【新作アニメ捜査網】第15回 薄桜鬼と閃光のナイトレイド
おたくま経済新聞 / 2010年6月17日 18時35分
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「新作アニメ捜査網」
皆さん、こんにちは。2010年第2クールのテレビアニメもいよいよ佳境を迎え、盛り上がっていますね。今回は、歴史を題材にした2本のテレビアニメをご紹介したいと思います。1つは昭和初期の上海や満洲などを舞台にした『閃光のナイトレイド』、もう1つは幕末の新選組を題材にした『薄桜鬼』です。
まずは『閃光のナイトレイド』から見ていきましょう。この番組は昭和初期の上海や満洲などを舞台に、日本陸軍の櫻井機関という組織に所属する、超能力を持った諜報部員の活躍を描くものです。同作は『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』に続く「アニメノチカラ」枠の第2弾。『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』でも架空の国家間の戦争を描いていましたが、『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』はファンタジーに徹していて、あまり国際関係を冷徹に描くことはしませんでした。これに対して『閃光のナイトレイド』は正面から国際関係を冷徹に描こうと試みています。
当時の中華民国は、全土を統一して支配する勢力が存在せず、政治情勢が混沌としていました。そんな中、劇中の登場人物達は、或る時は蔣介石率いる国民党と地方軍閥の抗争に巻き込まれ、また或る時は国民党と地方軍閥の抗争を巧みに利用しようとするのでした。
一方、櫻井機関の活動と並行して、劇中ではストーリーの流れが2つ起こっています。
1つは、関東軍による満洲国の建国。日本は明治38年のポーツマス条約によって関東洲(遼東半島)と南満洲鉄道付属地の租借権を獲得しましたが、日本の権益が脅かされることを危惧した現地の関東軍は実力行使に出ます。但し関東軍がそこに至る背景や、関東軍の実力行使そのものを描いた第7話「事変」はテレビ放送されず、ネット配信となりました。その理由については、番組の公式ホームページでも公式ブログでも公式メールマガジンでも明らかにされていません。さて、第7話において南満洲鉄道の線路を爆破した関東軍は満洲全土を占領。これが世に言う満洲事変です。第8話「凍土の国で」では満洲国が建国され、清朝最後の皇帝・愛新覚羅溥儀が執政に即位します。
もう1つ、櫻井機関の動きと並行して描かれているのが、行方をくらましつつ暗躍する元日本陸軍軍人・高千穂勲(声・平田広明)とその仲間です。高千穂の目的は、欧米の帝国主義列強によって植民地支配を受けるアジアを独立に導くことでした。第6話「乱階の夜」で高千穂は大アジア主義を唱える日本人と共に、英領インド、同ビルマ、同マレー、仏領インドシナ等の独立運動家を集め、会議を開きます。そして、白人による植民地支配を打破するための話し合いをするのでした。続いて第8話で高千穂は、国際聯盟が満洲に派遣したリットン調査団の団員を誘拐。高千穂は団長リットンに猛烈な爆発を見せ、「自国のトップだけには(引用者註・爆発のことを)是非お伝えして戴きたい。あなたのお国が所有している植民地の解放を望んでいるとのお言葉を添えて」と半ば脅迫するかのように促します。そして第10話「東は東」では高千穂と櫻井機関のメンバーの1人・伊波葛(声・浪川大輔)がじっくり話し合う機会を得ます。高千穂は、大正8年に催されたパリ講和会議の欺瞞や矛盾を以下のように指摘します。
「そこで締結されたベルサイユ条約で、欧米は民族自決の原則を謳いながら結局それまで手に入れていた植民地を手放そうとしなかった。第一次欧州大戦(引用者註・高千穂は第二次の発生を予想している)で多くの犠牲を出した反省の上で彼等が求めたのは結局白人社会の秩序でしかなかったのだ」
パリ講和会議でウィルソン米大統領が標榜した民族自決の原則は欧州のみに適用され、植民地には適用されなかったし、またパリ講和会議において日本からの出席者である牧野伸顯が国際聯盟規約に人種差別撤廃条項を加えるよう提案するも、議長ウィルソンらによって葬られるという出来事もありました。高千穂は、これらの出来事によって欧米列強への不信感を強めていたと考えられます。と同時に高千穂は、満洲を武力で制圧した関東軍のやり口も苦々しく思っていたのでした。
筆者が本稿を執筆している時点で第10話まで放送されていますが、クライマックスにおいて、果たして史実通りの展開となるのか、それとも史実を改編した結末を迎えるのか、目が離せません。
今回ご紹介するもう1本のテレビアニメ『薄桜鬼』は、幕末の新選組を描いた番組です。題名は、赤穂浪士の1人・堀部安兵衛(中山安兵衛)を主人公した小説及び映画『薄桜記』のパロディだと思われます。新選組を描いたテレビアニメといえば、既に2003年に『PEACE MAKER 鐵』が制作されていますが、『PEACE MAKER 鐵』は金曜深夜12時半にBS11で再放送されており、しかも同じ時間帯にテレビ神奈川は『薄桜鬼』を放送していることから、夢の新選組対決が実現しております。因みに『薄桜鬼』を制作したディーンは2年前にも幕末を舞台にしたテレビアニメ『あまつき』を制作しており、『あまつき』『薄桜鬼』ともに妖怪が登場する点が共通しています。
新選組といえば現在放送中の大河ドラマ『龍馬伝』に登場している他、6年前には『新選組!』という大河ドラマで主役の座にも収まっています(余談ですが、大河ドラマ『新選組!』で芹沢鴨を演じた佐藤浩市の父・三國連太郎は昭和44年の映画『新撰組』で芹沢の役を演じており、親子2代に亘って芹沢役を演じたことになります)。新選組は多くの映画やテレビドラマでヒーローとして描かれた人々ですが、歴史というものは立場が異なればその評価も全く異なるものでして、例えば、何度も映像化された時代劇『鞍馬天狗』では新選組が敵として登場しています。
新選組の特徴の1つに、その出自ゆえの反骨精神が挙げられるのではないでしょうか。『薄桜鬼』第4話「闇より来る者」で新選組は禁門の変(長州藩が京都に出兵した事件)に応じて出動するものの、他藩の武士から軽くあしらわれてしまいます。そんな中、待機命令を受けているという理由で長州藩士と戦おうとしない会津藩士に対し、新選組副長・土方歳三(声・三木眞一郎)は「自分の仕事にひとかけらでも誇りがあるなら、てめえらも待機だ云々言わずに動きやがれ」と一喝。一方の長州藩についても「死ぬ覚悟もなしに戦を始めたんならそれこそ武士の風上にも置けねえ」と吐き捨てます。土方のこのような考えはどこから来るのでしょうか。それは、土方らが元々武士ではなかったが故に、「武士とはこうあらねばならない」という理想像に自分自身を追い込んだからではないでしょうか。新選組局長・近藤勇(声・大川透)にしても土方歳三にしても元々は農民であったことから、自分が正真正銘の武士であると確信するために、「武士とはこうあらねばならない」という規範を厳しく自分達に当てはめたのでしょう。星新一のショートショート『服を着たゾウ』で象が、自身が人間ではないが故に、人間ならどう振る舞うべきかを常に自問自答していたのと同じ現象であると言えます。根っからの武士よりも、元々は武士ではなかった者の方が、武士としての振る舞いを強く意識したというのは、一種の逆説であると言えます。
最後にもう1つ本作の特徴を指摘しておくと、戦後に制作された映画やテレビドラマでは新選組を美化した作品が散見されますし、現代の戦国武将ファンにしても新選組ファンにしても、歴史上の人物を美化する傾向が無きにしも非ず、といったところでしょう。例えば昭和35年の映画『壮烈新選組 幕末の動乱』はまるで勧善懲悪のような話になっています。それに対し『薄桜鬼』は、新選組を人斬り集団として冷徹に描写しようという意図が見られるように思います。この点については、『薄桜鬼』を評価してよいでしょう。
以上、歴史を題材にした2本のテレビアニメをご紹介してみました。この手のアニメは、歴史に関する知識を頭に入れるとより一層楽しめると思いますので、高校時代の日本史の教科書を引っ張り出しながら番組を視聴するのも一興でしょう。
※番組のデータについては、「2010年第2クールアニメを先取りまとめ編(https://www.otakuma.net/archives/3060560.html)をご覧ください。
■ライター紹介
【コートク】
戦前の映画から現在のアニメまで喰いつく映像雑食性の一般市民です。本連載の目的は、現在放送中の深夜アニメを中心に、当該番組の優れた点を見つけ出して顕彰しようというものです。読者の皆さんと一緒に、アニメ界を盛り上げる一助となっていきたいと考えています。宜しくお願いします。
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