音声と手話でスムーズに通話「ダイアログ・イン・サイレンス」×「電話リレーサービス」コラボ企画を体験してきた
おたくま経済新聞 / 2022年12月8日 19時30分
「ダイアログ・イン・サイレンス」×「電話リレーサービス」コラボ企画プレス説明会の登壇者
2023年1月~2月、東京竹芝にあるダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」にて「『ダイアログ・イン・サイレンス』×『電話リレーサービス』コラボレーション企画~サイレンスの案内人と、電話でおしゃべりしよう~」が開催されます。
聞こえない人と聞こえる人が言葉の壁をこえて対話するこのイベント、プレス説明会で体験してきました。
音のない世界で言葉の壁をこえてコミュニケーションするエンターテイメント「ダイアログ・イン・サイレンス」と、聞こえない人が手話通訳を通じて音声電話を利用できる「電話リレーサービス」がコラボするイベント。聞こえない人と聞こえる人、2種類の方法で対話ができるユニークなものとなっています。
2023年1月21日に始まるイベントを前に、会場のダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」で開催されたプレス説明会には、ダイアログ・イン・サイレンスを主催する一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティと、電話リレーサービスを提供している一般財団法人日本財団電話リレーサービスから代表者が登壇。双方の紹介が行われました。
■ 「ダイアログ・イン・サイレンス」と「電話リレーサービス」の紹介まず、ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ理事の志村真介さんが登壇し、会場であるダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」、そしてここで開催されている、暗闇の中で対話する「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」と、静けさの中で対話する「ダイアログ・イン・サイレンス」、そして今回のコラボ企画について紹介しました。
このとき印象的だったのは、手話通訳者の方が近くに立ち、志村さんの話す内容を逐次手話で伝えていたこと。ここでは当たり前のことかもしれませんが、聞こえる人と聞こえない人双方が同じ情報を共有する基本姿勢を感じました。
続いて登壇したのは、ダイアログ・イン・サイレンスで参加者と対話する、アテンドスタッフの石川絵理さん。社会のさまざまなしがらみから解き放たれて体験するダイアログ・イン・サイレンスでは、本来の名前を使わず「まっちゃ」という名前で参加者と対話しています。
石川さんは聞こえない人のため手話で話し、聞こえる人には手話通訳者を通じて音声で「ダイアログ・イン・サイレンス」を紹介しました。ダイアログ・イン・サイレンスはダイアログ・イン・ザ・ダークと同じくドイツで生まれ、世界で100万人以上が体験、日本では2017年の初開催以来約1万5000人が体験しています。
今回は「ダイアログ・イン・サイレンス ウィンター2022」と題し、新たなアテンドを迎えて2022年12月10日より2023年2月までの期間限定で開催。最大で平日8本、土日祝12本が開催される予定となっています。
最後に、聞こえない人と聞こえる人を電話で結ぶ「電話リレーサービス」を運営する、日本財団電話リレーサービス理事の松森果林さんが登壇。電話リレーサービスの内容を紹介しました。松森さんは高校生の時に聴力を失った中途失聴者です。
電話リレーサービスは、手話通訳のオペレータが聞こえない人と聞こえる人の仲立ちをし、手話を使って音声通話を可能にするもの。電話における手話と音声の同時通訳サービスとはいえ、聞こえない人とオペレータとはインターネット回線で、そしてオペレータから通話の相手までは通常の電話回線で結ばれます。
誕生したきっかけは、2011年の東日本大震災。被災した聴覚障害者向けに、日本財団が同年9月より「遠隔情報・コミュニケーション支援事業」としてスタートさせました。
以来、モデルプロジェクトとして対象を全国の聴覚障害者に広げて展開。10年の歳月を経て、法律に基づく公共インフラとしてのサービスに生まれ変わりました。交付金で運営されるため、将来にわたって24時間365日サービスが途切れることもなく、提供内容も充実したといいます。
現在では、聞こえない人などの利用登録者が約1万1000人、1か月間の通訳件数は約3万通話と、聞こえない人にとっては必要不可欠なインフラとなっていることが分かります。この中には警察や救急などの緊急通報も含まれているのだとか。
聞こえない人にとっては「音声のみ」でしか連絡ができない相手と通話できる非常に便利なサービスですが、聞こえる人にとってはまだまだ馴染みのないもの。このため、今回のコラボ企画で実際に体験してもらおうというわけです。
また、現在は日本語の手話通訳しか提供されていませんが、2025年に聴覚障害者のオリンピックである「デフリンピック」が東京で開催されることもあり、外国人を対象にしたサービス拡充も検討しているとのことです。
■ 音声を使わず対話する「ダイアログ・イン・サイレンス」体験聞こえる人と聞こえない人が音のない世界で対話する「ダイアログ・イン・サイレンス」、実際に体験してみました。1回あたりに体験できる人数は最大で8人。開始前には時計や携帯、スマホを含むすべての持ち物を外し、自分の身一つで入ります。
会場内では外界からの音を遮断するイヤーマフを装着。音声による会話はもちろん、聞こえない人も手話を使うことを禁じられ、互いに目配せや表情、身振り手振りといったボディランゲージ(身体言語)でのみ対話を行います。
最初はウォーミングアップとして、ボディランゲージをスムーズに使えるよう、手や表情、体を使って表現するアトラクション的ワークショップが続きます。手でさまざまな形を作るコーナーでは、8人が協力して大きな形を作る場面も。
表情をほぐすコーナーでは、額縁に見立てたフレームに顔を入れ、真ん中に投影された絵や写真の人物と同じ表情をしてみる、といったことを体験します。普段の生活でいかに表情筋を使っていなかったか、痛感するかもしれません。
このほかに、ハンドサインで色々なものを表現したり、ボディランゲージで相手の知らないことを伝えたりするゲームも。後半では、簡単な手話についても学ぶことができます。最後に感想を語り合うコーナーでは、参加者全員の膝で天板を支えるテーブルを囲み、みんなが一体になった状態を実感できました。
普段使っている「言葉」を使わずコミュニケーションすること。これにより、相互の関係はフラットになり、ある種の運命共同体へと変化していきます。ひょっとしたら、国際宇宙ステーションに長期滞在している宇宙飛行士というのは、こんな感じなのかもしれないと思える体験でした。
■ 「電話リレーサービス」を体験してみる本来の「ダイアログ・イン・サイレンス」では、ここでアテンドスタッフの方とはお別れですが、今回のコラボ企画では「電話リレーサービス」を使い、今度は言葉を使った対話を体験することができます。専用の電話番号へ電話し、手話通訳オペレータを呼び出してから、通話を行います。
聞こえない方のスマホには、専用の「電話リレーサービス」アプリがインストールされており、それを通じて手話通訳のオペレータとビデオ通話することになります。
回線が繋がると、相手が音声で話していることをオペレータが手話で通訳し、聞こえない人に伝えます。それを見た聞こえない人は手話で返答し、オペレータが音声言語に通訳して聞こえる人へ伝えるという仕組みです。
筆者は、今回アテンドしてくれた「かのけん」さんに、アテンド側から見た参加者の様子についてうかがってみました。すると「最初はみんな目を合わせるということができなかったのだけど、徐々に『相手は何を伝えたいんだろう』と目を合わせ、互いの意図を汲み取ろうと変化していくことが、毎回興味深いと思っています」というお答えが返ってきました。
筆者はこれまで、外国語を通訳したりされたりした経験がありますが、その際は言葉を聞いて翻訳する「間」を意識的に作るようにしていました。ところが「電話リレーサービス」のオペレータさんは「普段通り話して大丈夫ですよ」と語ってくれ、本当にタイムラグなく話せたのです。これは驚きでした。
この「『ダイアログ・イン・サイレンス』×『電話リレーサービス』コラボレーション企画~サイレンスの案内人と、電話でおしゃべりしよう~」は、東京・竹芝のアトレ竹芝シアター棟1階のダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」にて、2023年1月21日~2月12日の土日に開催予定となっています。
日程は変更される可能性があるとのことなので、最新の情報をダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」公式サイトで確認の上、スケジュールを決めるようにすると良いようです。
取材協力:「ダイアログ・イン・サイレンス」×「電話リレーサービス」コラボレーション企画PR事務局
(取材:咲村珠樹)
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