“原発問題と食の安全性“をリアルタイムで描いたもう一つの小学館マンガ『そばもん』のアプローチとは?

おたぽる / 2014年5月25日 12時0分

 これらの主張が理路整然と語られ、キャラクターが唐突に鼻血を出したりといったショッキングな場面もない。上記の意見も主人公の思いとして描かれるだけで、それを他人に押し付けるつもりではないとも発言させている。同行する若いライターが率直に福島産食品への恐怖を漏らしても、とがめたり否定したりはない。放射能への恐怖は人それぞれという前提に立ち、食品の安全性が心配な人は「例えば検出限界値を1ベクレル/kgに設定して、『検出せず』の食品を選べばいい」と話すなど、アドバイスは極めて具体的で実用性に富む。その気になれば今日からだって個人レベルで実行可能だろう。騒動となった"福島の真実"編に限らず、マクロな観点(この問題は我々日本人すべてが未来のために取り組まなければならない...など)で話を締めくくることが多い近年の『美味しんぼ』とは好対照だ。

 また、鼻血描写があった前後の『美味しんぼ』と決定的に違うのは、語られている言葉の裏には客観的なデータが示され、もし『そばもん』の内容に異論をもつ読者がいれば"事実の検証"が可能な点だ。それほどまで綿密に資料を収集し、主張が偏らないような描写に配慮した上で、なお欄外に「■この作品は取材を元にしたフィクションです」と現実との境界線をはっきり明示している。語るべきことを語りながら、被災地への風評被害が発生する要素を丁寧に取り除いている印象を受ける。

 センセーショナルな描写で(炎上という形であっても)原発問題に対する世間の関心を急速に高めた『美味しんぼ』。客観性とバランスに配慮した描写により"自分なりに安全な食品を選ぶ方法"の道すじを示した『そばもん』。ネット上の批評・マスコミ報道・研究者からのコメントといった反応を見るかぎり、両者のうち片方だけが優れているというわけではなく、『美味しんぼ』の鼻血描写ひとつを取っても賛否はバラバラだ。ただ、同じビッグコミック系列誌でまったく同時期に、同じテーマを別のクリエイターが異なった角度から描いたことは重要だろう。両方を読み比べることによって、読者が原発・放射能問題と食の安全性に対する"自分なりのスタンス"を確立する手助けになるかもしれない。

 なお、今回はたまたまデリケートな話題の時に取り上げたが『そばもん』はマンガ単体としても非常に楽しめる良作だ。単行本は14巻まで発売されているが、すべて読んでいる時間(お金)がないという人は、まず小学館公式サイトで第1話の試し読み(http://big-3.jp/bigcomic/rensai/sobamon/)をしてほしい。そして、あえて1冊だけ購入するのなら第8巻がオススメ。老いた棋士と老いたそば職人――30年間一度も顔を合わせることなく"そばの出前"だけで繋がった2人のプロフェッショナル――それぞれの「いちばん長い日」を描いた屈指の名エピソードが収録されている。そばというシンプルな題材を扱いながら、『そばもん』は全盛期の『美味しんぼ』にも負けない人間ドラマを通じて"グルメマンガの真骨頂"を見せてくれる。
(文/浜田六郎)

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