40代からのクラッシックバレエ 昭和生まれのおばちゃんが4年続けて思ったこと
おたくま経済新聞 / 2023年6月26日 13時31分
大人からのクラッシックバレエ
近年じわじわと人気を集めている「大人からのクラッシックバレエ」(大人バレエ)。子どもの頃憧れだった・習いたかったけど習えなかった人たちが、「当時の夢を叶えよう」とはじめるケースが増えています。
実は筆者もその一人。子どものころバレエ漫画の「まりちゃん」シリーズ(著:上原きみこ)を読んで育った世代です。今の40代後半あたりの中には、同じように当時憧れを抱いた人が多いことでしょう。たぶん。
■ 最初の難関「バレエ用語難しすぎ問題」
筆者がバレエをはじめたのは40すぎて数年たったころ。42か43歳くらいの頃です。
突然はじめた理由はいくつもありますが、中でも最大なのは「運動不足問題」。ジムに通うか、ヨガでも習うか……と思案していたとき、子どもの頃熱中した「まりちゃん」を思い出しました。バレエがあった!しかも当時すでに“あるバレエ教室”とのつながりが出来ていました。あの先生にお世話になろう!思い立ったが吉日、すぐ連絡をして通いはじめたのです。
私の場合は最初から教室を決めていましたが、これからはじめてみたい、という場合にはいくつかの教室の体験レッスンにまず行ってみるのがいいでしょう。「体験レッスン」はほぼ全ての教室で用意されています。大半の教室は、参加費1回のみ無料。入会までしつこく迫られることはほとんどありません。「決めたら連絡してね」みたいに意外とあっさり。
また、今は少子化で子どもが少なくなっているので、「大人クラス(アダルトクラス)」に力を入れている教室が少なくありません。昔よりも「大人でもはじめやすい」環境に変わっています。
通いはじめてまず苦労したのが「長年の運動不足問題」。若い頃はそれなりに運動神経が良いほうだったのですが、仕事ばかりに熱中して20年以上まともに運動していなかった身にはそれはそれは大変でした。
まずついて行くのに一苦労、そして最大の問題は「バレエ用語難しすぎ問題」。バレエ用語の多くはフランス語。「パッセ」「ルルベ」「アダージオ」などなどありますが、なぜか一部に「かま足」(足首が曲がった状態)など日本語が登場します。なんで?
正直はじめた頃は、言葉を覚えるだけで精一杯。しかも年齢により記憶力も、瞬発力も低下しまくっているお年頃。言葉にすぐ体が反応しません……。
当初週1予定のレッスンでしたが、1か月すぎる前に週2通うことを決意。週1だと折角覚えた「バレエ用語」が右から左にぽろぽろこぼれて忘れてしまったからです。そこからは岩にかじりつくがごとく、「どれだけ下手でもキニシナイ」根性で通い続けました。
■ 最初の1年はバレエイヤイヤ期→大好き期の無限ループはじめて1か月は先に紹介したとおり、通っても通っても毎回前の週習ったことがリセットされる感覚で、何一つ覚えることができませんでした。もちろん体を思いっきり動かすこともなかったような。そこで週1から週2にかえてしつこく通い続けること3か月。
正直この間は、バレエが楽しいと思うことはありませんでした。辞めたいと思ったことも1度や2度じゃありません。それでも続けたのは「桃栗三年柿八年」の考えがあったから。それに何一つ楽しみも良さも分からないまま終わるのはイヤだ。とりあえず3年は惰性でも続けてみようと考えていました。
そんなふうに時々「バレエイヤイヤ期」に襲われつつも3か月通い続けたところ、ある日のレッスンで突然何かが「カチッ」とはまる瞬間がありました。言葉と体の動きが突然一致し始めたんです。先生の振り付けの言葉(バレエ用語)に体がすぐ反応できるようになったといいますか。
そこからは4か月目からの「バレエ大好き期」に突入。しかししばらくすると、慣れてきたことに対して先生が「徐々にハードルを上げる」ことが増えてきました。そうすると、今度は一気に「イヤイヤ期」。できない自分、できた時に嬉しい自分、できる自分、こんな感情が4か月目以降は毎回のレッスンでぐるぐる回っていた気がします。
■ 鏡に映る自分は「妖精」ではなく「妖怪」という絶望バレエを習いはじめてから10か月目のある日のレッスン。次に自分に変化が起きたのは「教室の鏡を見られるようになったとき」のことでした。それまでは周りの人の振りをみてまねる、先生だけを見る、とてもじゃないけど自分を見る余裕などありませんでした。
それが少し余裕の出て慣れてきたころ。ふと目に入った鏡の自分に、大変ショックをうけました。ドラム缶体型のおばさんが、必死にバーにしがみついているからです。出来ていると思っていたことも、全くできていませんでした。立ち姿からなにもかも。
先生には常々「バレリーナは妖精」と言われていたものの、鏡に映る自分はまちがいなく「妖怪」。汗だくだくになり、なんとも見苦しすぎる自分がそこにぼーっと立っていました。現実とは厳しい。
■ 2年目でようやくスタートライン今まで目を背けていた自分の体力、外見ともに向き合い続けた1年。時々大きなショックやイヤイヤ期に見舞われながらも、ただひたすら根性だけで続けていました。
1年たって特別上達したということはありませんでしたが、立ち方などは意識の面で大きく変わっていたとおもいます。ちなみにこの間、体重は1キロも減ってはいません。
変化したのは体のあちこちが引き締まり、それまで立派な3段造りだった国産100%の腹のお肉が、1段に減少。ウエストが引き締まったことは、自分自身への大きな励みになりました。
そして1年たって何より大きかったのが、体がしっかり動き始めたこと。長年の運動不足により、若い頃より動かなくなっていた体のあちこち。それが1年たった段階で、思いのほか動くようになったのです。これは大きな変化でした。また1年たつころには、当初苦労したバレエ用語にも大分慣れてきて、振り付けを間違えたとしても思いっきり体が動かせるようになっていました。(堂々と間違えることもこの辺で覚えました)
若い子や、プロの方に比べれば、それでも下手なのはかわりありません。それは自覚しています。でも当初は姿勢が悪くてまっすぐ立てなかった、足を上げるのも息切れしつつ一苦労、という状態から脱皮できたのは「自分なりの成長」が実感でき、とても嬉しかったことを覚えています。ここに来て感じたのは、「やっとスタートラインだな」と。
体が動けるようになったことで、ようやくバレエらしい動きや、細かい部分にも意識が行き始め、もっと上手くなりたい、もっと足を高く上げたい、もしかしたらトゥシューズも履けるようになるかもしれない。こんな夢まで抱くように。何事もはじめるのに遅いということはないんだな、と実感した次第です。
現在ははじめてから4年がすぎています。途中コロナ禍に見舞われレッスンがない時期や、個人的な出来事にてケガをして中断した期間もあるので、まだトゥシューズまでには至っていませんが、「いつか」というのは続けていく上での、大きな目標となっています。
■ バレエをはじめる前と後で印象が変わったことバレエをはじめる前、実はバレエ界には色んな想像をしていました。まず思っていたのが「大人クラスは上手い人ばかりじゃないのかな?」という懸念。上手い人の中に、私みたいなド素人が入っていっても、大丈夫なんだろうか?と思っていましたが、入って感じたのは「上手い下手バラバラ」ということ。
「大人クラス」には私みたいに「大人になってはじめる人」もかなりいます。おそらく7~8割がそうじゃないでしょうか。なので自分が特別下手だと思うことはあまりありませんでした。みーんな下手。でもそれが楽しい、という感じで和気藹々出来ています。時にドヒャヒャヒャとおばさん笑いをしつつ。
一方で、上手い人ももちろんいます。子どもから習っていた人など。そういう方たちは見本として、憧れの的として見ている感じ。先生の次に学ぶ機会が多い対象です。
そして先生の存在。はじめる前は「バレエの先生っておしとやかで優しい方が多いんだろうなぁ」、という印象でした。
ところがどっこい、何人かの先生にお会いし共通して感じたのは、「見た目は妖精、中身は武士」。代講の先生など含めて8人ほどの先生にお会いしましたが、その全員が全員「中身は武士」。とにかく根性と気合いに武士道精神と通じるものがあります。あくまで個人の感想ですが。
■ 昔から言われている「バレエ界には性格悪い人がいる説」は本当なのか?昔のバレエ漫画にいたような意地悪な人。私の通う教室には一人としていませんが、やはりいるにはいる模様。まぁ、性格の悪い人はどの世界にも一人や二人いますけどね。なお、出会ったのはインターネットの海。
ある日SNSを見ていたら「大人からバレエはじめる人って何が目標なんだろうね」「プロになれるわけじゃないのにイミフ」「ホント下手で笑える~」的な会話を目にしました。お、おう。
大人からはじめた時点で、「プロになる」ということはそもそも考えていないわけですし、下手なのも自覚済み。大人クラスの当事者たちはその点十分理解しています。
それを単に下手だからといって、SNSに投稿し、「ぷ、クスクス」と笑いものにする人のほうが、実は笑われていることを知ったほうがいいでしょう。だって、全世界に向けて「私性格悪いですよーー!根性まがってますー!」って発信しているようなもんですから。まさに、天に唾を吐く行為。
まぁ、性格の悪い人や、他人のことを笑いものにしたがる人は世界中どこにでもいます。ただそれをSNSなどでインターネットの海にぶち込むのはいかがなモノかと思います。
これからバレエをはじめよう、と考えている人がもし目にしたら?恐らくやる気をそぐことでしょう。子どもにバレエを習わせたい、と思う親の気持ちを不安にさせることもあるかもしれません。そんなつまらないことをして、バレエ界の未来を邪魔するようなことの方が本当につまらない。
ということで、「バレエ界には性格悪い人がいる説」については「いるにはいるけど、リアルでは滅多にあわない」ということになります。よって、リアルで意地悪されることがない分、ほぼ害はありません。
最後すこしイヤな話をしてしまいましたが、私は大人になってバレエをはじめたことに後悔はしていません。もちろん、もう少し若ければ上達度合いも早かっただろうな、と思うことはあります。
でもその分年齢を重ねた今だからこそ「心にゆとりをもって」楽しめています。周りと比較して焦ることもない、下手なことを自覚して笑い飛ばせる。自分のペースでこれからも楽しんで行こうと思います。
目下の目標は、「目指せトゥシューズ!」
(宮崎美和子)
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