セガサターンの開発機と開発環境にまつわるエピソードはやはり熱かった 当時を知る元セガのテクニカルサポート担当・大岡良樹氏インタビュー
おたくま経済新聞 / 2023年7月16日 15時0分
セガサターンの開発機と開発環境にまつわるエピソードはやはり熱かった 当時を知る元セガのテクニカルサポート担当・大岡良樹氏インタビュー
1994年に発売された家庭用ゲームハード「セガサターン」。つい先日、その開発機を入手したというユーザーの記事を掲載しましたが、その流れで当時開発環境に関わっていた大岡良樹さんと話す機会に恵まれました。
開発機についての誤った情報(初代開発機と紹介していたものが実は三号機だった)を指摘いただくという形での出会いでしたが、これはある意味思いも寄らぬ事態。
せっかくなので、開発機の詳細な説明や、当時の開発環境等について聞いてみたいと思い、インタビューを申し込んだところ、快く承諾いただいたので、色々質問してみることにしました。
その前に、大岡さんとやりとりをするきっかけとなった「開発機」について簡単に説明しておきますと、前回記事で紹介したものは本体に「PROGRAMMING BOX」と書かれた、開発機として三代目にあたる機器でした。
前二代は貸し出しで管理されていたことに対し、三代目は売り切りでリリースされていました。そのため、時折ネットオークションやフリマサイトに、珍しい品物として出回ることがあります。
事前に見せていただいた当時の開発資料は紛れもない本物。一体どんな話が聞けるのでしょうか。
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--まずは大岡さん自身の経歴についてお聞かせください。
1985年にセガ・エンタープライゼス(現、株式会社セガ)に入社。プログラマーとしてさまざまなタイトルの開発に携わりました。1990年開発の「RIBBIT!」が最後の制作タイトルで、その後はアメリカで「ソニック・ザ・ヘッジホッグ2」の開発にも携わりました。
その後、1992年頃に日本に戻ってからは、セガの家庭用ゲーム機のディレクションを担当し、94年頃、セガサターン開発に際して、サードパーティの開発現場のテクニカルサポートの仕事が始まりました。
社内開発部署のサポートだけでなく、外部の製作会社さんがうまく立ち上がり、予定している納期に間に合うようなクオリティで作れているかどうかの確認なども並行してありまして、サターンの時は「自社で作ったハードウェアやソフトウェアがこういう内容なので、参入してください」というような仕事を主導してやっていました。
--まさに技術的なところと、営業の両方をこなしていたのですね。サターンの後はどのような役割を?
サターンが一通り終わって、ドリームキャストが始まる時には、社内の方は賄えるようになったので、今度は営業部門に移って、開発会社を回って進捗管理を行う仕事に就きました。なかなかタイトルが出せない中で、エミュレータを作って過去のゲームの配信のサービスなども行っていました。
ゲーム開発のプロジェクトをプロデュースしたり、タイトルのライセンス交渉など、ある程度やってみたものの、会社として「やっぱりドリームキャストやめるわ~」となりまして。
そうなった時に今度は任天堂さんやソニーさんに行って、社内向けに機材だとか、ライセンスの申し込み方とか窓口になって、分社化した人達のサポートをやって、立ち上げが終わったところでリストラ対象となり、2003年にセガを退職した、という形です。
--家庭用ゲーム機ハード事業から撤退して間もない頃、というわけですね。以降はどのようなお仕事をされているのですか?
ゲーム業界で探していたんですが、タイトルを作るっていうよりはゲームマシンの世界観を作るような仕事をしていたので、燃え尽きちゃったんですね。
やりがいのある仕事を探したんですけどなかなかなくて。ゲーム関係は諦めて、それ以降はエンジニアの仕事として、自動車部品の設計開発をやってます。
--また思い切った方向転換ですね!驚きました。それでは次に、今回の開発機について、詳細をうかがえますか?
先にお話しした通り、この開発機は三代目にあたるのですが、セガサターンが発売の年にあまり売ることが出来なかった要因の一つである、メインのSH2マイコンが量産できなかったんですね。そのため開発機材も遅れてしまったという経緯があります。
93年9月の資料では、プログラミングボックスは二代目の、縦長の機材が書かれていて、これが最終形態になるつもりで進めていましたが、正式な量産チップが出来なくて。パフォーマンスの劣るチップしか載せられなかったので、三代目と差し替える形になりました。
今と比べてPC能力がゲームハードよりかなり劣っていた頃の話です。そういうPCしかなかったゆえに、こうした機器を使わないと商品通りの挙動だったり、画像の状態だったりが再現できなかったんですね。それをカバーするためにこういう開発機材、最終量産チップと同等の性能を持った開発機材を用意して、開発会社に提供するというのが、当時のコンソールビジネスの立ち上げの第一歩でした。
--当時の次世代機とはいえソフトの開発環境は決して恵まれてはいなかったのですね。ちなみに、この三代目の開発機はどのくらいの期間使われていたのでしょうか?
大体94年の秋口くらいから出始めて、1年以内には国内の開発ラインに行き渡り、サターンタイトルが終わるまでお使いいただいていました。
--ということは、こちらが最終の開発機になるのでしょうか?
これ以降も開発機はあります。海外ではこうした重っ苦しい開発機はいらない、ということがあって、市販ゲーム機のカートリッジスロットにI/Fボードを挿して、これとPCに接続するという開発機器が出てきます。「Psy-Q」と呼ばれる、本体のインターフェースを解析したものを、開発キットにしたものです。国内では「DEV-SATURN」というセガ純正の開発ツールがリリースされました。
--開発機にもさまざまな変遷があったのですね。あらためて当時の開発環境を振り返ってみて、特に思い出に残っているのはどのようなことですか?
そうですね……。機材が1年に3回も更新されていくような開発環境だったので、どうしても新しいものがいろんな開発ライン間で取り合いになるんですね。
こちらとしては最初に登録していただいていたセールスタイトルだったり、魅力的なタイトルを優位付けたいんですけど、コネを使って「うちにも回して欲しい」という声もあって。悪者にしかならない仕事でしたね(笑)。
--それは確かに難しい立場ですね。実際にどこに機材を渡す、といった判断は大岡さんがされていたのでしょうか?
決して私一人ではなく、開発部門・営業部門からなる立ち上げチームでどれを優先するか決めて、実際の開発状況はどうなのか等を加味して、お渡ししていた流れです。
--開発状況はソフトの売れ行きを左右しますから、非常に慎重な判断が必要そうです。
「早く渡してくれよ」って言われるんですけど、こちらとしては段階を踏んでそれなりにちゃんと動いているところにしか出せませんという方針でしたから、そこら辺のミスは怖かったというのはありますね。決して余裕のある仕事ではなかったです。
セガサターンの時は、ゲーム業界への参入を希望していたマイクロソフトが協力してくれましたが、その時のWindowsCEは使い勝手がこなれなくて。ゲームにもマルチメディア化が求められる時代で、何が正解なのか模索しながら進むような感じでしたね。
開発環境は今から考えれば「効率が低い」の一言なんですけども、それでも初めてのことばかりだったので、ちょっとしたことでもものすごく驚いて、「どうなるんだろう?」とワクワクできた時代でしたよ。
--セガサターンは、個人的にも大変お世話になったハードです。インタビューに対してはもちろんですが、いちユーザーとしても改めてお礼を言わせてください。大岡さん、ありがとうございました。
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当時のゲームの開発現場は、今回紹介したように大型の開発機が必要になるなど、現在とは比較にならないほど不自由が多く、文字通り「正解がない」状態。逆にそうした環境だからこそ、未知なる未来に向けて楽しんで仕事に打ち込んでいた……。そんなプラットフォーム提供者としての、情熱や気概のようなものを、インタビューを通して感じ取れました。
また、ゲーム史に刻まれた「次世代ハード戦争」と呼ばれた時代の一端を垣間見られたことも個人的に大きな収穫でした。セガサターンは結果的に負けてしまった立場ではありますが、強烈な個性を持つハードやソフトは、後のゲームにも大きな影響を与えました。その燦燦たる輝きの背景は、大岡さんのような熱い想いを持った仕事人が多く支えていたから、に他ならないのです。
<記事化協力>
大岡良樹(ookay)さん(@ookayoshiki)
<開発機写真提供>
Ms factoryさん(@Msfactory23)
(山口弘剛)
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