ボーイング777の第1号機がアメリカ・アリゾナ州で博物館入り
おたくま経済新聞 / 2018年9月21日 10時54分
地上でのB777-200(B-HNL)
大型双発ジェット旅客機として世界中の航空会社で主力機となり、結果としてB747「ジャンボ」を引退に追い込んだボーイングのB777。日本の新しい政府専用機にも、派生型のB777-300ERが採用されています。その映えある第1号機(WA001・登録記号B-HNL)が引退し、アメリカのアリゾナ州にある博物館で展示されることになりました。
中型旅客機B767-300と大型旅客機B747-400の中間を埋める、400席クラスの「767-X」として計画されたB777。計画段階から多くの航空会社にアンケートをとって需要動向を探り、設計段階で日本の全日空や日本航空のほか、ユナイテッド航空、キャセイパシフィック航空、ブリティッシュ・エアウェイズ、アメリカン航空、デルタ航空、カンタス航空の各社からユーザー側の意見を採り入れる「ワーキング・トゥギャザー」という方式を初めて採用した旅客機となりました。ボーイングとしては、操縦系統が油圧式でなく電気信号で伝達される「フライ・バイ・ワイヤ」を採用した最初の旅客機。また、世界で初めて全てがコンピュータを使って設計された旅客機でもありました。
最初に発注したローンチカスタマーは、1990年10月15日に1億1000万ドルで34機(さらに34機をオプション発注)発注したアメリカのユナイテッド航空。これは同社のDC-10を置き換える目的で発注されたものでした。設計段階で、ユナイテッド航空は「本拠地であるシカゴから、ハワイ、ヨーロッパへノンストップで行けること」や「片方のエンジンが使えなくなっても、1基だけで安全に飛行が続けられるETOPSの条件を満たすこと」、「寒いシカゴの冬でも手袋をつけたまま点検用ドアが開けられること」などをリクエスト。胴体の太さはキャセイパシフィック航空のリクエストによるもので、基本モデルとなるB777-200の客室長さと座席配列の自由度は全日空とブリティッシュ・エアウェイズのリクエストによるものでした。
搭載するエンジンはプラット&ホイットニー(P&W)のPW4000、ロールスロイス(RR)のトレント800、ゼネラル・エレクトリック(GE)のGE90から選択することになっていましたが、製造第1号機となった製造番号WA001はRRトレント800仕様。1994年6月9日にロールアウトし、同年6月12日に初飛行しました。この機体はアメリカやヨーロッパの航空局による型式証明を取得するための試験飛行に供され、1995年4月19日にアメリカとヨーロッパの航空局から型式証明を取得しました。通常、製造1号機は試験飛行に供されて、不具合の修正などが行われるためにメーカーの手元に置かれる期間が長く、顧客に引き渡される最初の機体となることは稀です。B777も例外ではなく、ローンチカスタマーであるユナイテッド航空に引き渡されたのは、製造1号機とは違うPW4000エンジン仕様のB777(登録記号:N777UA)で、1995年11月12日に引き渡されました。
試験飛行で使用されたRRトレント800仕様の製造1号機(WA001)は、全ての社内試験が終了した後の2000年に、香港での登録記号「B-HNL」としてキャセイパシフィック航空(出自がイギリス系の航空会社なので、使用する飛行機にはイギリスのRR製エンジンが伝統的に採用されます)へと引き渡されました。以来18年、世界中を飛び続けトータルで2万519回の飛行、4万9687時間という飛行時間を記録して退役しました。そして記念すべきB777の第1号機として、アメリカのアリゾナ州ツーソンにあるピマ航空宇宙博物館に寄贈されることが2018年9月17日(香港時間)に発表されました。ピマ航空宇宙博物館は、屋内展示場だけで1万平方メートル以上の広さがある、世界最大級の航空博物館です。
キャセイパシフィック航空のホッグCEOは「世界最初の777、B-HNLは我が社と民間航空の歴史において重要な位置を占める機体です。このたびアリゾナに新しい住みかを得て、多くの航空ファンを楽しませてくれるであろうことを嬉しく思っています」とコメント。キャセイパシフィック航空では、2021年に次世代型となるB777-9を導入予定。まだまだB777との縁は続きます。
9月18日、B777製造1号機(B-NHL)はキャセイパシフィック航空3492便(マイク・エバンス機長、ナイジェル・ベスト機長、ジェシー・ジスキー副操縦士、ジョシュア・チョン副操縦士)として、香港からアリゾナ州のツーソンにあるアメリカ空軍デイヴィス・モンサン基地へと最後の飛行を行い、そこからトーイングカーで道路を渡り、空港に隣接する博物館の敷地へと入りました。ここには現存唯一のB-52A(3機のみ製造の3号機)やアポロ計画のサターンロケットを空輸するために作られたNASAの巨大輸送機スーパーグッピー(5機中の2号機)、DC-10やミサイルサイロ入りのタイタンII大陸間弾道ミサイル(ICBM)まで、およそ350機以上もの収蔵品があります。B777もその収蔵品の一員として、長い余生を過ごすことになります。
Image:CATHAY PACIFIC
(咲村珠樹)
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