自宅敷地にマイ機関車とマイ踏切! 夢を叶えた鉄道ファンに話を聞いた
おたくま経済新聞 / 2021年1月2日 18時0分
玄関先にディーゼル機関車の通る踏切がある歩鉄の達人さん宅
鉄道ファンにとって、実物の車両を手に入れることは夢の1つ。しかし実際には置く場所を確保できないなど、夢の実現には高いハードルがあります。そんな夢を実現しただけでなく、玄関先で実際に動かして踏切まで作動させる、というすごい人がTwitterで注目されました。ご本人に経緯や、今後の夢などをうかがいました。
玄関先に動く踏切と機関車がある、というこの方は「歩鉄の達人」さん。実は鉄道趣味界においては、特に廃線探索のジャンルで非常に有名な方です。また、今回Twitterで注目された、ご自宅に設置したディーゼル機関車もよく知られていて、これまでもテレビでたびたび取り上げられているという経歴の持ち主。
今回リモートでお話をうかがったのですが、実は歩鉄の達人さん、子供の頃からの鉄道ファンではなく、鉄道好きの息子さんがきっかけで鉄道に興味を持ち、ファンになったといいます。模型のミニ四駆でも、我が子を手伝っているうち自分でもハマってしまう……というケースが見られますが、それと似た経緯のようです。
ディーゼル機関車を入手した経緯は、鉄道趣味が高じるうち、実物の車両を手に入れられないか……と思い始めた頃、息子さんがネットで「JR貨物北陸ロジスティックスが不要になった除雪車(モーターカー)を売却する」という話を見つけてきたことに始まります。金額的に出せない価格ではなかったので、問い合わせてみたところ、先方は「モノが大きいので、ぜひ現物を実際に見てください」とのこと。
さっそく、その除雪車が置いてある日本海縦貫線(北陸本線/現:えちごトキめき鉄道)の駅まで足を運び、寸法を測ってみたところ、ロータリーヘッド(除雪機)部分を除けば、自宅のガレージに収まるサイズであることが判明。ロータリーヘッドを取り外し、モーターカー(機関車)本体のみを購入し、自宅へと運んで設置してもらったといいます。
費用の半分くらいは、輸送前の準備(ロータリーヘッドの取り外し作業)にかかった手間賃と、陸送・設置費用だったとのこと。基本的に廃用になった機械(モーターカーは区分上「鉄道車両」ではなく「作業機械」扱いとなる)なので、本体は廃品引き取り価格と同等だったそうです。ちなみにロータリー除雪車なので、本来の「前」はロータリーヘッドが付いていた側で、現在正面になっている方は本来の「後尾」となります。
歩鉄の達人さんのご自宅にやってきたのは、福島県にある協三工業が1976年に製造した「10t動車」という小型のディーゼル機関車(モーターカー)。協三工業は、東京ディズニーランドのアトラクション「ウエスタンリバー鉄道」で使用されている蒸気機関車と客車を製造したメーカーで、21世紀に入っても蒸気機関車製造ノウハウを持つ日本唯一の会社でもあります。
雪深い地で長年活躍して廃用となっただけあって、車体各所にはサビが浮き、腐食してボロボロになった部分もあったそうですが、時間を見つけて丹念にレストア作業を進めたという歩鉄の達人さん。素人目にはエンジンの部品などの調達が難しいと思ったのですが、搭載されていたのがトラック用のエンジン(日野自動車DS50A型直列6気筒7982cc:定格出力127PS/2000rpm)や機器類だったこともあり、専用品がなくても様々な部品で代替できたそうで、試行錯誤しながら作業を進めたそうです。
現役時に準じた黄色い警戒色で車体を塗装し、一旦レストアは終了したものの、年月が経って塗膜が劣化したため、今度は国鉄のディーゼル機関車標準色だった「朱色4号(金赤色)」に色を調合して再塗装。その後、機関車の位置は90度横向きになり、玄関へのルートを開けることになりました。
その際、レールの敷設距離を延長し、玄関へのルート上に踏切を設置することに。廃用になった遮断機を入手し、踏切警報機と3位式色灯信号機も揃えました。
歩鉄の達人さんのすごいところは、ほとんどの作業をDIYで済ませてしまうところ。一級建築施工管理技士の資格をお持ちだということもあり、機関車移設時の施工図面をひいたりといった専門的な作業もできるのは大きな強みですね。機関車の移動も、ご自分でなさっているのには驚きです。
信号機は灯具だけで電球が入っていなかったため、トラック用のLEDランプを仕込んで光らせるように。踏切の動作に合わせて赤・黄・青と点灯するようにもしています。踏切の警報音は、同じくトラック用のバック警戒音に踏切の音を模したものがあったため、それを流用しているそうです。
踏切の作動に関しては、実際の線路を利用した「軌道回路」をこの機関車では作れない(モーターカーは軌道回路を構成しないよう車輪が絶縁されている)ので、レールにスイッチを取り付け、機関車が動くことで作動するような仕掛けになっています。ご近所迷惑にならないよう、警報音は独立してオン・オフができるようになっているとか。
だいたい月に1度くらいの割合でエンジンを動かしているそうですが、エンジン音は古いトラックと同じくらいだとのこと。長年住んでいることもあり、ご近所さんからの理解も得られていて、むしろ「名所」的な存在になっているそうで、街歩きスタンプラリーのスポットになったこともあるんだとか。すっかり日常に溶け込んでいるんですね。
今後、踏切をさらに改造するため、わざわざ電気工事士の試験を受験された歩鉄の達人さん。さらに踏切非常停止ボタンも入手したそうで、この熱意とバイタリティには頭が下がります。
このほかにもドローン撮影(無人航空従事者1級・国土交通省の全国包括申請承認済み)や、レンガ構造物、マンホール(全国網羅済み)と、鉄道以外にも多彩な趣味をお持ちの歩鉄の達人さんですが、今後の夢をうかがうと「まとまったお金があったら、レンガで機関車庫を作りたいですね」と語ってくれました。
この際も、斜めに交わる橋やトンネルを作る際、アーチ部の荷重を平均化するためスパイラル状にレンガを組み上げる「ねじりまんぽ」という手法で作ってみたいとのこと。筆者はレンガ構造物のバットレス(控壁)が好きなので、それが壁面に付くといいな、とも思ってしまいました。
DIYで少しずつ進化していく、歩鉄の達人さん宅の踏切とディーゼル機関車。どのように変化していくのか、これからも楽しみです。
踏切が家にあると、ちょっと嫌なことがあっても「まあ家に帰れば踏切があるしな」ってなるし仕事でむかつく人に会っても「そんな口きいていいのか?私は自宅で踏切とよろしくやってる身だぞ」ってなれる。機動力を求められる現代社会において踏切と同棲することは有効。 pic.twitter.com/S04JPvVkYV
— 歩鉄の達人 (@hotetunotatujin) December 12, 2020
<記事化協力>
歩鉄の達人さん(@hotetunotatujin)
(咲村珠樹)
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