「ソフトクリームの帽子」って知ってる? その知られざる歴史にせまる
おたくま経済新聞 / 2021年6月3日 11時0分
画像提供:京都雑貨屋パラルシルセ
「ソフトクリームの帽子って懐かしい」「昔はソフトクリーム買うと帽子をかぶせてくれるお店があったんだよ」こんな会話をSNSで目にしました。
ここで言われる「ソフトクリームの帽子」とよばれるものは、コーンと同じような見た目で、食べることができるカバー。SNS上の会話では懐かしむ声として語られていましたが、実はまだ現行品で売られているのです。
それにしても「ソフトクリームの帽子」は一体どうして誕生したのでしょうか?1951年以来、ソフトクリーム販売事業を展開する日本におけるソフトクリームのパイオニア、日世株式会社に聞いてみました。
現在、日世株式会社ではソフトクリームにかぶせるカバーとして、ソフトクリームの形を模した「ソフトキャップ」と、少し背の高い「デザートキャップ」の2種類がラインナップされています。「キャップ」という商品名から、帽子のようにソフトクリームを覆うものという位置付けのようです。
ソフトクリーム用のキャップは、一体どのような経緯で誕生したのでしょうか?それには、ソフトクリームの歴史が深く関係していたそうです。
日本におけるソフトクリームの歴史は1951年7月3日、GHQがアメリカ独立記念日(7月4日)の前夜祭を明治神宮外苑で開催し、そこで日本国民にもソフトクリームを販売したことに始まります。
日世株式会社(当時の社名は「株式会社二世商会」)は、これに先立つ1951年4月にアメリカよりソフトクリームの機械(ソフトクリームフリーザー)を輸入していたそうで「GHQがソフトクリームを販売したことを聞き、日本国内でのソフトクリーム販売事業に踏み出しました」と日世さん。
日世さんによると「日本でソフトクリーム販売が始まった当初の1950年代、主な展開先は百貨店の大食堂でした」とのこと。今や「大食堂」のある百貨店も少なくなりましたが、小さい頃の記憶を辿ってみると、ショーケースに入った見本の中に、お子様ランチなどと一緒にソフトクリームの姿があったことを思い出しました。
この当時、ソフトクリームは高級なお菓子だったそうで、そのため「店舗で食べるだけでなく、お土産として持ち帰りたいという需要もありまして、持ち帰りを希望された際には洋菓子などを包むハトロン紙に包んで対応していました」と日世さんは語ってくれました。おそらく、溶けないくらいの近距離だったんでしょうね。
1960年代に入ると、モナカの皮を作るモナカ屋さんが栗の実や菊の花など、様々な形のモナカ皮を作るようになったといいます。日世さんによると「その中に山高の円すい形でひねったソフトクリームの形がありました。当社として、付随商品であることもあり、モナカ屋さんに製造委託して商品に加えました」ということで、今のソフトキャップが誕生したそうです。
薄いハトロン紙に比べ、持ち手側のコーンと同じような素材ですから、保冷効果も少し上がったかもしれませんね。1970年の日本万国博覧会(大阪万博)では、会場に200台ものソフトクリームフリーザーが設置され、ソフトクリームの販売店も日本全国に急拡大していきました。
もともとソフトクリームは、1930年代に誕生した「オートマティック・ソフトサーブマシン」の頃から、“できたてをそのまま食べる”もの。「販売店が増えるに従い、持ち帰り需要は減少。その場でお召し上がりになる本来の姿が主流となり、ソフトキャップは見かけなくなったのではないかと推察いたします」と日世さん。なるほど、だから記憶にない人が多いのかもしれません。
このまま現在に至るのかと思いきや、日世さんから「ところが1980年代に入ると、別の形で『持ち帰り』需要が起こりました」との言葉が。今度の主役は“コンビニ”でした。
日世さんによると「1974年にコンビニエンスストアが初めて国内に出現した頃、アメリカの店舗をそのまま複写した店内には、手でコーンにすくい取って販売する『ディップアイス』の販売がありました。自宅の近所で購入できるディップアイスならば、その場でお召し上がりにならず自宅まで持ち帰りたいと思われて当然だと考えられます」とのこと。
ソフトクリームを販売するコンビニエンスストアも登場し「身近なところでキャップが“復権”しました。この頃開発されたキャップは、ドーム型の『デザートキャップ』です」ということで、2種類のキャップが誕生したそうです。
日世の担当者さんが「個人的な思い出ですが」と断って話してくれたことに「私が小さかった1970年頃、ソフトクリーム形状のノベルティアイス(一般的に商店で売られているアイスのこと)には、ソフトキャップがかぶせられているものがありました。当時は商品が袋詰めされていたので、袋の中にクリームが付着するのを防止していたのかもしれません」というものがありました。今はプラスチック製のパッケージになっていますが、ソフトキャップはこのような使われ方もしていたんですね。
また、取材でお話しされているうちに学生時代のことも思い出され「1980年代半ば、コンビニエンスストアでアルバイト店員をしていた頃、ハンドディップアイスをお客さまに手渡す際『キャップはつけますか?』と確認していた覚えがあります」とも語ってくれました。店内にはコーンのほか、ドーム型のキャップが常備されていたそうです。
現在、ディップアイスを販売するコンビニはほとんどありませんが、調べたところ「デザートキャップ」の使用自体は、店内でソフトクリームを販売している「ミニストップ」で健在でした。ソフトクリームの“持ち帰り”を希望してお願いすると「デザートキャップ」をかぶせて商品を渡してくれます。新型コロナウイルス禍で店内飲食がしにくくなっているため、お願いしやすいかもしれませんね。
今は持ち帰り需要がまた減少したこともあり、全盛期の3分の1程度に出荷量が減っているという「ソフトキャップ」と「デザートキャップ」。ミニストップ以外でも、まだつけてくれるお店はあるようなので、もしみかけたら「キャップをつけてください」と言ってみるのもいいかも。キャップでソフトクリームをすくって食べるのもおすすめですよ。
<記事化協力>
日世株式会社(HP:http://www.nissei-com.co.jp/)
<画像提供>
京都雑貨屋パラルシルセ(Twitter:@paralucirse)
※サムネール画像提供。
(咲村珠樹)
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