漫画家・ぬこー様ちゃんの偽アカが出現 ホイホイついていったら案の定詐欺だった<前編>
おたくま経済新聞 / 2024年5月16日 22時0分
漫画家・ぬこー様ちゃんの偽アカが出現 ホイホイついていったら案の定詐欺だった<前編>
SNSに横行する著名人を騙る行為、いわゆる「なりすまし」。先日Xにてその被害を訴えていたのは、人気漫画家でありインフルエンサーでもある「ぬこー様ちゃん」さんです。
しかもこの偽物、ぬこー様ちゃんさん本人をブロック済みのうえ、一般フォロワーを個別LINEに誘導しようとしています。いったい何が狙いなのか?目的を探ってみました。
■ Xに現れた偽ぬこー様ちゃんアカウント
偽ぬこー様ちゃんは、アイコンやプロフィールを、本物と全く同じように偽装しています。一見すると見分けがつきませんが、フォロワー数を見れば、一目瞭然。本物のフォロワー数は47万、偽物は10ほどと、明らかな差があります。
ところが、この偽物は本物のポストにリプライを行う形でLINEへの誘導を行っていました。つまり、パッと見では本物のぬこー様ちゃんさんがポストに追記しているように見えるのです。
しかもリプライへの投稿直後に、本物のぬこー様ちゃんさんをブロックしているようで、そうなると本人は気づきにくい状況。この辺りも非常に狡猾さを感じます。
僕の偽物が現れました。@add127219094528
僕はブロックされてるので見れないんですけど、LINEに誘導してるみたいです。
騙されて金をむしり取られないように気をつけてください。 pic.twitter.com/6V3BivVtxL
— ぬこー様ちゃん@絵日記毎日18時更新 (@nukosama) May 8, 2024
そこでおたくま経済新聞の詐欺潜入用LINEアカウントにて、誘導先のLINE情報を見てみると……本物のXと全く同じ設定をしたLINEアカウントが出てきました。プロフィール、アイコンなど全て同じです。
これはたしかに信じる人は信じてしまうかもしれません。
■ 偽ぬこー様ちゃんとやり取り開始それではやり取りを始める前に、まずは編集部より注意のお知らせです。
【編集部より注意】
記事化を目的に潜入取材を行いましたが、絶対に真似はしないでください。編集部では、専用機材を用意し、セキュリティ面、やりとりをする担当者のメンタル面にも十分な注意を払い取り組んでいます。安易に真似をすると大変危険です。
おたくま経済新聞編集部はちょこちょこ脅迫を受けています。一見簡単そうでも、真似していいことは決してありませんので、好奇心は本稿で満たしていただけると幸いです。
さて、偽ぬこー様ちゃんを友達登録して、簡単な挨拶を送ってみました。待つことおよそ3時間後に返信到着。
(※実際にやりとりしたLINEを以下から掲載していきますが、一部を除いてアイコンを伏せています。事情は最後に説明します。)
「LINEを追加されたのは、『FIREプラン』に関する情報を知りたいからでしょうか?」とのこと。早くも香ばしくなってまいりました。
毛頭騙されるつもりはありませんが、偽ぬこー様ちゃんの目的をさぐるべくホイホイついて行ってみることにします。もしかすると本当に儲かる話かもしれませんしね。
そこでFIREプランについてたずねると、かなりの長文で返答が寄せられました。
要約すると「これから水素エネルギーに注目が集まるから、その投資として新たな仮想通貨CHEを買いませんか?」という話。「今年は少なくとも350%のリターンが期待されます!将来的には少なくとも30倍の利益が見込まれます」……とかなり強気ですが、本当でしょうか?
しかし、このパターンはおたくま経済新聞ではすでに履修済み。この後は雑な作りの仮想通貨取引風のサイトに案内され、資金を投入後、儲かっているように見えても引き出しができなくなる……という手口でしょう。はいはいはいはい、もう分かってますよ。
「今回はどんな取引所だ?」と連絡を待っていると、案内されたのは「bitFlyer」アプリ。
……なんと実在の、かつ多くの方が利用している本物の取引所&正規アプリ。いったいどういうことなの……?
■ 勧められたのは本物の取引所&正規アプリ偽ぬこー様ちゃんは、もしかして良い人?本当に仮想通貨の指南をしてくれようとしている?思わずそんな気持ちがよぎります。
展開が読めない状況となってきました。とりあえず、ここは素直に相手に従うことに。
指示通りApp Storeで検索してアプリをダウンロードすると、次に指示されたのはアカウントの開設、さらには仮想通貨ETH(イーサリアム)の購入でした。しかも購入金額はいくらでも良いとのこと。……おかしい、普通過ぎる。
ここまでは単純に、仮想通貨の購入方法を指南してもらっているだけですが、もちろんいつでも油断は禁物。「資金は十分あるが、少額から始めて利益が出ることを確認してから本格的に運用開始したい」と伝え、1000円だけ入金すると……ここで相手の態度が一変。
「最初の資金を10万円に設定する必要があります。利益を生み出してから追加資金を投入することはできません」とのこと。えっ……話が違うし、そんなことあるわけない。一気に怪しくなってきました。
しかし、すでに乗りかけた舟。ネット詐欺潜入担当としてそうあっさりと降りるわけにはいきません。初期資金を1万円に引き上げて、再度交渉したところ……渋々ながら了承してくれました。いや、足りなくていいんかい!
気を取り直してやり取りを進め、仮想通貨「ETH」を購入することにします。もちろん実在し、多くの方が取引している仮想通貨なので、購入しても問題ないと判断しました。
恐らくですが正規取引所の「bitFlyer」へ先に案内されたのは、こうして仮想通貨を購入させるため。加えて、本当の取引所を一度介したことで「信用度を高める」仕掛けなのかもしれません。筆者の勘に間違いがなければこの後、何らかの手口で「ETH」を盗もうとしてくるはず。
はじめに聞いていた水素エネルギーの仮想通貨はいつ出てくるんだ……などと考えていたところ、次に指示されたのは、新たなアプリ「TestFlight」のダウンロードです。
「TestFlight」は、その名の通り、アプリケーションストアに登録する前に、動作に問題がないかなどを確認する開発者用のツール。名目上はこのようになっていますが、言い換えればアプリケーションストアの審査を通らないようなアプリでも動かせてしまうということ。どうやらいよいよ本題に進むようです。
■ ついに案内された偽の仮想通貨取引所続けて案内されたのは、水素エネルギーアプリ「U○○○○V」(検索すると出てくるため、○は編集部で伏せました)。いったん、「U○○○○V」のWEBサイトにアクセスして、そこからアプリをダウンロードするよう促されました。
ついに水素エネルギー、キター!とはいえ、ここからはより注意を払って行動する必要がありそうです。
アプリのダウンロード画面には「K(仮名)」という企業名が。調べてみたところ、この会社自体はマレーシア・ペナン州に実在する企業でした。
しかし、公式ホームページの事業内容には「鉄骨構造専門会社」とあり、水素エネルギーについては何も書かれていません。しかもマレーシアで20年の歴史をもつビジネス賞「ゴールデンブル賞」を2023年に受賞しているほど評価されている企業。詐欺に加担しているとは思えません。
そこで念のために本物の「K(仮名)」に対して問い合わせメールを送ってみたものの、今のところ返事はきていません。ただメールはエラーでは返ってこなかったので、しっかり到着しているものと思われます。この点、回答届き次第追記する予定です。
さて、話をもどすと、まずはブラウザで「U○○○○V」サイトにアクセスした旨を偽ぬこー様ちゃんに伝えました。すると次に指示されたのが、サイトへの新規登録。
先に登録を促された「bitFlyer」(重ねてとなりますがbitFlyerは正規の取引所です)でのアカウント開設は、運転免許証を提出するなど、個人認証に対して厳格なルールに則り行われていました。金融商品を取り扱うわけですから、当然と言えば当然なのですが、さて「U○○○○V」はどうでしょうか?
筆者の予想としては、おそらくメールアドレスやパスワード等、簡易的な登録だけのはず。いざアカウント開設方法をチェックしてみると……な、なんと、身分証の登録が必要でした。これは困った……。
なんせこのサイトはbitFlyerとは異なり、偽サイトの可能性が高いので、迂闊に本物の個人情報を渡すわけにも行きません。身分証をパパッと偽造するわけにもいかないし、困った……。(公的な身分証の偽造は有印公文書偽造などに問われます)
さて、どうしたものか……と悩んでいたところ、ひとつの案を閃きます。
「なめ猫免許証を出してみよう」(やけっぱち)
■ 偽取引所の身分証登録で賭に出てみたなめ猫免許証とは昭和のころ大ヒットした「おもちゃの免許証」。おもちゃとはいいつつも作りは割と精巧で、今でも販売されています。
普通に考えれば通るはずはありませんが、通ってしまったなら……それはそれで大問題。どっちに転んだとしても、記事にすることは決まっていたので賭けに出てみました。
なお、なめ猫免許証の実物はすぐに用意できなかったので、所有する一般協力者から写真をお借りしました。
こうして提出して待つことしばし。
え?
……通ってしまった……。提出から数分後には、審査待ちの文字が認証済みに変わってしまいました。
「U○○○○V」、アウトー!
ちなみに、登録時に送られてきた返信メールの送付元は、シンガポール(シンガポール共和国)のサーバーでした。
調査は「漫画家・ぬこー様ちゃんの偽アカが出現 ホイホイついていったら案の定詐欺だった<後編>」へと続きます。
<記事化協力>
ぬこー様ちゃんさん(@nukosama)
(山口弘剛)
Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By 山口 弘剛 | 配信元URL:https://otakei.otakuma.net/archives/2024051606.html外部リンク
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