アメリカ軍とNATO軍 アフガニスタンからの撤退を正式決定
おたくま経済新聞 / 2021年4月15日 19時11分
記者会見するブリンケン国務長官(左)ストルテンベルグNATO事務総長(中)オースティン国防長官(右)(Image:NATO)
アメリカとNATOは2021年4月14日(現地時間)、アフガニスタンに派遣している軍の部隊を完全に撤退させることで合意したと発表しました。アメリカ軍は5月1日より撤退を開始し、派遣のきっかけとなったアメリカ同時多発テロから20年となる9月11日までに完了させるとしています。
2001年9月11日のアメリカ同時多発テロをきっかけに始まった「テロとの戦い」。中でもアフガニスタンは、アメリカ同時多発テロの首謀者とされたウサーマ・ビン・ラーディン容疑者、彼を支援するタリバン政権を攻撃目標とし、アメリカをはじめとする多国籍軍が展開して作戦を行ってきました。
NATOにとってアフガニスタンでの「テロとの戦い」は、アメリカ同時多発テロを受けて2001年9月12日に採択された国連安保理決議1368に基づく、NATO創設以来初めてとなる集団的自衛権を行使する軍事行動となりました。これにより、アメリカとともにカナダ、ドイツ、フランスなどが共同でアフガニスタンへの攻撃を行なっています。
一連の作戦により、アフガニスタンを支配していたタリバン政権は倒れ、ハーミド・カルザイ氏を中心とする暫定政権が誕生。カルザイ氏は2004年の選挙で大統領に就任し、正式に新しいアフガニスタン・イスラム共和国が成立しました。
しかし、新しい政体となってもタリバンは地方で抵抗活動を続け、自爆テロなど様々な事件が頻発。アメリカをはじめとするNATO軍は、これらタリバン残党の掃討作戦を続けるとともに、アフガニスタンの軍や治安組織を育成し、国家が取り締まりにあたれるような土壌づくりを行いました。
現在、アフガニスタン国内の治安維持はアフガニスタン人に移管され、安定して活動が続けられるようになりました。また、2020年2月にはアメリカとタリバンとの間に和平合意が成立。これにともない、アメリカは駐留部隊の人員を徐々に減らしていきました。
これら和平プロセスの進展により、アメリカをはじめとするNATOでは、派遣部隊の完全撤退を協議すべく、2021年4月14日にベルギーのブリュッセルにあるNATO本部にて、加盟国による国防相・外相会合を開催。その結果、派遣軍の完全撤退が決議されたのです。
会合終了後の記者会見にはNATOのストルテンベルグ事務総長と、アメリカのブリンケン国務長官、オースティン国防長官が出席。撤退決議について説明しました。
最初にストルテンベルグ事務総長が発言し、これまで20年にわたる軍事作戦と、アフガニスタンの民主化支援の道のりを振り返り、現在駐留する外国軍部隊(約1万名)の大部分を占めるNATOからの部隊を5月1日より撤退させることを伝えました。
ストルテンベルグ事務総長は「これでアフガニスタンとの関係が終わるわけではありません。むしろ、新しい章の始まりです。NATOの同盟国とパートナーは、アフガニスタンの人々ともにあり続けます。しかし、今はもうアフガニスタンの人々自身で持続可能な平和を築く時なのです。暴力に終止符を打ち、全てのアフにスタン人、特に女性や子ども、マイノリティの権利を保護し、法の支配を維持します。そして、アフガニスタンが再びテロリストにとって安全な場所として機能させないことを保証します」と語りました。
同時に、この防衛省・外相会合ではクリミア併合問題に端を発する、ウクライナとその周辺をめぐるロシアの軍事的増強についても議論したと発言。ロシアに対し、軍事的挑発をやめるよう呼びかけました。
アメリカのブリンケン国務長官は、バイデン大統領が同じ4月14日、アメリカ国民に対する演説の中でアフガニスタンからの軍撤退を発表したことに触れ、駐留部隊の撤退を5月1日から始め、同時多発テロから20年となる9月11日までに撤退を完了させると語りました。
ブリンケン国務長官は「軍を撤退させることは、私たちがアフガニスタンとの関係や支援を終わらせることを意味しません。先ほどイェンス(ストルテンベルグ事務総長)が言及したように、ほかの国との関係と同じような、外交に基づく新しい章の始まりとなるでしょう。最終的に、アフガニスタンの未来は、アフガニスタンに住み人々の手に委ねられています。しかし、私たちのサポートや関与、決意は残っています」とコメントしています。
アメリカのオースティン国防長官は、この20年におよぶ作戦に従事したすべての人々に、テロの脅威を取り除いただけでなく「経済的、市民的、政治的進歩を可能にしてくれました」と感謝の言葉を贈りました。
NATOでの会合に先立ち、オースティン国防長官は3月21日にアフガニスタンを訪問。ガニ大統領と駐留軍撤退プロセスについて会談しています。
現在のアフガニスタンについて、オースティン国防長官は「彼らは自身のリーダーを自ら選出し、その多くは女性です。また子ども達を学校に送り、かつてないほど多くの民間企業を設立して運営しています」と語り、また「私たちはアフガニスタン空軍や特別任務部隊などへの援助を続けますし、アフガニスタン治安軍への給与を払い続けるよう努力します」とアフガニスタンの治安維持に関し、アメリカが側面から支援していくことを伝えています。
同時に、オースティン国防長官は国際安全保障において、ロシアのウクライナをめぐる挑発はもちろんのこと、中国が国際秩序を再形成しようと挑戦していることが1番の関心事として挙げ、今後は両国の動きにより集中すると発言しています。
今回の撤退決議により、アフガニスタンの和平プロセスは新たな局面に入ります。アフガニスタンの人々が自力で治安を維持し、平和な国づくりを進めていけるか、注目が集まることでしょう。
<出典・引用>
NATO ニュースリリース
アメリカ国防総省 ニュースリリース
ホワイトハウス バイデン大統領演説(2021年4月14日)
Image:NATO/アメリカ国防総省
(咲村珠樹)
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