です。本作で描かれたストーリーが、単なる架空の世界における架空の人物による冒険ではなく、観客が自ら体験した冒険であり、観客の血肉になっているということを表現しているのです。
<製作委員会>東宝、日本テレビ放送網、アミューズ、スクウェア・エニックス、読売テレビ放送、白組、電通、ROBOT、阿部秀司事務所、KDDI、カルチュア・エンタテインメント、読売新聞社、LINE、GYAO、札幌テレビ放送、宮城テレビ放送、静岡第一テレビ、中京テレビ放送、広島テレビ放送、福岡放送
<配給>東宝
<アニメーション制作>白組、ROBOT
<スタッフ>原作/監修:堀井雄二、脚本:山崎貴、音楽:すぎやまこういち、CGスーパーバイザー:鈴木健之、監督:八木竜一/花房真、総監督:山崎貴
<出演者>リュカ:佐藤健、ビアンカ:有村架純、アルス:内川蓮生、サンチョ:ケンドーコバヤシ、パパス:山田孝之、マーサ:賀来千香子、他
余談ですが、意図的に選んだ訳ではないものの、1位の「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」、2位の「ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝 -永遠と自動手記人形-」、5位の「ルパン三世 THE FIRST」と、ワイドな画面比率のシネマスコープ映画が3本もランクインしました。ベスト10には入りませんでしたが「HUMAN LOST 人間失格」もシネスコ映画でしたので、2019年のアニメ映画はシネスコ映画が例年よりも多かったことになります。
以前はシネスコサイズのアニメ映画が世に出るのは、数年に1本とか1年に1本とかのペースでしたので、驚くべきことですが、むしろ歓迎すべき事態であります。やっぱシネスコはいいですよね!映画はやっぱりシネスコですね!
(文・撮影:コートク)
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