ビール、チューハイ…酒を“ちゃんぽん”するとどうなる? 消化器病専門医が指摘する“恐ろしい事実”
オトナンサー / 2024年5月31日 9時10分
宴会時にビールやチューハイなど、複数の種類の酒を一度に飲む人がいます。こうした行為は「ちゃんぽん」と呼ばれており、酔いが回りやすいといわれています。酒をちゃんぽんすると酔いやすくなるのは、本当なのでしょうか。
複数の種類の酒を一度に飲むリスクについて、「まきこ胃と大腸の消化器・内視鏡クリニック」(京都市伏見区)院長で、消化器病専門医の船越真木子さんに聞きました。
■気付かぬうちにアルコールを摂取しがち
Q.一度に複数の種類の酒を飲むと、酔いが回りやすいといわれていますが、本当なのでしょうか。理由も含めて、教えてください。
船越さん「酔いが回りやすい可能性はあります。なぜなら、同じお酒を飲み続けると次第に飲むペースが落ちますが、途中でお酒の種類を変えると飲むペースが戻る傾向にあり、その結果、早いペースで飲み続けることになるからです。
酒に含まれるアルコールの量を『純アルコール量』と言い、【飲んだ酒の量(ml)×アルコール度数(%)×0.8(アルコールの比重)】で計算します。個人の体質によって異なるため、一概には言えませんが、飲んだ酒の量ではなく、飲酒時に摂取した純アルコール量によって、酔いやすさに違いがあると考えられます」
Q.では、1種類の酒を大量に飲む場合と、複数の種類の酒を少量ずつ飲む場合とでは、どちらの方が酔いやすいのでしょうか。
船越さん「体重50キロの人は、1時間当たり約5グラムのアルコールを分解するといわれており、これはビールだと125ミリリットル程度に相当します。つまり、体重50キロの人が350ミリリットルのビールを飲んだ場合、アルコールを分解するのに約3時間かかることになります。
このようにアルコールの分解スピードは時間単位で決まっており、1時間当たりの純アルコール量の摂取量が多ければ多いほど酔いやすいといえます。
例えば、1時間に350ミリリットルのビール缶(アルコール度数5%)を3本消費した場合、摂取した純アルコール量は計42グラムです。一方、350ミリリットルのビール缶1本、350ミリリットルのハイボール缶(アルコール度数8%)1本、ワイン120ミリリットル(アルコール度数13%)を1時間で飲んだ場合、摂取した純アルコール量は計48.88グラムで、ビール3缶を消費した場合よりも多くなります。
つまり、複数のお酒を一度に飲むと、たとえ少量ずつであっても、気付かぬうちに純アルコール量を多く摂取してしまっているため、いつの間にか酔っていることもあります。これは『そんなに多く飲んだつもりはない』と主張する人に多いパターンです。飲酒時はくれぐれも注意してください」
Q.純アルコール量の摂取量が多いと、どのような健康リスクが想定されるのでしょうか。
船越さん「厚生労働省が推進する国民健康づくり運動『健康日本21』によると、『節度ある適度な飲酒』は、1日平均純アルコール量で男性は約20グラム程度、女性は約10グラム程度が目安となります。
先述のケースのように、1時間に350ミリリットルのビール缶(アルコール度数5%)を3本消費した場合、摂取した純アルコール量は計42グラムとなり、目安量の2倍以上になってしまいます。この量になると、高血圧症や胃がん、食道がん、大腸がん、脳出血、前立腺がん、肝臓がん、脳梗塞など、あらゆる病気の発症リスクが上がることが分かっています」
Q.飲酒時の注意点のほか、酒の1日の適切な摂取量の目安について、教えてください。
船越さん「最近は、お酒を好む人にとって、厳しいデータが次々に出てきています。がんや高血圧症、脳出血などについては、ごく少量の飲酒でも発症リスクを上げることが分かっており、『お酒は○○ミリリットルだけなら大丈夫』とは言えない時代になっています。
厚労省が2024年2月、『健康に配慮した飲酒に関するガイドライン』を公表しました。このガイドラインでは、『飲酒による影響には個人差があり、例えば年齢、性別、体質などの違いによって、それぞれ受ける影響が異なる』『その時の体調などによっても影響が変わり得る』などと書かれています。
特に遺伝的にアルコール分解能力が低い人は、飲酒量に応じて指数関数的に疾患リスクが上がることが知られています。例えば、医師などがアルコールに対する耐性を調べる際に『20歳の頃にコップ1杯のビールで顔が赤くなることがありましたか?』などと質問することがありますが、このケースに該当する場合は、残念ながら常習飲酒しないことをお勧めします。
また、まったく飲酒をしない人よりも少量飲酒している人の方が血管障害による死亡リスクが低いという、いわゆる『Jカーブ』と呼ばれる研究結果が、宴会時によく話題になります。
ところが、Jカーブの場合、『飲酒可能な所得水準の人の方が健康的な生活を送りやすい』『健康上の理由で飲酒を制限されている人も、まったく飲酒しない人に含まれている』というバイアスを完全に取り除くことはできず、Jカーブの存在は世界的に否定されつつあります。
2024年から実施されている健康日本21(第三次)は、『生活習慣病のリスクを高める量(1日当たりの純アルコール摂取量が男性40グラム以上、女性20グラム以上)を飲酒している者の減少』を目標としています。
また、『節度ある適度な飲酒』は、先述のように、1日平均純アルコール量で男性は約20グラム程度、女性は約10グラム程度とされています。
純アルコール量で20グラム程度に相当する目安量としては、アルコール度数が5%のビールの場合は500ミリリットル、日本酒の場合は180ミリリットル(1合)、ワインの場合は200ミリリットル(グラス1杯半程度)、アルコール度数が7%のチューハイの場合は350ミリリットルです。これは平均のアルコール量なので、飲み過ぎたら次の日は休肝日にしてくださいね」
■酒を飲みすぎないための対策は?
Q.酒を飲み過ぎないためには、どうすればよいのでしょうか。対策について、教えてください。
船越さん「厚労省の『健康に配慮した飲酒に関するガイドライン』には、飲酒時のポイントとして、次のような内容が記載されています」
(1)自らの飲酒状況などを把握する
(2)あらかじめ量を決めて飲酒をする
(3)飲酒前または飲酒中に食事を取る
(4)飲酒の合間に水(または炭酸水)を飲むなど、アルコールをゆっくり分解・吸収できるようにする
(5)1週間のうち、飲酒をしない日を設ける
(1)や(2)は、一緒に酒を飲む人とあらかじめ相談できるとベストですね。お酒を飲む際は、タンパク質を多く含む食品を一緒に食べるのが望ましいといわれています。例えば、肉や魚介類、豆腐などの高タンパクな食べ物は、胃の中でアルコールの吸収を遅らせ、血中アルコール濃度の急上昇を防ぐことができます。
飲む前の水分補給も忘れずに行い、お酒を飲んでいる間も適宜、水や炭酸水、ジュースなど、アルコールが含まれていない飲み物を摂取してください。
くれぐれもお酒を飲む際は、飲み過ぎには注意しましょう。
オトナンサー編集部
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