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Xでアカウント乗っ取り?「ガチで10万円もらえた」投稿が相次ぐ→本当なのか調査してみた

おたくま経済新聞 / 2024年6月12日 13時22分

写真

X(Twitter)に投稿された「これやってみたら10万ガチでもらえた」

 6月7日の18時ごろ、Xにて複数のユーザーが一斉に「これやってみたら10万ガチでもらえた」(現在は大半が削除済み)という投稿を行う事態が発生。投稿にはメッセージアプリ「LINE」のフレンド登録のリンクが貼られており、何やら怪しさ満点……。

 今回はこうした投稿がなぜ行われたのか、そして本当に「ガチで10万もらえる」のかを検証していきたいと思います。

■ なぜ勝手に投稿が行われるのか?

 まず、「これやってみたら10万ガチでもらえた」という投稿を複数のユーザーが一斉に行った経緯について。これはどうやら各個人がXと連携している外部アプリが原因であるもよう。

実際の投稿

 編集部に届いた声の中にも、兄や友達が同じ投稿をしていたので指摘すると、不審なアプリと連携していた、という体験談がありました。

 例えば「○○診断」や「○○メーカー」等といった、外部サイトを経由して投稿を行うサービスを利用した際、確認画面をよく読まないままアカウント連携を行うと、スパム行為の拡散や乗っ取り被害に遭ってしまう、というケースは、過去にも行われてきた典型的なパターンです。

 診断系は知り合いが行っていると自分もつい真似したくなってしまいますが、Xの乗っ取りについてはこれがほとんどであるため、アプリ連携を行う際は相手に与える権限をよく確認したうえで行うようにしましょう。

 なお、現在連携しているアプリを確認するためには、メニューを開き、「設定とプライバシー」→「セキュリティとアカウントアクセス」→「アプリとセッション」→「連携しているアプリ」で確認可能です。

 もしもここに身に覚えのないアプリや問題のありそうなアプリを発見した場合は、項目をタップし「アプリの許可を取り消す」を選択すればOK。解除後は念のため、Xのログインパスワードを変えておくと、対策としてより良いでしょう。

Xが乗っ取られた場合の対処方法

■ ガチで10万もらえるのか?検証してみた

 さて、今回の検証はここからが本番です。投稿された文章には「これやってみたら10万ガチでもらえた」とあり、何やら報酬がもらえる内容であるもよう。投稿に貼られたLINEのリンクをたどると、「くいっくこいん」というユーザーがあらわれました。

Xのリンクをたどると、あらわれたアカウント

 弊社潜入用アカウント(フレンド全員詐欺師の別名「特級呪物」)にて早速登録してみると、相手からすぐさま返事が。「ボタンを押すだけのシステムが今だけ完全無料!今だけの期間限定で10万円をプレゼント中」とのことで、どうやら金融系サービスの勧誘であるようです。

「ボタンを押すだけのシステムが今だけ完全無料!今だけの期間限定で10万円をプレゼント中」

 さらに添付の画像には「F(仮名)システムの無料受取」「10万円の軍資金プレゼント」とあります。しかし、やはりどのような方法で稼ぐのか、その稼ぎ方の実績に関する情報は見当たりません。これはますます怪しい……。

 ちなみに、「F(仮名)」という名称の金融サービスは、別に実在しています。こちらはもちろん金融商品取引業者として登録されている正式なサービスですが、「くいっくこいん」が案内してきたサービスとロゴが一致します。どうやら本物のF社のロゴに似せて作ったようです。色味だけちょっと変化させていますが、特徴的なデザインがほぼ同じです。

■ 「Fシステム」に登録してみる

 何はともあれ、ひとまず先へ進んでみることにします。画像をクリックすると、あらわれたのは「F」のサービスのモニター登録画面。なんでも「第二次モニター会員を200名追加募集」しているらしい。

サービス「F」のモニター登録画面

 使用されているイラストやUIを見る限り、ページ自体は割としっかり作られているように感じますが、ここでもやはり具体的なサービス内容については一切記載されておらず。「勝率90%超え」「最先端AIが自動で投資取引」とあるので、おそらくFXやバイナリーオプション等の自動売買ツールの類でしょうか。

 メールアドレスを入力すると、無料で始められるらしいのでとりあえず登録を行ってみます。ちなみに、いわゆる「捨てアド」では登録ができず、「携帯アドレスまたは国内プロバイダのアドレス」のみ、ということなので、新たにアドレスを取得し、いざ登録。

捨てアドでは登録できず

 すると、すぐに登録方法についての案内が届き、メールに記載されているリンクをタップするとログイン方法が紹介されていました。ログインに必要なのはメールアドレスとパスワードですが、なんとびっくり。パスワードは予め指定されているようです。そんなことがあるのか……。

パスワードは予め指定されているようです

 ちなみに届いたメールには、サポートLINEも書かれていました。こちらも登録を済ませると現れたのが、「F/サポートLINE」というアカウント。

「F/サポートLINE」というアカウント

 登録完了したら教えて欲しい、といった内容のLINEを送ってきたくらいで、大したやりとりはありませんでした。

「F/サポートLINE」から来た案内

 すでに色々おかしいのですが、もう少し先へ進んでみることに。ログインしてみると、システムの利用画面があらわれました。「運用資金」の項目には初めから「100,000円」が表示されており、どうやらこれが「10万ガチでもらえた」の答えだったもよう。

「運用資金」の項目には初めから「100000円」が表示

 画面下部にはビットコインや各国の通貨の値動きが表示されており、これについては実際の値動きと連動しているようです。ソースコードを調べると、無料で使用できる「リアルタイムチャートウィジェット」が埋め込まれており、パッと見は本物の金融サービスっぽい点にも、注意が必要です。

ビットコインや各国の通貨の値動きは実際の値動きと連動しているもよう

■ 謎だらけの「Fシステム」起動させてみた

 システムの稼働方法は「START」を押すだけ。「運用稼働中」と表示されたら起動成功となり、早速合計利益が増えていきました。

システムの稼働方法は「START」を押すだけ

 ここで気になったのは、利益の増え方です。依然としてどの通貨を売買しているのかはっきりせず、マイナスになることもなく、ただ利益が一定時間ごとに増えていくだけ……そんな金融商品見たことも聞いたこともありません。

 あとは放置しておけば、利益が増えていく……らしい。3日経った後に口座登録を行うと、利益の受取が出来るようになるそうです。普通、この手の金融商品は、サービス利用開始時に口座情報などの登録が必要です。3日後という理由も良く分からないですし、利益が保証されているような書き方もおかしい。

 この日はここで調査を終え、翌日再度システムを覗いてみると……おお、増えてます。たった一日放置しただけで、合計利益はおよそ16万円になっていました。元本10万で、1日で6万円プラスに出来るなんて……かなり優秀なツールですね。私ならまず誰にも教えないです。

合計利益はおよそ16万円に

 その後、3日が経過したところで新たなメールが届き、いよいよ出金のための口座登録を促されました。さすがに本当の口座を教えるわけにも行かないので……実在しないことを確認した上で、架空の銀行名を登録。

架空の銀行名、支店名を登録

 さすがに通るはずないな……と思っていたら、難なく通ってしまいました。マジか!

「口座登録完了」

 すると、「口座登録完了」のメールが届き、出金方法が案内されます。どうやら出金するためには「プレミアムメンバー」への登録が必要となり、3日以内に登録をおこなえば登録料が半額の13万円で済むそうです。わー!安ぅい!……ってなるか!

「プレミアムメンバー」への登録案内

登録には13万円が必要

 ページ下部には「利用者の声」も掲載され、あたかも儲かるような書き方がされていますが……これが本当かどうかなんて知る由もありません。実在しない口座情報が通ってしまった段階で真っ黒なのですが、もう少し行ける所まで潜ってみましょう。

■ LINEで出金のためのやり取り おかしい点を色々ツッコんでみた

 プレミアムメンバー登録の予約ボタンを押すと……「F/リザベーション窓口」という新たなLINEアカウントが表示されました。

「F/リザベーション窓口」という新たなLINEアカウントが表示

 友だち登録を行うと、程なくして相手からメッセージが送られてきました。プレミアムメンバーに登録したい旨を伝えると……振込先の案内が。そこに書かれていたのは、一見すると今回の運営会社とは関係なさそうな企業名および個人名が。これは果たして……。

プレミアムメンバーに登録したい旨を伝えると……振込先の案内が

一見すると今回の運営会社とは関係なさそうな企業名および個人名が

 この点についてたずねると、「収納代行会社の提携先金融機関である」とのこと。この手のサポートLINEにしては、日本語が流暢なので、ここまでで気になったことを色々と質問して見ることにしました。

 まず「特定商取引法に基づく表記」について深掘りして聞いてみました。実は、初めに案内があったページの最下部にリンクがあったのですが、所在地や電話番号が書かれていないなど、内容が不十分。この点について質問すると、新たな「特定商取引法に基づく表記」へのリンクが送られてきました。

「特定商取引法に基づく表記」

 ここにも電話番号は書かれていませんでしたが、これは「電話回線工事中の為、完了次第電話番号を記載予定」であるからとのこと。また、所在地について、見慣れない住所が記載されていた為、調べてみたところ、該当したのは海外のレンタルオフィス。見れば見るほど、怪しさが募っていきます。

 さらに、金融庁への登録番号についてたずねると、今度は「来年4月頃を予定しております、一般販売に向けて申請中」であるとのこと。特商法表記をはじめから行っていない、住所がレンタルオフィス、電話番号記載なし……と、質問の度にどんどんボロが出てきます。

「電話回線工事中の為、完了次第電話番号を記載予定」

 極めつけは、後出しの特商法表記にある「利用規約」に書かれていたサービスの名称。そこには「F」ではなく、『メールカウンセラー副業「Pα(仮名)」』とあります。

利用規約に謎のメールカウンセラー副業「Pα(仮名)」

 ここで初めて登場したサービス名称について聞くと「ウェブサイトの委託会社が同じだった可能性がございます。ですが弊社と全く関係ございません」とのこと。そんな状態でサービスを開始しちゃいかんでしょ……。

「ウェブサイトの委託会社が同じだった可能性がございます。ですが弊社と全く関係ございません」

 また、ここで実在のサービスである本物の「F社」との関連性についてたずねると、「ですから弊社は海外法人です」と、少し怒り気味で返答が。進む気配のない支払いにシビレをきらしているのかもしれませんが、怒りたいのはこちらである。

「ですから弊社は海外法人です」と、少し怒り気味で返答が

 表面上はそれらしく装っていますが、あまりに疑わしい点が多すぎるため、ここでネタばらし。相手におたくま経済新聞の記者であることを明かすと、「名刺をこちらまでお送りください」との返答が。わかっているのかいないのか不明でしたが、以降は既読が付くものの沈黙。打つ手なしと気付いてくれたでしょうか。

最終的には既読が付くものの沈黙

■ やりとりの裏で本物の「F社」の広報さんに確認をとっていた

 実は「F/リザベーション窓口」とやりとりをしている全く同じタイミングで、本物のF社の広報さんともやりとりをしていました。

 すると予想どおり、ドメイン時点で「まったく心当たりがございません。。。」と困惑。ロゴについても確認してもらいましたが、驚きを隠せないようでした。

 加えて入金に指定された銀行口座の名義(社名)についても確認をお願いすると、「まったく存じ上げません。。。」と再び困惑。同社としては今後、ユーザーなどに対して注意喚起を行っていくそうです。

■ リスクなしに絶対に儲かる投資は存在しないことを念頭に置いておく

 今回の手口は、Xアカウント乗っ取りに始まり、偽の金融サービスにLINE経由で登録を促し、利益が出ているように見せかけるも、仕組みについてはまったく不明で、かつ出金に13万円を要求してくる、というものでした。

 実は今回のシステム、途中で運用を停止したらどうなるか、という検証のため、最初の一日で停止させていたのですが、それでもおよそ6万円の利益が出ていた為、3日間放置していればさらに大きな利益となっていたことでしょう。もしかすると「後で利益を受け取れるから13万くらいなら……」と、お金を出してしまう人がいるかもしれません。

 さらに、登録のためのページも非常に本物らしく作られており、うっかり登録してしまう人もいそう。サポートLINEのやり取りも流暢な日本語で、丁寧な印象を受けました。

 しかしながら、リスクがなく絶対に儲かる投資は存在しませんし、元本10万円(初めから用意されている)で、1日6万円の利益はFXや株の熟練者でもかなり難しい部類でしょう。仮にそんな情報があったとしても、まずSNSで出回るはずがありません。

 また、金融サービスを提供する上で、「特定商取引法に基づく表記」や「金融庁への登録番号」に不備があるはずがありません。今回の相手はウソと分かる言い逃れをしており、偽物であることは明らかでした。仮に13万円払ったとして、出金が出来るようになるはずがありません。だって存在しない銀行でも登録できてしまうのですから……。

 皆さんにおかれましても、くれぐれもこうしたウソの儲け話に騙されることがないようにということと、不用意にXと他社サービスを連携させないよう注意して使っていくようにしましょう。

 なお、今回のやり取りで登場した銀行口座やサービスについては、全てのやり取りが終わったあとで、然るべき機関に通報済みです。

■ おまけ・もしかすると1千万円請求される!?

 話の流れが悪くなるので、本文に入れなかったエピソードが実は2つほどあります。折角なので最後に「おまけ」として紹介しておきます。

 Fの「特定商取引法に基づく表記」や「利用規約」には、実はちょっと強気の文言が書かれていました。「特定商取引法に基づく表記」の方では、ホームページなどのデザインを「著作権者に無断で使用、複製送信」すると1千万請求すると書かれています。ヒッ!

「特定商取引法に基づく表記」の著作権の項目

 そして「利用規約」でも、サービスの内容を一部でも「複製および転載」すると、違反金10万円、インターネットで公開すると一律1千万の損害賠償を支払わなければならないそうです。

利用規約・著作権

 そのうち編集部に請求が来るのでしょうか?この点少し疑問になりましたが、本物のF社からは記事化に関しては了承得ていますし、なにより今回は報道利用です。著作権的にもクリアだとは思われますが、どうなるのか?今後もし何か動きがあればもちろん詳報します。

 次に、やりとり後に起きた変化について。本文中、「利用規約」にFと違う名称「Pα」が記されていたことを指摘しましたが、やりとりの翌日に……なんと「F」に修正されていました。でも「メールカウンセラー副業」はそのまんま。変なところで真面目なんだけどどこか抜けてる……というのが今回潜入してみて抱いた感想です。なんだかなぁ。

修正後

※更新:当初、偽Fのサイトロゴが本物のF社のロゴと完全に一致すると記していましたが、再度確認したところわずかに異なることがわかりました。モザイクをかけている部分ではありますが、この点誤りがあったこと修正して更新いたします。(6月13日)

<参考・引用>
特定商取引法ガイド「通信販売広告について」

(山口弘剛)

Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By 山口 弘剛‌

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