Moto Eレーサー大久保光選手が登場 タタメルバイク走行試験に密着
おたくま経済新聞 / 2022年3月10日 12時0分
Moto Eレーサー大久保光選手による「タタメルバイク」走行試験
スーツケースサイズに折り畳み可能なICOMAの電動バイク「タタメルバイク」。市販化に向けて開発が進む中、2022年2月に千葉県柏市で走行試験が実施されました。
テストライダーを務めるのは、2021年より電動バイクレースの最高峰「Moto E」世界選手権にアジア人として初めてフル参戦している大久保光選手。走行試験の様子を密着取材しました。
走行試験が行われたのは、千葉県柏市。柏の葉スマートシティの一角にある「KOIL MOBILITY FIELD」。ロボットやドローン、タタメルバイクのような電動バイクなど、新しいモビリティの開発をサポートする屋外施設です。
■ バイクを持たない理由をなくしたいタタメルバイクの開発者で、株式会社ICOMA代表であるプロダクトデザイナーの生駒崇光さんは、かつて玩具メーカーのタカラトミーで「トランスフォーマー」シリーズに携わっていた方。いわゆる「変形モノ」のノウハウを、小型の電動バイクに落とし込んだのが「タタメルバイク」だといえます。
生駒さんは「バイクを持たない理由をなくしたい」と語ります。「バイクは便利だけど、ガソリンの補給やオイル交換が面倒、臭いが苦手、場所を取るなど、色々と『バイクを持たない理由』があると思うんです。それを僕は、タタメルバイクでなくしていきたいんです」
電動バイクなので自宅で充電でき、ガソリンを給油する必要も、オイル交換も不要。そしてコンパクトに折りたためるため、玄関先のスペースでも置くことが可能です。「これならバイクを持っていいかも、と思えるようにマイナス点を消していったのが『タタメルバイク』のコンセプトです」と生駒さん。
■ 走行試験の狙いと大久保選手起用の理由今回の走行試験は、開発途上の試作品が「バイク」として安全に走行できるかということを確かめるもの。テストライダーとして白羽の矢が立ったのは、2021年シーズンから電動バイクレースの最高峰、Moto Eにアジア人として初めてフル参戦している大久保光選手です。
乗り物の開発過程において、走行試験は非常に重要です。「私は作り手ですから、エンジニアなどの繋がりは豊富で、そういった方面からの助言はたくさん頂けるんです。その反面、乗り手の側から性能を的確に評価することは難しい。そんな時、大久保選手と知り合う機会があったんです」と生駒さんは語ります。
電動バイクレースの最高峰Moto Eに、アジア人としてただ1人参戦している大久保選手は、ある意味日本で一番電動バイクの限界性能を知るライダー。「テストライダーとして、これ以上適任の方はいません」
大久保選手は以前にも、タタメルバイクの走行試験に参加した経験があります。しかし、その当日は雨だったため、本格的に走り込むことはできず、今回が実質的に初めての試験となるんだそう。
■ いざ試験開始KOIL MOBILITY FIELDには2台のタタメルバイクが持ち込まれ、走行試験には新しく組み上がった方が用いられました。2021年秋に完成した方ではセパレートハンドルを採用していましたが、試験に供された方はバーハンドル仕様。
生駒さんによると、ハンドルの仕様については「まだ固まっていない」とのことで、変形機構も含め走行試験で得られたノウハウをフィードバックし、さらに新しいものを開発していきたいのだとか。大久保選手はヘルメットとグローブを装着し、生駒さんからバイクについてのレクチャーを受けます。
走行前の点検で、後輪のブレーキがあまり利かないことが判明。調整作業が重ねられました。
まずは足慣らし程度に、軽く周回してみることに。バイクは滑らかに走り出し、電動バイクなのでほとんど音もしないままコースを周回します。
戻ってきた大久保選手、乗り味について「このモーターはいいですね」と合格点。電動キックボードのインホイールモーターを流用しているそうで、出力的にも十分なパワーが出ている、との感想でした。
■ 走行中にトラブル発生今度はもう少し速い速度で、色々な動きを試してみることに。外から見ていると、滑らかな走りはそのままに、小気味よく周回を重ねていきます。
走りながら、大久保選手はスラローム走行を意識したような動きで、車体を左右にバンクさせます。問題なく走れていたように見えたのですが、突然ガガガガッ!という音とともにバイクが停車。トラブル発生です。
戻ってきた大久保選手によると、車体を傾けた時にリヤタイヤのグリップが抜け、振動が発生したとのこと。この振動で後輪ホイールを固定しているナットも緩んでしまいました。
大久保選手は原因について「タイヤのトレッド面が平らなので、傾けると急にグリップが抜けるようです」と語りました。通常、バイク用のタイヤはトレッド(接地)面が曲面になっており、そのお陰で車体を傾けてもタイヤがグリップしてくれるのですが、電動キックボードから流用したリヤタイヤは、大きなバンク角を許容する作りになっていません。
前輪はスクーターから流用したので問題ないのですが、駆動側となる後輪は電動キックボードと、前後で違う乗り物の車輪が使われているので、少々バランスが悪い様子。製品版となればモーターを含め適切な部品を採用できますが、現在は仕様を固めるためのスタディモデルという位置付けなので、悩ましいところです。
結局、モーターについては合格点であるものの、適切なサイズのタイヤを見つけられるか、というのが今後の課題となりました。生駒さんによれば、変形機構についてもこれまでの知見をもとに、よりシンプルで確実なものに設計し直してみる、とのことです。
■ 試験がもたらすもの開発において、実地試験は多くの示唆を与えてくれるものです。今回の走行試験で、大久保選手は気になった点としてリヤタイヤ形状のほか、後輪ブレーキの利きと、ブレーキをかけた際にハンドルが前方に少しずれる現象を挙げました。
コンパクトに折り畳むという機能を実現するため、ハンドル部分は折れ曲がる構造になっています。「やみくもに構造を強化するというよりは、力の入る方向を設計により限定してやることで、うまいバランスが見つかるんじゃないかと思います」と、大久保選手は生駒さんにアドバイスしていました。
アイデアは試行錯誤を積み重ねて、より確かなものになっていきます。電動バイクのトップライダーを迎えた今回の走行試験。タタメルバイクの商品化に向け、多くの知見をもたらしたようです。
生駒さんも今回の走行試験結果、そして大久保選手からのフィードバックを受け、さらにタタメルバイクの完成度を上げるべく、製品開発を進めていくと語っていました。商品化へのステップをまた1歩進めることになったタタメルバイク。新しいバージョンの完成が楽しみです。
<取材協力>
生駒タカミツ(崇光)さん(@takamityu)
ICOMA Inc.
株式会社オージーケーカブト
KOIL MOBILITY FIELD(ドローンワークス)
(取材・撮影:咲村珠樹)
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