サボらないと死んでしまう!? A-1 Picturesの労災認定に見る、アニメ業界全体の労働環境改善の可能性

おたぽる / 2014年4月30日 13時0分

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 4月11日、新宿労働基準監督署がアニメ制作会社・A-1 Picturesの制作進行だった男性(当時28歳)が2010年に自殺した事件を、過労によるうつ病が原因だとして労災認定したことが、アニメファンの間で波紋を呼んでいる。

 新聞などの報道によれば、男性は06年に正社員として同社に入社。『おおきく振りかぶって』『かんなぎ』などの制作進行を担当していたが、月労働時間は600時間に上り、残業代は一切支払われていなかったことが明らかになっている。休みなしで働いても月に一日20時間を超える異常な労働時間だ。

 A-1 Picturesは、アニメ製作会社・アニプレックスの100%子会社で、日本動画協会にも正会員として加盟する企業だ。そのような企業でも、異常な労働環境が常態化していたわけだ。

 ほかのアニメ制作会社で制作進行を務める人物に聞いても、他人事ではないという声が多い。

「制作進行の仕事内容は、最も休息が取りづらい過酷なものです。みんな、なるべく自分の限界を見極めて休息を取るようには心がけていると思います。意図的にサボらないと、本当に死んでしまいますよ」(ある関係者)

 アニメ制作の労働環境の過酷さや、賃金の安さは、これまで何度も指摘されてきた。けれども、それを改善しようという意識を持つ者は少ない。

 日本アニメーター・演出協会(JAniCA)では、2009年に700人を超えるアニメーターの協力を得て労働・生活実態の調査が行われた。

 その報告書の刊行に際し、東京大学で「JAniCAシンポジウム2009」が開催されたが、ここでは驚くべき発言が飛び出した。それは東京大学教授の故・浜野保樹氏の次のような発言だ。

「こういうことを言うと怒られるかもしれませんが、フリーランスの中でもアニメーターは結構収入が多い方ではないかと思います。旧自治省が小説家の年収を調べたことがあって、平均年収は1万円でした。また、1970年くらいから調べているのですが、日本映画監督協会に所属している自称監督の方々の平均年収は100万円くらいです。フリーランスというのはそういう状況です」

 この発言は、いくつものメディアを通じて報じられており、現在も見ることができるが、当時もまったく問題にはされなかった。浜野氏の発言はフリーランスのアニメーターについて言及したものだが、巷間問題視されているアニメ業界の過酷な労働環境を、なかば当然のものとして受容している空気が存在していることが伺える。

 クールジャパンの旗を立てて、アニメ産業振興に尽力しているフリをしている経済産業省も、従来から「労働環境は管轄違い」との態度を改めることはない。

 昨年、編集者の樹林伸氏は政府のクールジャパン戦略会議で行われた「ポップカルチャーに関する分科会」でアニメ業界の労働問題について発言。しかし、ほかの委員の反応は極めて鈍かったことが議事録からも明らかになっている。

 今回の件は、決してA-1 Picturesだけの問題ではない。一つの事件が騒がれながらも、アニメ業界全体が労働環境を改善させる契機となるかは、大いに疑問の残るところだ。
(取材・文/編集子)

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