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【新作アニメ捜査網】第30回 2010年アニメ!勝手にアカデミー賞

おたくま経済新聞 / 2011年2月14日 13時58分

【新作アニメ捜査網】第30回 2010年アニメ!勝手にアカデミー賞

「新作アニメ捜査網」

旬なアニメ情報をお届けしている「新作アニメ操作網」。今回は、昨年テレビ、映画館それぞれで放送または上映されたアニメ作品を振り返り、権威ある賞「アカデミー賞」になぞらえて、私コートクの独断と偏見で賞付けしてみたいと思います。
ちなみに「テレビアニメなのにアカデミー賞?」という突っ込みは一旦無しでお願いいたします。それでははりきってご紹介させていただきます。

2010年のアニメ映画は、全体的に見て、映像面での質の高い作品が多かったように思います。一般的に言って、映画はテレビと比べて、予算・人員の面で物量作戦を優位に進めることができるのではないでしょうか。各映画には優れたスタッフが多数集結しているが故に、優れた映像作りが実現しているのでしょう。そしてそれらスタッフは画面の中で異世界を精密に構築し、観客が恰も現実世界を離れて異世界の中へ飛び込んだかのような魔術を駆使していると言っても過言ではありません。アニメ映画は小規模公開のものが多いため、地方によってはご覧になれない方も多いかとは思いますが、映画館の大スクリーンで鑑賞することにより、ビデオソフトやネット配信よりも一層、その迫力溢れる映像マジックを堪能できるのではないでしょうか。

●最優秀脚本賞・・・『劇場版“文学少女”』(山田由香)

本作は、文芸部に所属する男子高校生・井上心葉(声・入野自由)を主人公に据えた物語でしたが、その本筋は、文芸部宛てのポストに謎のイラストが投函されていたことから始まります。イラストを投函した少女は、心葉に「井上ミウさんからです」という謎の言葉を残して立ち去るのでした。そしてこの名前を聞いた心葉の頭の中では屋上から飛び降りる少女の姿がフラッシュバックします。この時点では、イラストが何を表しているのか、井上ミウという人名は誰なのか、飛び降りた少女は何者なのか、といった謎は観客には伏せられており、それらの謎は追い追い小出しにして観客に明かされることになりますが、その過程において、緊張感を巧みに高めていました。そしてクライマックスにおける、登場人物を癒すシーンになだれ込むのです。謎のイラストの差出人であり、過去に飛び降り自殺を試みた少女でもあったヒロイン(声・平野綾)は、幼少時に肉親から罵倒されるなど、愛情に飢えていたようですが、そういった負の感情が癒され、大団円となるのです。

▼まとめ
観客には伏せられた秘密を小出しにする展開で緊張感を張りつめ、ラストの癒しのシーンの効果を最大限に高めた点を評価しました。

●最優秀作画・美術賞・・・『宇宙ショーへようこそ』
(作画監督・石浜真史、美術監督・小倉一男、色彩設計・歌川律子)

本作は、2つの点で映像面での見せ場があります。
1つは序盤における地球上の描写、もう1つは途中以降における宇宙の描写です。
地球上では、山で兎を探す場面での陽射し、夕日が反射した水溜まり、草むらで犬(実は宇宙人)を発見するキャメラアングルといった描写が大変情緒溢れ、郷愁を誘う出来となっています。そして宇宙の描写は、次から次へとバラエティー溢れる世界が登場するという、パノラマ的な壮観ぶりとなりました。

▼まとめ
本作は地球人の少年少女が宇宙を旅するというストーリーですが、観客もまた疑似的に宇宙を旅しているかのような錯覚を起こさせるほどの、広大な宇宙描写を評価しました。

●最優秀編集賞・・・『Fate/stay night Unlimited Blade Works』(松村正宏)

テレビシリーズとしても制作可能と思われるストーリーを、上映時間107分に盛り込んだため、大量の登場人物と盛り沢山の展開をふんだんに盛り込んだ作品となりました。その密度の濃さに敬意を表し、編集賞としたいと思います。

▼まとめ
観客に息つく暇を与えないほどの目まぐるしい展開を評価しました。序盤、テレビシリーズで姿を消した筈の朝倉涼子(声・桑谷夏子)が教室に現れる場面の重苦しい劇伴「朝倉涼子という女性」、物語が急展開を見せつつキョンの意志を感じさせる中盤の劇伴「涼宮ハルヒの手がかり」、そして事件が収束してラストの平穏な日常へと至る劇伴「いつもの風景で終わる物語」と、ストーリーの最初から最後まで劇伴の果たした役割は大きかったと思います。

▼まとめ
要所要所において起伏を盛り上げ、登場人物の行動や台詞と共に、ストーリーを転換させる上で大いに効果を発揮した点を評価しました。

●最優秀主題歌賞・・・
『魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st』(「PHANTOM MINDS」)

水樹奈々が歌ったこの歌は、2010年1月25日付のオリコン・週間シングルチャートで、声優として初めてシングル週間1位を獲得した作品です。更に同年大晦日の『紅白歌合戦』でも披露され、2010年のアニメソング界を代表する名曲となりました。まさに2010年は『なのは』に始まって『なのは』に終わった年と言えるでしょう。尚、アニメロサマーライブでこの曲が披露された際のバンドの顔触れを見るとバイオリニストがいなかったようですが、『紅白歌合戦』では弦楽器の演奏者が並び、切ない伴奏を披露しました。

▼まとめ
1月から12月までずっと話題であり続けた偉業に敬意を表します。

●最優秀主演男優賞・・・森川智之

『いばらの王 ‐King of Thorn‐』で、主要登場人物の1人である屈強な軍人・マルコ・オーエン役を演じたのが森川智之です。この映画は想像を絶する環境の中で生きるか死ぬかの瀬戸際に追いやられる物語ですが、その中で森川は、頼もしいオーエンの姿を力強く演じていました。

▼まとめ
閉塞感が覆っている現代日本の状況下、森川演じるオーエンのように、困難を切り拓く力強さを持った人物というのは、求められる人物像ではないかと思います。よって、時代に必要な英雄像を表現したことを評価しました。『ルー=ガルー』で主人公・牧野葉月役を演じたのが沖佳苗です。この主人公は精神的に不安定なところがあるのですが、良い友人に恵まれ、友人とのバンドの練習などを通じて成長し、笑顔を見せるようになるのでした。この辺りのエピソードは微笑ましいものであります。

▼まとめ
仲間と共に懸命に奮闘して成長する姿を通し、映画を見た少年少女に勇気を与えたであろう点を評価しました。『イヴの時間』で、捨てられた旧型の家庭用ロボット・カトラン役を演じたのが石塚運昇です。自身が置かれた状況を理解できずに元気に振る舞うカトランの姿は健気であり、とても悲しいエピソードでした。

▼まとめ
現実の世界でも旧型となった電気製品を捨てることはよくあると思いますが、物に対する現代人の心構えを考えさせた点を評価しました。『カラフル』で主人公のクラスメイト・佐野唱子役を演じたのが宮崎あおいです。恥ずかしがり屋でありながらもクラスメイトを心配する優しい心と一途な思いを持っているという役どころでした。本作は鬱描写が多いけれども、その中でも救いとなる役どころの1人であったと思います。

▼まとめ
無縁社会という言葉が話題になるなど、他人と関わり合いになりたくないという風潮が蔓延する現代において、クラスメイトの異変を察知して心配するという人物表現を通じて一石を投じた点を評価しました。

2010年のテレビアニメは、刹那的な作品が多かったのではないかと思います。即ち、あまり深いことを考えずに気軽に見ることができ、見ている間は楽しい気分に浸れるような作品が多かったということです。日常生活に疲れている視聴者にとっては、このようなアニメは気晴らしとして適していると言えるでしょう。しかし同時に、社会に対する警鐘や、深い理念といったものを含んだ硬派なアニメが減るという弊害も生んでいます。

出演者に目を向けると、特定の声優が多くの作品で主要登場人物を演じる傾向がありました。表彰にあたっては、数をこなしたことを評価するのか、それとも1つの番組内での活躍ぶりに絞って評価するのか、なかなか難しい所でしたが、その辺は総合的に評価することに致しました。

●最優秀脚本賞・・・『こばと。』(横手美智子/大川七瀬、他)

本作は全体的に、心が洗われるような脚本となっていました。

例えば第3話「…雨の贈りもの。」では、主人公の小鳩がコンビニエンスストアの傘立てに置いた傘を何者かに持ち去られてしまうのですが、小鳩は「どなたか間違ってしまわれたのでしょうか」と丁寧な敬語で驚きます。

また第7話「…やさしいひと。」では、他人から嫌われるのを恐れて頼み事を断れない自分自身を嫌悪する大学生・堂元崇(声・神谷浩史)に対して、小鳩は、他人を助けたいと願う堂元の心に真正面から敬意を表します。
第13話「…天使と守り人。」では町にでーんとそびえる銀杏の木に対して邪魔だという苦情が来たため木を伐採することになりますが、住民の冷たい視線とは裏腹に、銀杏の木は町の住民を見守ることができて幸せだったと語り伐採計画を受け入れます。

▼まとめ
世知辛い世の中において、視聴者に温かい心を取り戻させてくれるような脚本だった点を評価しました。

●最優秀作画・美術賞・・・『あにゃまる探偵キルミンずぅ』
(総作画監督・相澤昌弘/相澤澄江、美術監督・田尻健一、色彩設計・高木雅人)

愛くるしいキャラクターによるファンシーな世界を構築したのが本作です。例えば本作の作画における優れた点を1つ挙げるとすると、登場人物の瞳が緻密に描き込まれ、可愛らしさを演出していることが挙げられるでしょう。

▼まとめ
上記のような、細かい部分にも妥協を許さない作り手の姿勢を評価しました。本作の見せ場の1つは、登場人物の少女達がストライカーユニットという兵器を装備して空中を飛翔し、謎の魔物・ネウロイと戦う場面です。この空中戦シーンではエンジン音が轟き渡り、恰も視聴者も戦場に立ち会っているかのような緊迫感を高めました。エンジンの音轟々とウィッチは征く、雲の果て!

▼まとめ
戦場を描いた作品という特徴を最大限に引き出すため、恰も観客が戦場に立ち会っているかのような臨場感を高めた効果音を評価しました。

●最優秀音楽賞・・・『祝福のカンパネラ』(Elements Garden)

本作のキャラクターはみな他のキャラクターを思いやる優しさに満ちていましたが、劇伴もまた同様に、心にしみ入る優しさに満ちたものでした。特にそのような要素を強く持っていた劇伴が「流星群の夜」です。この曲は形を変えて随所に用いられ、短縮版がタイトル音楽として使われた他、ピアノ演奏バージョン「魂白珠」も物語を彩りました。

▼まとめ
聴くだけで優しい気持ちが湧き上がってくるような、劇伴の力を評価しました。

●最優秀主題歌賞・・・『FORTUNE ARTERIAL 赤い約束』(「絆-kizunairo-色」)

スピード感溢れる中で、切なさ、苦悩、葛藤などを感じさせ、胸がきゅんとなる1曲。本作は高校生として人間と共存する吸血鬼を描いたものですが、本作に登場する吸血鬼は正体を隠すために、自身の正体を知った人間の記憶を抹消していました。しかし、同時に他人の記憶を消すことには辛さや悲しみをも伴っており、そのことが顕著に表れたのが第3話「千年泉」のクライマックスであります。主題歌においても、2番のサビの歌詞にその思いが強く反映されていると思います。

▼まとめ
アニメソングの役割の1つに、アニメの劇中世界の構築を補佐するというものがあると思いますが、本曲はその貢献度が高かったと判断し、評価しました。

●最優秀主演男優賞・・・浪川大輔

『さらい屋 五葉』で主人公の浪人・秋津政之助役を演じたのが浪川大輔です。浪人という不安定で頼りない立場を巧みに表現した点を評価しました。本作は時代劇でありながらも、失業率の高い現代にも通じるような役柄だったと言えるでしょう。

▼まとめ
『さらい屋 五葉』において、単に劇中世界の1人の登場人物となるだけでなく、現代の時代性をも象徴していた点を評価しました。

●最優秀主演女優賞・・・明坂聡美

『みつどもえ』の主人公である三姉妹のうち、次女・丸井ふたば役を演じたのが明坂聡美です。無邪気な明るさを発揮した点が印象深い。例えば第9話「変人はサンタクロース」では、凍りついたプールの上で蹴っ飛ばされて滑るという遊びをしますが、痛くて危険であろう遊びを積極的に望む姿は爆笑ものです。この他、明坂は『探偵オペラ ミルキィホームズ』では主人公の探偵4人組と対決する怪盗の役を演じていますが、この怪盗は、普段は生徒会長として探偵4人組を温かく見守る生徒会長に扮しており、その二面性も評価されて然るべきでしょう。

▼まとめ
暗いニュースが頻発する現代において、暗い世相を吹き飛ばすほどの底抜けの明るさを発揮した『みつどもえ』における活躍を評価しました。

●最優秀助演男優賞・・・櫻井孝宏

2010年のテレビアニメにおいて、『バトルスピリッツ 少年激覇ダン』『クロスゲーム』『戦う司書 The Book of Bantorra』『ちゅーぶら!!』『裏切りは僕の名前を知っている』『さらい屋 五葉』『黒執事Ⅱ』『伝説の勇者の伝説』『デジモンクロスウォーズ』『ぬらりひょんの孫』『百花繚乱 サムライガールズ』『それでも町は廻っている』『おとめ妖怪ざくろ』にレギュラー(または準レギュラー)出演したのが櫻井孝宏です。『それでも町は廻っている』では何と老婆役を演じた他、劇中に登場した4コマ漫画をコミカルに朗読。『黒執事Ⅱ』では冷静沈着な役、『百花繚乱』では憎まれ役を演じるなど、様々な作品で多種多様な役柄を演じました。

▼まとめ
笑える役からシリアスな役まで幅広くこなした点を評価しました。

●最優秀助演女優賞・・・沢海陽子

『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』で、女軍人・オリヴィエ・ミラ・アームストロング少将役を演じたのが沢海陽子です。この少将は、他を寄せ付けないような威厳や覚悟、迫力を漂わせる人物です。例えば第34話「氷の女王」で少数民族イシュヴァール人の血をひくマイルズ少佐(声・中井和哉)と向き合った時の確固とした姿勢や、第35話「この国のかたち」において敵側に加担する人物に鎌をかけた時の豪胆さなどは圧巻でした。 

▼まとめ
『鋼の錬金術師』において主役を喰うほどの圧倒的な存在感を放った点を評価しました。

■ライター紹介
【コートク】
本連載の理念は、日本のコンテンツ産業の発展に微力ながら貢献するということです。基本的には現在放送中の深夜アニメを中心に当該番組の優れた点を顕彰し、作品の価値や意義を世に問うことを目的としていますが、時代的には戦前から現在まで、ジャンル的にはアニメ以外のコンテンツ作品にも目を向けるつもりでやって行きたいと思います。そして読者の皆さんと一緒に、日本のコンテンツ産業を盛り上げる一助となることができれば、これに勝る喜びはございません。

Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By おたくま経済新聞編集部 | 記事元URL https://otakuma.net/archives/4104840.html

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