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科学的興味からの実験「重水の氷を普通の水に入れてみた」動画に注目集まる

おたくま経済新聞 / 2021年4月30日 15時0分

科学的興味からの実験「重水の氷を普通の水に入れてみた」動画に注目集まる

「重水」の氷を普通の水に入れるとどうなる?(宮下芳明さんTwitterからのスクリーンショット)

 飲んだり、洗いものに使ったりと、私たちの生活に欠かせない水。でもその「水」って、実は1種類じゃないんです。自然界にわずかに存在する重い水「重水」の氷を作り、それを普通の水に入れてみたらどうなるか……という実験動画を大学教授がTwitterに投稿し、その珍しい現象を目の当たりにした人から驚きの声が上がっています。

 この実験動画をTwitterに投稿したのは、明治大学の宮下芳明教授。総合数理学部の先端メディアサイエンス学科の学科長を務めていらっしゃいます。

 味覚について研究している宮下教授。カメラで撮影された映像をディスプレイに表示するように、味センサで取得した味を出力する「味覚ディスプレイ」を開発しています。これにより、これまで言葉による「食レポ」で伝えていた味を直接視聴者に体験させられるという、画期的な装置です。

 味覚の研究のため、様々な論文にアンテナを張って情報収集している宮下教授は、2021年4月6日に科学誌で発表された、とある論文に目をとめました。それは「重水は甘い」というもの。

重水のビン(宮下芳明さん提供)

 この「重水」、通常の2倍の質量を持つ水素の同位体「重水素(Deuterium)」と通常の酸素が化合してできた水を指します。本来の化学式では同じH2Oですが、重水であることを示すため「重水素(Deuterium)」の頭文字をとった元素記号「D」を用いて「D2O」と表記されることが一般的で、自然界に存在する水の中にもわずかながら含まれています。

 元素は同一の原子番号を持っていても、原子核における中性子の有無やその数の違いによって、基本となる原子とは性質の異なる「同位体」というものが存在します。

 これには放射能(放射線を発する能力)を有する「放射性同位体」と、放射能のない「安定同位体」がありますが、原子核に中性子が1つの重水素は安定同位体。原子核に中性子が2つある三重水素(トリチウム)は放射性同位体です。

 重水と比較する際、通常の水のことを「軽水」と呼ぶことがあります。呼び方が異なるように、重水と軽水は物性(物理的な性質)が異なります。重水は軽水に比べて密度が約1割高く、文字通り通常の水より「重い」水。ほかにも固体から液体に変わる融点が摂氏3.82度、沸点も摂氏101.4度と異なります。

 また、重水は生物の細胞活動を阻害する物質です。普通の水のように飲んでしまい、水分摂取量の10%を超えると影響があらわれ、50%に達すると死亡すると考えられています(他の生物で得られたデータからの推測)。

 この「重水は甘い」と主張する論文を読み、実際に宮下教授が確認してみたところ、グリシン(人間の体でも生成されるアミノ酸で、エビやウニなどの甘味はグリシンによるもの)の2%溶液に類似していたとのこと。

「重水」味覚実験の様子(宮下芳明さん提供)

 論文の内容を実際に確認したところで、宮下教授は追加の実験をしてみました。それがTwitterに投稿された「重水の氷を普通の水(軽水)に入れるとどうなるのか」という動画。

 重水は通常の水よりも比重が大きい(重い)ことは知られています。しかし、水が氷になるとわずかに体積が増え、比重が小さく(軽く)なります。これにより、通常の水で作った氷は水に浮く訳ですが、重水の氷ではどうなんだろう……?という科学的興味からの実験です。

カップに入った重水の氷(スクリーンショット)

 カップに入れた重水を凍らせ、通常の水を入れたメスシリンダーに投入。すると……。

重水の氷を普通の水(軽水)に投入(スクリーンショット)

 重水の氷はヒラヒラと舞いながら、ゆっくりと水の中を落下。メスシリンダーの底に沈んでしまいました。

普通の水(軽水)に投入された重水の氷(スクリーンショット)
沈んでいく重水の氷(スクリーンショット)

 この投稿のリプライには、重水を精製するのが大変で高価なこともあり、理屈としては分かっているけど「初めて見た」という声が多く寄せられました。中には、通常の水(軽水)と重水の比重の差から算出される数値から、重水の氷が水に沈む理由を解説するものも。

底に沈んだ重水の氷(スクリーンショット)

 簡単に紹介すると、水に対する氷の比重が0.917、重水は軽水より20/18倍重いので、重水の氷の比重も軽水の氷より20/18倍重くなり、その値は1.019。ほんのわずか軽水より重いので、ゆっくりと沈んでいくという訳です。

 科学は「理論」と「実験(検証)」で構成されています。理論の確かさは実験(検証)により証明され、実験で起きた現象を説明するために理論が構築されていきます。

 今回の「重水の氷を通常に水(軽水)に入れてみる」という実験は、重水が高価なこともあり見る機会が少ない貴重な映像になったかもしれません。大人だけでなく、お子さんが目にして「科学って面白い!」と思ってくれると、将来の科学技術発展につながるかもしれませんね。

※重水は人体に入ると量によっては死亡する物質です。決して興味本位で口にしないでください。

重水の氷(一粒2千円ぐらいしそうw)を作って、水に入れてみました!どうなると思います・・・? pic.twitter.com/QvVwVYdSZZ

— 宮下芳明 Homei Miyashita (@HomeiMiyashita) April 24, 2021

<記事化協力>
宮下芳明さん(@HomeiMiyashita)

<参考>
Sweet taste of heavy water
nature.com
Ben Abu, N., Mason, P.E., Klein, H. et al. Sweet taste of heavy water. Commun Biol 4, 440 (2021).

(咲村珠樹)

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