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札幌市の「発達障害虎の巻」 雇う側も雇われる側も救われる内容ぎっしり

おたくま経済新聞 / 2020年6月10日 10時0分

札幌市の「発達障害虎の巻」 雇う側も雇われる側も救われる内容ぎっしり

札幌市保健福祉局障がい保健福祉部障がい福祉課作成

 ここ最近になって、やっと「発達障害」についての認知度が広がりつつありますが、世間の目は未だ偏見と無理解に満ちています。しかし、理解すれば案外何とかなったりするもの。札幌市ではそんな発達障害の皆さんと一緒に働くための「虎の巻」を公開しています。

 札幌市が市民に向けて発行している冊子である、「発達障がい啓発冊子『虎の巻』」は、発達障害のある人たちが学校や職場、暮らしにおいてトラブルになりがちな「認識の違い」とその解決策となる支援のポイントを示し、各年代のステージごとに起こりがちなトラブルや、その対処法をイラストなどを交えて紹介しているもの。

 「発達障害」といっても、その括りは非常に大雑把で個性も様々。ひと昔前までは「自閉症」と括られていましたが、今ではアスペルガー症候群含む広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の「障害」という定義がなされています。

 しばしばこれらの特性は混ざり合って出てくる事も多く、特に幼少期はその特性ゆえに他の子どもとのコミュニケーションの困難さにより、衝突も多くみられます。言葉で不快な感情を表示する事が不得意な傾向が多い分、暴れる、自傷や他害といった行動に走りがちになります。

 そして、いわゆる「定型発達」と呼ばれる脳機能の状態が多数派な人とは明らかに違う特性を持っています。定型とは違う、「非定型」の発達を遂げた脳機能は、先述のようにコミュニケーションに問題が出る事が多く、感覚過敏や衝動性の強さ、知的障害はないが学習に関する何らかの機能が阻害されている事も。これらは、周囲の理解と援助・自助器具などがあれば解消される事がほとんどです。

 この様な特性を持つ人たちは、得意な事は突き詰めて得意に、苦手な事はどうやっても難しいという非定型の脳機能を持っています。定型発達の人の平均を球体と例えると、非定型の発達を遂げた人は定型発達の人の様な球体ではなく、いびつな形の金平糖のようにデコボコしていたり、どこかが突き抜けて飛び出ていたりへこんでいたりするのです。

 デコボコが大きく、定型発達に合わせて作られた社会に馴染めない……その「生きづらさ」を抱えている事を「障害」という言葉で括っているのですが、多数派でないだけで「障害」とされてしまう事に疑問や違和感を覚える人は少なくありません。

 札幌市では、平成17年度から「発達障害者支援法」における発達障害の理解に関する普及啓発を行うにあたり、発達障害者の乳児期から成人期までの一貫した支援を行うため、「札幌市発達障がい者支援体制整備事業」を実施しています。

 その支援をしていく為の検討の中で、当事者や家族、支援者から「生活で使える参考書を紹介してほしい」、「成人期の就労支援に関する資料が必要」との声が上がってきたそうです。

 支援を始めた当時、市販書では小児・学齢期を対象としたものが多くを占め、成人期のものは限られていました。発達障害という言葉が広がっていくとともに、大人になってから「もしかしたら自分も発達障害かも」と思い当たる人が増え、実際に「大人の発達障害」というワードも出てきました。

 しかし、幼児期から学童期の療育は確立されつつあったものの、成人における支援、特に就労に対する支援は現在よりもずっと少なく、「障害」という言葉の響きもあってか、なかなか当事者と雇用側とのマッチングが上手くいかないという大きな壁が。

 札幌市では、このような状態を踏まえて独自の就労に関する啓発冊子を作成すべく、平成21年度に市内の就労支援関係者によるプロジェクトチームを発足。自閉症などの高機能広汎性発達障害のある方への理解を促す事を目的として、一般の職場向けに、発達障害を持つ人たちへの支援ポイントをまとめた冊子「職場で使える『虎の巻』」を作成しました。

 また平成22年度には、市内の生活支援関係者による、生活の場での発達障害を持つ人たちへの支援ポイントをまとめた「暮らしで使える『虎の巻』」を作製しています。

 現在では大人へ向けての支援となる「虎の巻」の内容からから遡った、「学校で使える『虎の巻』」「続・学校で使える『虎の巻』」、さらに幼児期の子どもへの支援を中心に構成されている「子育てで使える『虎の巻』」が、札幌市民に配布されています。

 さらに、市外の人もその内容を知る事ができるように、全内容がPDF化され、札幌市ホームページ内に掲載されています。

 発達障害自体は、その脳の機能的な特性が多数派の人と乖離が大きければ大きいほど、周りとのギャップを感じて生きづらさを覚える傾向があります。乖離が少ない人はある程度のコミュニケーション能力があれば問題なく社会生活を行えますが、乖離が大きい人は、他者とのコミュニケーションを何らかの補助や支援に頼らざるを得なくなります。

 他者とのコミュニケーションが苦手な人でも、明らかに得意と苦手がはっきりしている人も、何らかのスキルに秀でている素質を持つ人は大勢います。その素質を持つ人が適切な支援を受け、社会に貢献できるスキルを磨く事ができれば、それは発達「障害」という括りで診断が下りている当事者にも、社会全体にとっても大きなプラスとなるのではないでしょうか?もちろん、その為には発達障害と診断された当事者も、自身の凹凸をよく知り、自分の得意と苦手を人に上手に伝える事ができるというスキルを付けておく事も、相互理解のための重要事項の一つとなるでしょう。

<紹介協力>
札幌市保健福祉局障がい保健福祉部障がい福祉課

(梓川みいな/正看護師)

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