アメリカ強襲揚陸艦ボノム・リシャール 大火災からの修復を断念し退役・解体へ
おたくま経済新聞 / 2020年12月1日 21時0分
夜間も消火作業が続くボノム・リシャール(Image:U.S.Navy)
定期整備中のカリフォルニア州サンディエゴで2020年7月、大火災が発生したアメリカ海軍の強襲揚陸艦ボノム・リシャール。アメリカ海軍は2020年11月30日、艦の修復を断念し退役させると発表しました。今後ボノム・リシャールは解体されることになります。なお、代替艦の建造は予定されていません。
アメリカ第7艦隊の強襲揚陸艦ボノム・リシャール(LHD-6)は、前方配置先だった長崎県の佐世保から定期整備のため、強襲揚陸艦ワスプ(LHD-1)と任務を交代し、カリフォルニア州サンディエゴ基地へと2018年に移動しました。岸壁に接岸していたボノム・リシャールで火災が発生したのは、2020年7月12日の朝8時30分頃のこととされています。
ボノム・リシャールの乗組員数は1000名あまりですが、定期整備中ということもあり、ほとんどが陸上での勤務となっていたため、火災発生当時に艦内にいたのは160名ほど。火災警報により、艦の消防隊を除いては速やかに避難が進み、幸いにも乗組員の死亡者はいませんでした。
しかし、ここからが長期間にわたる消火作業の始まり。密閉空間である艦内は火災により高熱となり、消火にあたる消防隊の前進を妨げます。まずは消防隊が活動できるよう、艦の外側から放水し、温度を下げる措置がとられました。
サンディエゴ基地にある消防艇が総動員され、ボノム・リシャールの外側から放水して温度を下げます。同時に、ヘリコプターも上空から飛行甲板に放水し、艦内の温度を下げて消防隊が活動できる状況を作るため奮闘しました。
海軍だけでなく、近隣の連邦消防局からも応援が駆けつけ、24時間体制で消火作業が続きます。一時は艦橋構造物からも炎が吹き出し、レーダーマストも高熱により座屈するまでに至りました。
出火からまる4日が経過した7月16日、ボノム・リシャールが所属する第3遠征打撃軍司令官のフィリップ・ソベック少将の記者会見で、発見できた火はすべて消火したと発表され、火災はようやく鎮圧されました。その後、鎮火が確認されています。
4日以上にわたって燃え続けたボノム・リシャールの被害は甚大で、当初から火災の高熱によって強度が低下した艦を修復できるのかは疑問視されていました。11月30日、海軍から正式にボノム・リシャールの修復を断念し、退役・解体することが発表されたのです。
ケネス・J・ブレースウェイト海軍長官は、ボノム・リシャールの処分について「軽々に判断したものではありません。様々な案を検討し、調査した結果、修復するには財政面で不可能であるという結論に至りました。費用対効果の面から修復が断念されたのは悲しいことですが、就役から22年にわたり、船とともに航海し、戦った人々の中でボノム・リシャールは生き続けることでしょう」との談話を発表しています。
海軍の試算によると、ボノム・リシャールを修復する場合、建造予算の倍に相当する約30億ドル(約3130億円)以上の予算と5年〜7年の期間が必要とされました。また、代替艦を建造した場合では、10億ドル以上の予算が必要との試算もなされ、同じ額で新たな病院船や潜水母艦、指揮統制艦といった艦船が建造できるとの結論に至ったといいます。
解体に至るまでの予定はまだ確定していませんが、海軍は今後、ほかの艦船で再利用可能な装備をボノム・リシャールから回収し、退役の手続きを行なうとのこと。現在も出火原因や火元の特定といった調査は継続して実施されています。
ボノム・リシャールの火災を受け、海軍では艦船や港湾施設における防火のプログラムを改訂。艦隊司令官は協力して海軍の防火規則に基づいて防火体制の評価プログラムを確立し、消火作業は修復可能な艦船を優先させるという形になったといいます。
結果として強襲揚陸艦ボノム・リシャールを失う、という大きな火災となりましたが、海軍はこれを教訓に防火体制や消火作業についての指針を見直すことに。起こって欲しくはないでしょうが、この教訓は将来、役に立つ時が来るかもしれません。
<出典・引用>
アメリカ海軍 プレスリリース
Image:U.S.Navy
(咲村珠樹)
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