有名猫アカウントの写真が無断転載被害に→追ってみたら典型的なロマンス詐欺だった件の一部始終を公開
おたくま経済新聞 / 2024年2月8日 15時0分
有名猫アカウント写真の無断転載発生→追ってみたら典型的なロマンス詐欺だった件の一部始終を公開
SNS上に蔓延る「無断転載アカウント」。他人の写真を勝手に使用し、フォロワーを集めたり、インプレッション収益を得ること等を目的としていますが、先日その被害を訴えていたのは、3万5千ものフォロワー数を誇る有名猫アカウント「猫整体 キュベレイ」さん。
どうやら愛猫「小豆」ちゃん、「シャア」くんの写真を無断で使われているだけでなく、あろうことか金銭をだまし取ろうとする詐欺を働かれているとのこと。今回はこの無断転載詐欺の手口を暴いていきたいと思います。
■ 先に結論から
まず、今回の調査にかかった期間は1月18日から2月10日まで。長くなるので先に結論を言うと、いわゆる「国際ロマンス詐欺」の類で、最終的に金銭要求を行うものでした。
「国際ロマンス詐欺」とは、長期に亘るやり取りで信用を得た上で、突然大きな仕事が入った、病気になったなど、身辺状況が変わる何かが発生したことを切り出し、「金銭を一時的に立て替えてほしい」などといってお金をだまし取る手口です。
今回の無断転載アカウントも、他人が飼っている猫の写真で興味を持たせ、その飼い主である「紛争地域に派遣された女性医師」と親しくなり、最終的には紛争地域から離れるための契約解除の代理人を頼まれ、金銭を立て替えてほしいと依頼される……というストーリーが用意されていました。
約3週間強に渡るやり取りの一部始終を以下に記していきますが、全て潜入用として使用しているアカウントで接触を行っています。この手の詐欺はかなり悪質で、後に脅迫してくる場合もあります。安易に真似をしないようにだけご注意ください。
■ ロマンス詐欺の序章 投稿やリポストで無害なアカウントを演じる今回の対象となるのはユーザー名「catlife」を名乗るXのアカウント。
アイコンやヘッダーには、過去にキュベレイさんが投稿した小豆ちゃん、シャアくんの写真がそのまま使われており、猫の名前は「バギー」に変えられています。
アカウント自体は2023年6月に作られており、まだ1年未満と若め。そこで周囲を信用させるためか、小豆ちゃん、シャアくんの写真を無断で使った投稿を行いつつ、他の猫アカウントの投稿をリポストするなど、無害なアカウントを演じているもよう。フォロワー数は650名ほどとなっています。
■ ロマンス詐欺の第一章 自身の置かれている悲しい境遇でさりげなく同情を誘う1月18日、接触を図るべく、潜入用アカウントからフォローを行ってみると、すぐにフォローを返され、DMが送られてきました。お互いに軽い挨拶を行うと、相手が自己紹介を始めます。
なんでも「モントリオール出身のカナダ人」で、「医療活動のためガザ地区の配置されています」とのこと。今現在も攻撃を受けている紛争地域のはずですが……のんきにDMを送っている場合なのでしょうか。
聞くところによると、名前は「フローレンス」と言い、性別は女性。「退職したら日本に行って、医療分野で起業する」ことを夢見ているのだそう。これがもしも真実であれば、大層立派な目標です。
日をまたいで、さらに会話を進めていくうちにフローレンスのプロフィールが解像度を増していきます。過去に戦争で夫を亡くしており、両親もおらず、家族は娘がひとり。カナダの寄宿学校に通っており、今は離れて暮らしているのだそう。
正直この辺りで、ロマンス詐欺の類である気がしてきましたが、はっきりするまではやり取りを続けることに。すると、1月20日に相手から「LINEでやり取りをしませんか?」という提案がありました。
LINEに誘導するのも典型的なネット詐欺の手口ではありますが、もう少し探りを入れたいためこれを快諾。以降、社内で「特級呪物」と呼ばれている「潜入用LINEアカウント(フレンド全員が過去に潜入したときに繋がったネット詐欺師)」にてやり取りを行うことにしました。
■ ロマンス詐欺の第二章 日常的なやり取りの中で時折悩みを打ち明けるコミュニケーションの場をLINEに移行したのが1月21日。軽い挨拶ののち、なぜかいきなり「ここはフィレンツェです」と、所在地を誤って伝える凡ミスを犯していましたが、敢えてこれはスルー。ここで架空の猫、バギーについて質問してみることにしました。
会話によると「現在はバギーとも離れて暮らしており、カナダの猫保護施設で大切に育てられている」とのこと。「それ、人様の家の猫ちゃんですよね?」とツッコミを入れたい気持ちを押さえつつ、更に調査を続けていきます。
それからはしばらく、日常的なやり取りが行われました。その日食べたものや、お互いの家族のこと、ペットのこと、仕事のことなどなど、ごく自然な会話でしたが、時折フローレンスが口にしていたのは、やはり自身が置かれている環境に対しての悩み。
街で爆発があったり、基地が攻撃を受けたりして、命の危険を感じながら日々を送っており、出来ることなら戦地を離れて生活したいと考えているが、契約が残っているためそうもいかない……といった感じで、ここでもさりげなく同情を誘ってきます。ナルホドーソレハカワイソーデスネー。
■ ロマンス詐欺の第三章 何やら話が大きくなってくるそんな調子でやり取りを続けていると、1月26日に動きがあります。なんでも「上級スタッフを含むすべての医師が出席する会議」があり、フローレンスもそれに参加するとのこと。こうした会議は前例がなく、自身もどんな内容なのかわからないそうです。
翌日、さっそく会議内容を知らせようとしてきます。どうやらガザ地区での活動が認められ、政府から約320万カナダドルを受け取ることになったそう。日本円にしておよそ3億5千万円という大金ですから、良いニュースではあるのですが……普通それを最近知り合ったばかりの他人に教える?
ともあれ、日本での起業には十分な資金を得たようですが、なにぶん契約が残っているため、ガザを離れられないフローレンス。契約を解除するためには、家族もしくは友人が「本社」へ申請する必要があるのだとか。そろそろ何かしら要求されそうな予感がしてきました。
……と、思っていましたが、そこからまたしばらく日常的なやり取りが続きます。「いい加減本題に入ってくれ……」とやきもきしていると、1月29日に突然「お互いの写真を交換しよう」との申し出があります。
こちらの写真を見せることはさすがに断りましたが、それでも相手は一方的に送ってきました。2枚の写真に写っているのは、外国籍と思われる美人女医の写真。
「どうせこれもネットで見つけた画像でしょ……」と思って調べると、とある人物のSNSが見事ヒットしました。その人物はもちろん本物の医師で、現在アメリカ在住。つい先日、婚約者と結婚をしたというおめでたいニュースも確認しましたが、このことはすぐに追及せず、切り札として取っておくことにしましょう。
■ ロマンス詐欺の第四章 「本社」とのやり取りで満を持しての金銭要求その後、2月1日に大きな動きが。フローレンスの基地が直接攻撃され、右足に大ケガを負ってしまったもよう。送られてきた写真には包帯をぐるぐる巻きにした何とも痛々しい様子が写っていますが……そんな渦中によくLINEを送る余裕があったもんだ。
ちなみにこの写真も無断転載。海外ニュースサイト「Mail Online」が2015年に公開した記事によると、テレビレポーターがアキレス腱を断裂したときの写真となっていました。
さて、こんな茶番を続けてきましたが、なかなかあちらから具体的に切り出して来ない為、そろそろこちらから申し出てみることに。
「あなたが退職するために手伝えることがないか?」たずねると……必要なのは「私に代わって本社にメッセージを送信することだけ」で、そのためには「フォームを購入しなければならない」という条件を伝えられました。フォームとは……?
かいつまんで言うと、どうやら契約を途中終了するためには登録解除費用が必要である、ということであるもよう。ついに本題が見えてきたようです。「本社」のメールアドレス(フリーメールのドメイン)を教えてもらい、連絡をしてみると……「契約解除には2500USドルの支払いが必要」とのこと。ついにキター!
これは日本円に換算すると36万円ほどの金額。フローレンスは先日大金を手にしましたが、あいにくガザからは銀行口座にアクセス出来ず。退職申請が受理され、後日カナダに戻ったら必ずお金は返すから、一時的に立て替えておいてほしい……とのこと。
当然払う気はありませんが、話が進まない為、やむを得ず「既に支払う用意がある」と伝えると、本社側は早速振込先を提示してきましたが……これを見てびっくり。
なんとそこに書かれていたのは、ゆうちょ銀行の口座。しかも日本人名義の個人口座でした。えっ……そんなことある……?
その個人名をフローレンスにたずねましたが、「本社から提示されたのなら間違いない」とのこと。こちらが不審に思っていることを察したのか、急に焦りが見え始め、返事をしないでいるとLINE電話までかけてくる始末。もちろん出ませんでしたが……。
なお、今回指定されたゆうちょ銀行の個人口座は恐らくですが、何らかの手段で違法に入手されたものと思われます。もとの口座主が、お金にこまって売却したか、個人情報を盗みとられた人の口座情報が悪用されているか。どちらにしても入金していいものでは決してありません。
■ ロマンス詐欺を失敗に終わらせるために いよいよネタばらしさて翌日、いよいよネタばらし。これまでにフローレンスが出してきた写真を全てネットで見つけたことを突き付けると……明らかに取り乱した様子で歯切れが悪くなります。ついには「そのアカウントは自分自身のもの」という言い訳まで始めました。さすがにそれは苦しい。
なぜなら、写真の本当の人物はアメリカに住んでいて、最近結婚したばかり。そして猫ちゃんはキュベレイさんと一緒に、日本に住んでいるのだから。最後に「嘘ついてるよね?」と問い詰めると……観念したのか、ついに全て虚偽だったことを認めました。
最終的にはいくつかのメッセージを消して逃亡。元々やり取りを始めたXのアカウントもブロックされてしまいました。最初から全てバレバレだったこと、約3週間に亘ってやり取りをしても、なんの成果にも繋がらなかったこと……少しは懲りてくれただろうか。
そもそも他人が著作権・肖像権を持つ画像を、勝手に使用すること自体、権利侵害にあたります。なにより、かわいい猫ちゃんの写真を犯罪に利用し、ペット好きを陥れようとするなど言語道断。
また、やり取りにおいても「所在地を間違える」「攻撃を受け大ケガを負った当日にのんきにLINE」「振込の指定口座が個人のもの」など、明らかな矛盾点、不自然な点が多々あり、その手口ははっきり言ってお粗末と言わざるを得ません。
全てのやり取りが終わった後、指定された口座および当該Xアカウントは関係各所に通報済みです。こうしたアカウントには近づかないのが一番。面白半分でも接触は行わないようにし、発見次第速やかにプラットフォームへの通報を行うようにしましょう。
<記事化協力>
猫整体 キュベレイさん(@cybele_nakano)
(山口弘剛)
Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By 山口 弘剛 | 配信元URL:https://otakei.otakuma.net/archives/2024020805.html外部リンク
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