【新作アニメ捜査網】第16回 2010年第2クールテレビアニメまとめ編
おたくま経済新聞 / 2010年7月14日 16時25分
「新作アニメ捜査網」
皆様こんにちは。本連載「新作アニメ捜査網」では、今まで2010年第2クールの番組を幾つかご紹介してきましたが、2010年第2クールが無事終わりを迎えましたので、今までの記事でご紹介できなかった作品のみならず、既にご紹介した作品のその後の展開も含めて、2010年第2クールに放送されたテレビアニメを振り返ってみたいと思います。
『WORKING!!』
原作・高津カリノ(スクウェア・エニックス『ヤングガンガン』連載)、監督/シリーズ構成・平池芳正、キャラクターデザイン/総作画監督・足立慎吾、音楽・MONACA、アニメーション制作・A-1 Pictures、製作委員会・アニプレックス/読売テレビ
出演者・福山潤/渡辺久美子/神谷浩史/小野大輔/藤田咲/阿澄佳奈/喜多村英梨/広橋涼/他
<コメント>北海道のファミリーレストランを舞台に、個性があり過ぎる店員達の姿を描く一本。登場人物の非現実的な振る舞いを笑い飛ばすのがこの番組の楽しみ方と言えましょう。
『薄桜鬼』
原作・アイディアファクトリー/デザインファクトリー、監督・ヤマサキオサム、キャラクター原案・カズキヨネ、キャラクターデザイン・中嶋敦子、音楽・大谷幸、アニメーション制作・スタジオディーン、製作委員会・ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント/フロンティアワークス/エー・ティー・エックス
出演者・桑島法子/大川透/三木眞一郎/吉野裕行/森久保祥太郎/鳥海浩輔/飛田展男/山口りゅう/他
<コメント>新選組を描いた歴史もの。史実を改変しないように配慮しつつ独自のストーリーを進めるという困難な作業をやり抜いた点は評価してよい。例えば実在の人物が、史実では死んだ時に劇中では死なずに生き延びる例がありますが、その人物が吸血鬼化したという設定にし、“人間としては死んだ”ということにして歴史の改変を避けています。この辺りは『閃光のナイトレイド』と同様の作り手の苦しみが窺える。そして物語は鳥羽伏見の戦いまで進み、秋からの続篇に続くことになりました。
本作最大の長所は、映像面での美しさではないでしょうか。本作を制作したスタジオディーンは数多くの作品で美しい映像を披露していますが、本作もまたご多分に洩れていません。
『裏切りは僕の名前を知っている』
原作・小田切ほたる(角川書店『月刊Asuka』連載)、監督・桜美かつし、シリーズ構成・高橋ナツコ、キャラクターデザイン・中山由美/松浦麻衣、総作画監督・中山由美、音楽・海田庄吾、アニメーション制作・J.C.STAFF、製作委員会・明記されず
出演者・保志総一朗/櫻井孝宏/子安武人/石田彰/井上麻里奈/福山潤/小野大輔/宮野真守/神谷浩史/他
<コメント>悪魔との戦いを描いたホラー。おどろおどろしい魔物が画面狭しと迫ってくる様子は大変恐ろしい。また、狂気に満ちた敵キャラクターを演じる植田佳奈もハマリ役でした。
『一騎当千 XTREME XECUTOR』
原作・塩崎雄二(ワニブックス『月刊ComicGUM』連載)、監督/シリーズ構成・大畑晃一、キャラクターデザイン・りんしん、キャラクターデザイン/総作画監督・ごとうじゅんじ、音楽・高梨康治、アニメーション制作・TNK、製作委員会・メディアファクトリー/ワニブックス/AT-X/ジグノシステムジャパン/ブシロード/クロックワークス/GENCO/ショウゲート
出演者・遠藤綾/浅野真澄/豊口めぐみ/武田華/斎賀みつき/他
<コメント>2ちゃんねるの実況chで俗に「チバ重役アニメ」と呼ばれて親しまれ、UHFアニメとしては『ダ・カーポ』シリーズに続いて4作目に到達するという偉業を成し遂げた本作。今回は新キャラクターの馬超(声・遠藤綾)や孟優(声・豊口めぐみ)、孟獲(声・田中敦子)の他、許?(声・武田華)、曹仁(声・斎藤千和)、典韋(声・高橋美佳子)ら脇役陣にも多くの出番を与え、賑やかな作品となりました。また本作の特徴として、1800年前の三国志との関連性を強調する場面が頻繁に登場したことが挙げられるでしょう。テレビアニメ『一騎当千』シリーズは一時期、登場人物の名前以外には三国志との関連性が薄いような作品になっていましたが、『真・恋姫†無双~乙女大乱~』や『SDガンダム三国伝 Brave Battle Warriors』に触発されたのでしょうか。例えば1800年前の呂蒙と関羽の因縁などがストーリーに影響を与えていました。
『荒川アンダーザブリッジ』
原作・中村光(スクウェア・エニックス『ヤングガンガン』連載)、監督・新房昭之、シリーズ構成・赤尾でこ、キャラクターデザイン/作画総監督・杉山延寛、音楽・横山克、アニメーション制作・シャフト、製作委員会・明記されず
出演者・神谷浩史/子安武人/藤原啓治/坂本真綾/杉田智和/大塚芳忠/小山力也/他
<コメント>荒川河川敷に住み着く個性溢れる住人の姿を描いたコメディー。極端な場面も散見されるものの、物語の根底にあるのは温かい人情であると言ってよいでしょう。いわば本作は、長屋を舞台にした人情喜劇を河川敷に置き換えたような作品なのです。第10回でニノ(声・坂本真綾)が言った「離れ離れになるのはもう嫌だ」という台詞が、住人の連帯を象徴していると言えます。
尚、本作は分割2クールの前篇であり、続篇の制作が決定しております。
『聖痕のクェイサー』
原作・吉野弘幸/佐藤健悦(秋田書店『チャンピオンRED』連載)監督・金子ひらく、シリーズ構成・上江洲誠、キャラクターデザイン・うのまこと、総作画監督・杉本功/飯島弘也、音楽・加藤達也、アニメーション制作・フッズエンタテインメント、製作委員会・明記されず
出演者・三瓶由布子/藤村歩/豊崎愛生/茅原実里/平野綾/日笠陽子/他
<コメント>無駄なエロシーンを詰め込んだバトルアニメ。エロシーンを除けば、熱いアニメに仕上がっています。
『閃光のナイトレイド』
監督・松本淳、シリーズ構成・大西信介、キャラクター原案・上条明峰、キャラクターデザイン・佐々木啓悟、音楽・葉加瀬太郎/門倉聡、制作・A-1 Pictures、製作委員会・アニプレックス/テレビ東京
出演者・吉野裕行/浪川大輔/平田広明/大林隆介/生田善子/星野貴紀/他
<コメント>昭和初期の上海や満洲を舞台に、日本陸軍の諜報機関・桜井機関に所属する超能力者を描いた一本。但し主役である桜井機関メンバーはあまり歴史的な大事件に絡んでおらず、歴史的な大事件に絡むのは脇役である元日本陸軍軍人・高千穂勲(声・平
田広明)でした。いわば、真の主役は高千穂であると言ってもよい。高千穂は、アジアを植民地として支配する欧米列強や、満洲を武力で占領した日本に不信感を抱き、いかなる国家にも属さない勢力として植民地解放運動に身を投じます。更に高千穂は核兵器の開発に成功し、核兵器が抑止力を持つことも見抜いていました。
作品の終盤、高千穂とその一派は愛新覚羅溥儀の満洲帝国皇帝即位式に出席した米英仏独伊日の要人に対し、植民地解放を要求しつつ警告の意味を込めて上海に核兵器を投下すると発表しました。しかし核兵器を我が物としようとした日本軍によって高千穂は射殺されてしまいます。驚異的な先見の明を持つ高千穂の頭脳を利用しようとせず、核兵器を奪うために高千穂を殺害してしまうところに、目先のことしか考えない日本軍の限界が露呈している。結局、核兵器は主人公・三好葵(声・吉野裕行)と伊波葛(声・浪川大輔)の活躍によって歴史の彼方へと葬り去られるのでした。
一方、ヒロインである苑樹雪菜(声・生田善子)と遊佐静音(声・川澄綾子)は、核爆発の幻影を、皇帝即位式に出席した米英仏独伊日の要人に見せつけることで核戦争の恐怖や悲劇を印象付け、巨大な戦争の勃発を回避しようとしました。
結局のところ、本作は1930年代半ばで幕を閉じてしまったため、登場人物の努力によってその後の歴史が変わったのかどうかは定かではありません。最終回のラストは日本軍が行進するシーンであり、「軍靴の足音が聞こえる」様子を直球で表現していることから、暗い未来を暗示しているようにも見えます。
ただ本作の登場人物は、実は1点だけ歴史を動かしていました。史実では愛新覚羅溥儀が満洲帝国の皇帝に即位したのは1934年ですが、第12話~第13話(最終回)の中盤にかけて劇中に登場した皇帝即位式はどうやら1932年の出来事のようです(溥儀が即位式の前に先祖に報告を行ったのは1934年の史実通りですが)。そして最終回のエンディングで、くだんの皇帝即位式が中止され、2年後に再び皇帝即位式が挙行されたと語られていました。ということは、本作の劇中では1932年に皇帝即位式が行われたものの超能力による核爆発の幻影などの影響で式が中止され、1934年に再び皇帝即位式が行われたということです。登場人物の行動の結果、劇中の歴史が、我々が知る現実世界の歴史と符合するに至った訳です。劇中の登場人物が、植民地の解放と巨大な戦争の回避を望んだにも拘わらず、この程度しか歴史の流れを動かせなかったのは、大変残念と言わねばなりますまい。
『迷い猫オーバーラン!』
原作/シリーズ構成・松智洋(集英社『スーパーダッシュ文庫』)、監督・週替わり、原作イラスト・ぺこ、キャラクターデザイン・中本尚子、音楽・高木隆次、アニメーション制作・AIC、製作委員会・明記されず
出演者・岡本信彦/伊藤かな恵/井口裕香/竹達彩奈/佐藤聡美/吉野裕行/間島淳司/堀江由衣/田村ゆかり/能登麻美子/他
<コメント>2010年第2クール最大のネタアニメ。基本的には、天邪鬼な女の子をヒロインに据えた典型的なUHFアニメですが、本作が本気を出したのはそこではなかった。主人公・都築巧(声・岡本信彦)とヒロインのラブコメは第3話「迷い猫、見つけた」で大団円を迎え、その時点で本筋は終わっていたと言ってよいでしょう。そしてこれ以降、カオスアニメぶりを発揮するのです。例えば第7話「迷い猫、乗った」におけるロボットアニメ展開、第8話「迷い猫、抜いた」におけるジェンガ展開のように、前後の脈略を無視したような徹底した一話完結展開は『おそ松くん』や『アベノ橋魔法☆商店街』を彷彿とさせるものです。本作の制作体制は1話ごとに監督が交代するという変則的な体制となっており、この制作体制が本作の快走に拍車をかけたと言えましょう。とは言うものの、本作は原作者・松智洋がシリーズ構成を務めていたことから、原作者の意図通りだったのでしょうか。最終的にはストーリーは心温まる展開となり、紆余曲折を経ながらも、ご町内の人情喜劇として幕を閉じたのでした。
『RAINBOW-二舎六房の七人-』
原作・安部譲二/柿崎正澄(小学館『週刊ヤングサンデー』『ビッグコミックスピリッツ』連載)監督・神志那弘志、シリーズ構成・高屋敷英夫、キャラクターデザイン・菊池愛、総作画監督・菊池愛/高橋美香、音楽・髙見優、アニメーション制作・マッドハウス、製作・バップ
出演者・小栗旬/小山力也/朴?美/黒田崇矢/藤原啓治/羽染達也/脇知弘/貫地谷しほり/石井康嗣/土師孝也/他
<コメント>昭和30年代初頭を舞台に、少年院に入った少年少女の苦難を描いた1本。時代に翻弄されつつも懸命に生き抜いた人々の姿は、平和で豊かな時代に生まれた我々の世代にも多くのものを訴えかけてきます。日本の戦後復興の裏には、艱難辛苦に見舞われた人々がおり、我々の世代が享受している経済成長の恩恵は先人達の苦労の上に成り立っていることを、忘れてはならないと思います。
『けいおん!!』
原作・かきふらい(芳文社『まんがタイムきらら』連載)、監督・山田尚子、シリーズ構成・吉田玲子、キャラクターデザイン/総作画監督・堀口悠紀子、音楽・百石元、アニメーション制作・京都アニメーション、製作委員会・ポニーキャニオン/ムービック/京都アニメーション/TBS
出演者・豊崎愛生/日笠陽子/佐藤聡美/寿美菜子/竹達彩奈/真田アサミ/他
<コメント>高校生のゆるい日常を描いた人気作の続篇。本作の最も優れた点は、高校生活の空気感をリアルに描き出した点です。アニメにありがちな激動の非日常的学園生活を描くのではなく、実際にありそうな学園生活を描くことで、学園生活から遠ざかった疲れた大人達を癒しているのです。但しここで注意すべきは、本作が“楽しい学園生活”だけを描くのではなく、“楽しい学園生活が終わりを迎えてしまう高校3年生の切なさ”、“先輩が卒業してしまう後輩の寂しさ”、“卒業後の進路を決めねばならない不安”といった要素をも容赦なく描いている点です。それ故に本作は、単なる現実逃避アニメに留まらないリアリティーを醸し出しているのです。
『真・恋姫†無双~乙女大乱~』
原作・BaseSon、監督・中西伸彰、シリーズ構成・雑破業、キャラクター原案・片桐雛太/八葉香南/かんたか/日陰影次/さえき北都/しのづかあつと/くわだゆうき、キャラクターデザイン・総作画監督・大島美和/平塚知哉、音楽・多田彰文、アニメーション制作・動画工房、製作委員会・マーベラスエンターテイメント/ポニーキャニオン/AT-X
出演者・後藤麻衣/前田ゆきえ/米島希/檜山修之/折笠愛/矢島晶子/子安武人/麻上洋子/他
<コメント>三国志の武将を女性化したテレビアニメシリーズの3作目。元ネタの『三国志演義』のストーリーから殺伐さを取り除きながらも、前作と比べて或る程度のシリアスさを漂わせ、巧みな『三国志演義』のアナザーストーリーとなりました。本作はシリーズの完結篇だそうですが、本作のクライマックスは完結篇に相応しく、今までの登場人物がほぼ全員結集するという壮観なものになりました。洛陽の都を包囲した連合軍を指揮したのは、今までのシリーズで重要人物として登場しながらも対面することがなかった曹操(声・前田ゆきえ)と孫策(声・米島希)です(史実では袁紹が総大将だが本作では比較的目立っていない)。曹操と孫策の2人が同じ陣営で並び軍勢を指揮するクライマックスは血沸き肉踊るもので、主役である蜀のメンバーが脇役に成り下がってしまったものの、これはこれでシリーズを締め括るに相応しい展開と言えましょう。かくして足かけ3年に亘る本シリーズは大団円を迎えたのでありました。
『四畳半神話大系』
原作・森見登美彦、監督・湯浅政明、シリーズ構成・上田誠、キャラクター原案・中村佑介、キャラクターデザイン/総作画監督・伊東伸高、音楽・大島ミチル、アニメーション制作・マッドハウス、製作委員会・アスミック・エースエンタテインメント/フジテレビジョン/ソニー・ミュージックエンタテインメント/電通/東宝/角川書店
出演者・浅沼晋太郎/吉野裕行/坂本真綾/藤原啓治/諏訪部順一/甲斐田裕子/他
<コメント>人は誰しも「あの時ああしていれば良かったのに」と悔やむことがあるでしょう。かくいう私もいつもいつも後悔の連続です。本作は、そんな後悔をする大学生を描いたものです。本作の主人公(声・浅沼晋太郎)は大学時代をもっと有意義を過ごせなかったのかと悔み、毎回毎回大学時代をやり直します。つまり何度も並行世界をループしているのです。そして主人公は毎回毎回、占い師(声・真山亜子)から「好機はいつもあなたの目の前にぶら下がってございます」と指摘されます。よく考えてみれば、主人公はほぼ毎回、ヒロインの明石さん(声・坂本真綾)と知り合っているし、明石さんと仲良くなるチャンスはあった訳だ。最終回において主人公は「不毛と思われた日常は何と豊穣だったのか」と悟ると共に、占い師から「漫然とせず、好機を思い切って捕まえてごらんなさいまし」と促されます。かくして主人公は、友人・小津(声・吉野裕行)との友情を確固とすると同時に、明石さんと仲良くなる展開に向けて1歩踏み出し、大団円を迎えるのでした。本作は、ろくでもないと思われる日常にも素敵な出会いが潜んでいることを示唆していたのではないでしょうか。
『さらい屋 五葉』
原作・オノ・ナツメ(小学館『月刊IKKI』連載)、監督/シリーズ構成・望月智充、キャラクターデザイン・中澤一登、総作画監督・山下喜光、音楽・小西香葉/近藤由紀夫、アニメーション制作・マングローブ、製作委員会・メディアファクトリー/フジテレビジョン/電通/小学館/ムービック/マングローブ
出演者・浪川大輔/櫻井孝宏/大浦冬華/高塚正也/内田夕夜/宝亀克寿/他
<コメント>うだつの上がらない浪人を主人公に据えた、有る意味では失業率の高い現代にも通じるような時代劇でした。
『B型H系』
原作・さんりようこ(集英社『週刊ヤングジャンプ』連載)、監督・山本裕介、シリーズ構成・西園悟、キャラクターデザイン/総作画監督・八尋裕子、音楽・藤田淳平/藤間仁、アニメーション制作・ハルフィルムメーカー、製作委員会・ハピネット/集英社/電通/AG-ONE/NECビッグローブ/ダックスプロダクション/TYOアニメーションズ/マックレイ/AT-X
出演者・田村ゆかり/阿部敦/堀江由衣/宍戸留美/花澤香菜/小林ゆう/能登麻美子/他
<コメント>4コマ漫画を原作としながらも、それを感じさせないような連続ものとしてのストーリーを展開させた本作。西園の手腕の勝利と言えましょう。性的な描写と台詞が異常に多いもののストーリーは古典的なラブコメであり、台詞回しなどは完全にコントか漫才でした。
『おおきく振りかぶって~夏の大会編~』
原作・ひぐちアサ(講談社『月刊アフタヌーン』連載)、監督・水島努、シリーズ構成・黒田洋介、キャラクターデザイン・吉田隆彦、総作画監督・髙田晃/谷口淳一郎、音楽・浜口史郎、アニメーション制作・A-1 Pictures、製作委員会・アニプレックス/A-1 Pictures/TBS/講談社/ムービック/MBS
出演者・代永翼/中村悠一/谷山紀章/下野紘/佐藤雄大/鈴木千尋/保村真/角研一郎/福山潤/木村良平/早水リサ/他
<コメント>高校野球部を描いたテレビアニメの続篇。本作で印象深いのは、野球部の百枝まりあ監督(声・早水リサ)の教育方針です。百枝監督は常に生徒を君付けすると共に「~だよ」という具合に生徒を激励するような口調で喋っているので、体育会系のノリを感じさせません。私の個人的印象では、百枝監督の指導方針は、上から何でもかんでも指示するのではなく、情報を指摘することで生徒本人が何をすべきか考えるように促し、行動と奮起を呼び込んでいるように感じます。こうした百枝監督の指導方針などと相俟って、本作は典型的なスポ根とは作風が異なった、少年達の成長を爽やかに描いた物語となっていたように思います。番組の終盤、主役の高校が敗れるという大団円とは言い難い結末を持ってきましたが、寧ろ敗北を結末に持ってきたが故に、部員1人1人が挫折を糧にして今後の目標となすべき努力を定め、それに向かって飛躍していくという成長物語の要素が際立っていました。
『会長はメイド様!』
原作・藤原ヒロ(白泉社『月刊LaLa』連載)、監督・桜井弘明、シリーズ構成・池田眞美子、キャラクターデザイン・井本由紀、音楽・前口渉、アニメーション制作・J.C.STAFF、製作委員会・ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント/白泉社/ムービック/J.C.STAFF/TBS
出演者・藤村歩/岡本信彦/椎橋和義/市来光弘/寺島拓篤/細谷佳正/花澤香菜/小林ゆう/他
<コメント>男子ばかりの高校で、肩身の狭い女子生徒を守るべく生徒会長となった主人公・鮎沢美咲(声・藤村歩)の活躍を描いた学園もの。本作の優れた点は、決して男女間の対立を煽る訳ではなく、会長を慕う男子生徒と、男子生徒を守ろうとする会長の姿を描くことで、責任感溢れる生徒会長像を描き出したことでしょう。
『いちばんうしろの大魔王』
原作・水城正太郎(ホビージャパン『HJ文庫』)、監督・渡部高志、シリーズ構成・吉岡たかを、キャラクター原案・伊藤宗一、キャラクターデザイン/総作画監督・小林利充/小関雅、音楽・加藤達也、アニメーション制作・アートランド、製作委員会・マーベラスエンターテイメント/メディアファクトリー/ホビージャパン/AT-X/グッドスマイルカンパニー/GENCO/ランティス
出演者・近藤隆/豊崎愛生/日笠陽子/悠木碧/伊藤静/広橋涼/代永翼/中田譲治/他
<コメント>将来魔王になると予言された少年・紗伊阿九斗(声・近藤隆)を巡るドタバタ劇。主人公の少年が多くのヒロインに囲まれる、いわゆるハーレムアニメであり、典型的なUHFアニメであります。しかし途中までのストーリーと終盤のストーリーは全く毛色が異なり、途中まではラブコメ風の色彩が強いのに対して終盤はシリアスなバトルアニメとなっています。とは言うものの、一貫して「魔王とは何者か」という点が物語の中心を貫いており、理屈の上では不自然ではない(視聴者の印象としては唐突に思えるが)。人々に不幸をもたらすシステムが神と呼ばれ、そのシステムを打倒しようとする者が魔王であり、魔王というネーミングから邪悪な存在を連想してしまう心理を巧みに突いたストーリー展開であると言ってよいのではないでしょうか。
『デュラララ!!』
原作・成田良悟(アスキー・メディアワークス『電撃文庫』)、監督・大森貴弘、シリーズ構成・高木登、原作イラスト・ヤスダスズヒト、キャラクターデザイン・岸田隆宏、総作画監督・髙田晃、音楽・吉森信、アニメーション制作・ブレインズ・ベース、製作委員会・アニプレックス/アスキー・メディアワークス/博報堂DYメディアパートナーズ/ムービック/毎日放送
出演者・豊永利行/宮野真守/花澤香菜/小野大輔/福山潤/神谷浩史/中村悠一/黒田崇矢/沢城みゆき/他
<コメント>中盤までは池袋にたむろする多くの人々をオムニバス的に描いた群像劇でしたが、後半は竜ヶ峰帝人(声・豊永利行)、紀田正臣(声・宮野真守)、園原杏里(声・花澤香菜)という高校の同級生3人組の物語に集約されます。3人には、表の顔と裏の顔がありました。3人はそれぞれ秘密の勢力の中心人物ですが、3人はお互いに裏の顔を知りません。お互いに知らないままに、3つの勢力は交戦するに至ってしまいます。
この3つの勢力の中で、私が個人的に印象深かったのはインターネット上の掲示板から発生した集団・ダラーズです。ダラーズは、多くの構成員を抱える集団でありながら、メンバー同士、現実世界では誰がダラーズメンバーなのか分からないという状態です。ここに、広大なネット社会が存在する現代社会の一面が描写されていると言えます。即ち、現実世界における人格と、インターネット空間におけるもう1人の別個の人格を持った現代人の姿を抉り出していたと思います。
『Angel Beats!』
原作/脚本・麻枝准、監督・岸誠二、キャラクター原案・Na-Ga、キャラクターデザイン/総作画監督・平田雄三、音楽・ANANT-GARDE EYES/麻枝准、アニメーション制作・ピーエーワークス、
製作委員会・アニプレックス/アスキー・メディアワークス/ビジュアルアーツ/ピーエーワークス/ムービック/電通/毎日放送/中部日本放送
出演者・神谷浩史/花澤香菜/櫻井浩美/木村良平/緒方恵美/他
<コメント>製作委員会にゲーム会社ビジュアルアーツが出資し、同社所属の麻枝准が原作なしのオリジナルで脚本を執筆したことから、2010年第2クール中最大の話題を?っ攫った1本。
番組公式ホームページによれば、作品のテーマは「時に理不尽でも尊いもの、それが人生」だそうで、また、讀賣新聞に掲載された1面広告では「人生を、素晴らしいものだと思い出せる何かが、ここにあります。」と書かれています。このことを踏まえて、本作を振り返ってみましょう。
本作の舞台は死後の世界。主人公・音無結弦(声・神谷浩史)は、そこで繰り広げられる事件に巻き込まれ、段々と真実に辿り着いていきます。そこには学校があり、少年少女達は学校に通って授業やテストを受けたり、学食で食事したり、バンド活動をしたりしています。そして、秩序に従って折り目正しく学園生活を送った者は消えてしまうという。秩序を守って消えることを拒否する者達は死んだ世界戦線という組織を結成し、規則に反抗を企てます。そうした中で、秩序に従った者だけではなく、生前の無念を晴らした者も成仏することが判明します。第9話「In Your Memory」では、天使と通称される重要人物・立華奏(声・花澤香菜)は「ここに来るのはみんな青春時代をまともに過ごせなかった人達だもの」と指摘。秩序に従った者も、学園生活を堪能することで生前に過ごせなかった青春時代を過ごすことができ、満足して成仏することが判明しました。この事実を知った音無は、奏と協力して戦線メンバーの生前の無念を晴らし、満足感を与えようとします。
かくして多くの人物が成仏し、最終回の終盤では劇中世界で音無と奏の2人きりになります。ここで音無は、奏から或る事実を知らされるのでした。
音無は生前、大学医学部を受験して医師になろうと考えていましたが、鉄道事故によって亡くなってしまいました。しかし死の直前、ドナーカードに臓器提供の意思を記入していました。そして、音無の心臓を移植されたのが生前の奏でした。奏は臓器提供者にお礼を言いたかったという。死後の世界において、音無に心臓がなかったので、奏は音無が臓器提供者だと分かったそうです。
ここで、本作の核心部分が明らかにされたと言ってよいでしょう。即ち主人公の苗字・音無は「心臓の音が無い」ことを表しており、主人公の名前「結弦(ゆずる)」は「心臓を譲る」ことを示唆していたんですね。オープニングでタイトルクレジットを表示する時の線はやはり心電図であったし、題名は天使(=奏)の心臓の鼓動を表していたことが分かります。オープニング主題歌「My Soul,Your Beats!」もこのことを表していたのでしょう。
臓器提供者にお礼を言った奏は満足して成仏し、劇中世界には音無1人だけが残されて最終回のエンディングに突入するのでありました・・・。
最終回のCパートでは渋谷109で音無のような人物と奏のような人物が出会うという、まるで2人が生まれ変わって再会したかのような場面を描き、全13話に亘る物語は完結を迎えたのでした。
『Angel Beats!』の物語を最初から最後まで振り返ったところで再び、番組公式ホームページに掲載された作品のテーマと、讀賣新聞に掲載された1面広告を思い出したいと思います。これら2つのキャッチフレーズを念頭に入れて主人公・音無の軌跡を見ると、音無は、生前においては医者となって人命を救うことはできず、その点は無念であったけれども、自分の心臓を提供することで奏を(一定期間)救うことができ、音無は奏から感謝されています。かくして音無は、自身の人生にも意義があったことを確信し、満足感を得るに足ります。音無のエピソードだけ見れば、本作のテーマは充分に描かれていると言えます。
ただ問題は、他の登場人物についてです。第3話「My Song」で音無は、生前の無念を語った仲村ゆり(声・櫻井浩美)や岩沢(声・沢城みゆき)について「理不尽な人生を受け入れることに抗おうとしているんだ」という感想を漏らしています。その後も、音無以外の登場人物が、生前の人生が尊かったとか素晴らしかったとか言っている気配はなかったと思います。
即ち人生の尊さ、素晴らしさを訴えるという本作のテーマは、主人公のエピソードにおいては首尾一貫して描かれたけれども、主人公以外の登場人物のエピソードにおいては一貫性を欠いていたように思います。
『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』
原作・荒川弘(スクウェア・エニックス『月刊少年ガンガン』連載)、監督・入江泰浩、シリーズ構成・大野木寛、キャラクターデザイン・菅野宏紀、音楽・千住明、アニメーション制作・ボンズ、製作委員会・アニプレックス/スクウェア・エニックス/ボンズ/毎日放送
出演者・朴?美/釘宮理恵/石塚運昇/柴田秀勝/家弓家正/納谷六朗/他
<コメント>人工生命体・ホムンクルスとの戦いを中心に、マキャベリズム的な政治闘争や、血で血を洗う民族紛争などを描いた重厚な大河アニメ。主人公兄弟が個人的な理由で始めた冒険が、国家的な規模の壮大なストーリーへと広がっていく構成も見事でした。
■ライター紹介
【コートク】
戦前の映画から現在のアニメまで喰いつく、映像雑食性の一般市民です。本連載の目的は、現在放送中の深夜アニメを中心に、当該番組の優れた点を見つけ出して顕彰しようというものです。読者の皆さんと一緒に、アニメ界を盛り上げる一助となっていきたいと考えています。宜しくお願いします。
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