「もふもふ動画」はただの無断転載アカウントではない?その正体に迫る<前編>
おたくま経済新聞 / 2024年4月26日 16時38分
「もふもふ動画」はただの無断転載アカウントではない?その正体に迫る
SNSを利用している方であれば、おそらくほとんどの方が「もふもふ動画」や「最多情報局」といったアカウントを一度は見たことがあるでしょう。
面白動画やかわいいペットの写真などの投稿で、多くのフォロワーを集めていますが、実はその大半が無断転載によるもの。転載を知らされていない元の投稿主らから、問題視されています。
■ 「削除依頼はDMまで」とあるものの、要請に応じず
投稿を見てみると、完全に無断転載しているものと、Xの動画引用方法(URLの末尾に「video/1」を付ける方法)を使用した、“仕様の範囲内”で引用しているものの2パターンがあります。
しかしながら後者の“仕様”を使った場合でも、投稿者(動画や写真の権利者)が嫌だといえばそれまで。投稿者には著作権および著作者人格権があり、Xにポストしたからといって権利を手放したわけではありません。
これは利用規約の概要にも「ユーザーは、ポストまたは共有する自身のコンテンツに対する所有権と権利を留保する」とハッキリ記されており、元の投稿者の権利をXも認めています。
ちなみに「留保」は「保留」というニュアンスも含まれることから、留保だから「権利を保留する(行使しない)」じゃないの?と思うかもしれませんが、留保には「保持する」という意味もあります。現に英語版のこの箇所は「You retain ownership(所有権はあなたにある)」とわかりやすく記されています。
また、Xは利用規約の概要で「本サービスのご利用はご自身の責任において行ってください」と記しており、Xを利用した結果は全て“自己責任”。仕様を使っているからといって、それを理由に全てから逃れられるわけではないのです。
加えて、もふもふ動画のポストの中には引用元自体が転載である場合が散見されます。一般ユーザーが引用元の場合ももちろんありますが、ざっと見たところ「似たような転載アカウント」からの引用が目立ち、権利を曖昧にする工作の可能性さえ疑われます。
それに、ただの引用だとしても、転載に転載をかさねたものを引用元とするのは、正しい使い方とは言えません。このような不誠実な運用では問題視されても当然です。
■ 被害者は泣く泣く自身の投稿を削除するという手段で引用を阻止そんな無断転載アカウントについて、おたくま経済新聞に相談を寄せたのは、3万フォロワーを持つ人気の猫アカウント「おもち」さん。
話によると「もふもふ動画」に過去の投稿を、Xの引用を使って使用されており、削除依頼にも応じてもらえないのだそう。プロフィール欄に「削除依頼はDMまで」と記しているのにです。形だけの掲載ということなのでしょう。
なお、もふもふ動画に引用された投稿は18万件ものいいねが付き、表示回数は500万回以上。
いくらXの仕様を使った引用であったとしても、正体不明の怪しいアカウントに自身の愛する猫たちが勝手に使われてしまうのを飼い主が嫌うのは当然です。そこでおもちさんは、泣く泣く自身の投稿を削除するという手段で引用を阻止したとのことでした。
■ 無断転載アカウントの目的は「お金」引用元の削除要請にも応じないとは、この時点ですでに悪質であることは間違いありません。なぜここまでかたくなに削除に応じないのか?もふもふ動画の目的と関係がありそうです。
もふもふ動画のアカウントには「認証バッジ」がついており、投稿のインプレッションに応じて収益が得られる権利をもっています。このXからのインプレッション収益が、ひとつの目的となっているのは明白。
だからこそ、そうやすやすと投稿を消すわけにはいかないのです。正確な仕様は定かではありませんが、「削除したポストはインプレッションカウントから外される」という説があり、もし事実ならば売り上げにも影響することが考えられます。
また、転載アカウントの返信欄には、いわゆるツリーの形で「まとめサイト」へのリンクがいくつも貼られています。投稿内容とは全く関係のないものであふれており、なんとなくクリックしてみたくなるような見出しになっていますが、これらまとめサイトに誘導することも、ひとつの目的であると推測できます。
リンク先へアクセスすると、表示されるのは「粗悪なまとめサイト」のページ。サイト内のあちこちには広告が貼られており、広告収益により運営されているようすがうかがえます。
もふもふ動画が「まとめサイト」に誘導している理由は2つ考えられます。
――――――――
1つめは、誘導することで「まとめサイト」から得るクリック報酬が目的。
2つめは、もふもふ動画が「まとめサイト」にも関わっており、サイト内の広告から得る広告収益が目的。
――――――――
2については憶測でしかありませんが、仮に事実なら1のクリック目的だけより悪質です。
■ 複数のまとめサイトで共通している問い合わせアドレスもふもふ動画の目的は大体見当がつきますが、やはり気になるのはその正体。プロフィール欄を見ても、ヒントになるものは何もみつかりません。
編集部からもDMに問い合わせてみたものの、案の定回答はナシ。仕方ないので唯一の手がかり、「もふもふ動画」がリンクして誘導しようとしている「まとめサイト」の方を調べてみることにしました。
するとすぐにわかったのが、誘導しているサイトが1つではないこと。常時2~3サイトに誘導しており、長期でみるとその数10サイト以上。ただし内容はどれも似たりよったりな、粗悪なまとめサイトです。そして共通するのは、問い合わせアドレス。
「侵害がある場合はお問い合わせください」として各サイトに記されているメールアドレスが全サイト共通でした。
「zhangmin×××@gmail.com」※×は編集部で伏せた箇所です。
そしてこのアドレスを検索にかけてみると……出るわ出るわ。10サイトどころではなく、似たようなサイトが数百規模で出てきました。ただし運営期間はどれも短期とみられ、ドメインとサイトの枠組みだけは残しつつも記事ページは全削除して、そのままにしてある「抜け殻サイト」が大半。
もちろんこのアドレスにも問い合わせを送ってみましたが、回答ナシ。ここで行き詰まってしまいました。
■ もふもふ動画などを独自で調査したことがあるBさんに接触そこで次に頼ったのが、インターネット事情に詳しいBさん。「もふもふ動画」と、これら「まとめサイト」についても、かつて独自調査したことがある人物です。
Bさんによると、リンク先のサイトは「説明ページがテンプレート化しており、写真から誤字に至るまで全く同じ」「URL表記パターンに共通性がある」「連絡先のメールアドレスが同じ」といったいくつかの共通点があるとのこと。メールアドレスとは先にふれた「zhangmin」からはじまるGmailアドレスです。
つまり、パッと見は違うサイトにみえても、運営を行っている会社は同じであり、そこから浮かび上がったのは「中国IT企業のM科技(以下、M科技)」とのこと。「1000以上のドメインを持ち、日本・中国・英語圏に中南米など多言語向けにサイトを運営しています」という情報も得られました。
Bさんに教えてもらった「M科技」の公式サイトを早速チェックしてみると……。問い合わせ先として、「zhangmin」と似た文字列のこれまたGmailアドレスが記されていました。
――――――――
・zhangmin×××@gmail.com(まとめサイトに記されていたアドレス)
・zhangyue×××@gmail.com(M科技のホームページに記されていたアドレス)
――――――――
一部文字列が異なるものの、もふもふ動画が誘導しているまとめサイトとM科技には、何らかの関係があることは間違いなさそうです。
■ 中国の登記情報を調べてみたとりあえずM科技に関する情報が得られたので、まずはホームページに記されていた2つのアドレスに問い合わせを送ってみました。
1つは「zhangyue×××@gmail.com」、そしてもう1つは会社自体の問い合わせアドレスです。
「zhangyue×××@gmail.com」からは3週間たっても返信なし。もう1つの会社の問い合わせアドレスからは、即エラーがもどってきました。どうやらメールからの問い合わせには反応しないようです。
また、問い合わせフォームも用意されていたので、フォームからも連絡してみましたが同じく返信なし。
書かれていた電話番号にもかけてみましたが、聞こえてきたのは「通話できませんでした」。その後自動的に切れてしまい、電話からも繋がることができません。
こうなってくると、できることは限られてきます。M科技の中国での登記状況を調べてみました。中国では国が率先して、企業情報を公開するようにしており、ある程度の登記情報はネットから調べられるようになっています。
そこで「国家企業信用信息公示」(運営:中国国家市場監督管理総局)に「社名」を入力して調べたところ……なんと該当する企業が出てこず。
WEB上での企業データ公開はまだ完璧とはいえない部分があると聞きます。このため、まだデータ登録がない可能性も考えられますし、調べ方が悪かった可能性もありますが、今回調べたなかでは出てきませんでした。
仕方ないので、次に見たのが古典的にGoogleマップ。M科技のホームページに記されていた住所を入力して出てきたのは、住宅街とリゾート施設が一体となった複合エリア。住所には建物名らしきものも含まれていましたが、検索結果からはどの建物かまで特定できませんでした。
中国の検索サイト「百度」でも調べてみましたが、大まかなエリアは出てくるものの、同じく該当建物の情報までは出てこず。詰んだ……。
■ 詰んだかと思いきや……「管理人」を名のる人物と接触これ以上調査しようもないし、もふもふ動画とも接触できそうもない……と諦め、中途半端でも……と、記事公開作業をすすめていたときのことでした。M科技に繋がりそうなLINEアカウントをたまたま2つ入手。
ただし出てきた場所は、かなり古い情報から。半ば諦めの気持ちで接触をはかってみると、なんと返事が返ってきたのです。しかも自らを「管理人」だと名のりました。
1つめのアカウント名は「星野」。やりとりは、当たり障りのない挨拶からはじめ、このLINEはM科技の問い合わせ窓口か聞いてみたところ、「はい、○○(以降、サービスA)の管理人です、どの方でしょうか」と返事をしてきました。
返信に貼られていた、「サービスA」のページを確認すると、何かのログイン画面が出てきました。M科技ではこのサービスAのサポートを、LINEを通じて行っているようです。
そこで会員ではない旨つたえて、何の仕事なのか聞いてみると、既読はついたもののスルー。返信が途絶えてしまいました。
なお、もう1つのM科技に繋がりそうなアカウントも名前は「星野」でしたが、こちらは最初から一切無反応でした。
■ サービスAに登録してみたここでまた繋がりが途絶えたわけですが、折角なので星野が教えてくれた「サービスA」に登録してみることに。
登録完了して出てきたのは……「もふもふ動画」と「最多情報局」のリプ欄に貼られていた記事へのリンクがズラリ。
どうやらこのサービスAはアフィリエイトの提供サービスとして運営されているようです。いわゆるASPというポジション。
書かれているリンクをコピーし、SNSに貼り付け、そのクリック数に応じて報酬がもらえる、という仕組みになっていました。それにしてもここまでしっかりと、管理しクリック数をカウントしているとは……。
また、このサイトから直接記事も投稿できるらしく、投稿機能が用意されていました。つまり「まとめサイト」の運営管理を行っているのも、サービスA(M科技)とみて間違いなさそうです。
そしてページの下の方をみていくと……サービスAの管理画面にはサイト運営者も書かれていました。
「私たちに関しては」と書かれた運営者情報の欄を押すと出てきたのは、M科技のホームページ。「M科技」と「サービスA」、そして「もふもふ動画」が誘導している「まとめサイト」がハッキリと繋がりました。
それにしてもこのサービスの恐ろしいところが、サービスA自体の「利用規約」も「プライバシーポリシー」もないこと。
運営者としてM科技のホームページが出てくるものの、それはログインしてからのみ分かる情報。まるでこそこそ運営しているような印象をうけます。「闇バイト」ならぬ「闇ASP」なのかもしれません。
一通りここまで調べることはできましたが、結局のところ「サービスA(M科技)」と、「もふもふ動画」や「最多情報局」といったアカウントの運営が同一であるか、という確証までは得られず。直営なのか、それとも委託なのか。
ここからは私見ですが、筆者は「もふもふ動画」と「最多情報局」※はサービスA(M科技)の直営だとにらんでいます。(※もふもふ動画はプロフィール欄で「最多情報局」も管理していることを明言している)
もふもふ動画の場合だとフォロワー数は130万超。普通そこまでのフォロワー数ならば、もっとメジャーなASPを使用するほうが広告も豊富で、より利益が得やすいはずです。
サービスAの報酬は、基本1クリック1円。ただし管理画面ではドル(0.1ドル)で表示されていたので、現在は1.5円くらいですが、それでもサービスAにこだわるより他を使ったほうが稼げるはず。
にもかかわらず、マイナーな「サービスA」を介したまとめサイトへのみ誘導しているのは、仲間だからとしか考えられません。
実は編集部があちこちつつきはじめて以降、もふもふ動画の運用方法にちょっとした変化がありました。単に偶然かもしれませんが、M科技に接触したり、もふもふ動画のDMに問い合わせを送って以降、自分のポストにまとめサイトのリンクを直接張らなくなったのです。
かわりに他の怪しいアカウントがポストした「該当まとめサイトの記事」をせっせとリポストして紹介。しつこくこの「サービスA」に関わる「まとめサイト」だけを紹介しつづけています。やはりアヤシイ。
■ 締めに入ろうと思ったら……M科技の星野から6日ぶりにまさかの返事ASPの「サービスA」と、「M科技」、そしてもふもふ動画が“必ず”紹介したがる「怪しいまとめサイト」の繋がりまでが今回判明しました。
「もふもふ動画」をM科技が運営しているかまでは確証が得られませんでしたが、やはりどう考えてもここまで材料がそろうと直営を疑わざるを得ません。
と、まとめに入ろうと思ったのですが……連絡が途絶えていたLINEになんと6日ぶりに返事が……。まさかの展開に、驚いてしまいました。てっきり逃げたと思ったのに。どういうこと?
【後編:再度現れたサービスA(M科技)の星野は口が軽かった 怒濤の伏線回収】
(山口弘剛/宮崎美和子)
Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By 山口 弘剛 | 配信元URL:https://otakei.otakuma.net/archives/2024042604.html外部リンク
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