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「朝起きられない」は「睡眠不足」とは限らない 精神科医が指摘する“病気”の可能性

オトナンサー / 2024年6月3日 7時10分

朝、なかなか起きられない要因は?

 起床時に布団やベッドからなかなか起き上がれないことはありませんか。一時的なものであれば問題ないかもしれませんが、その状態が何日も続くと病気の可能性を疑いたくなります。朝、起きられない場合、どのような要因が考えられるのでしょうか。「出雲いいじまクリニック」(島根県出雲市)院長で、精神科医・総合診療医の飯島慶郎さんに聞きました。

■「うつ」「熟眠障害」の可能性

Q.起床時に布団やベッドからなかなか起き上がれないことがあります。この場合、どのような要因が考えられるのでしょうか。

飯島さん「朝、なかなか起きられないことを『起床困難』といいます。起床困難の要因は多岐にわたるため、『生活習慣による起床困難』と『精神疾患による起床困難』とを分けて考えるのが良いでしょう。

まずは生活習慣の側面から考えてみます。OECD(経済協力開発機構)の2021年の調査によると、『日本人の平均睡眠時間は7時間22分で、各国平均の8時間28分よりも1時間以上短く、33カ国の中で最も短い』という結果が出ています。

この睡眠時間は、日本人の睡眠に関する疫学研究から示されている推奨睡眠時間(成人で7~9時間)の下限に近い値であり、依然として多くの日本人が十分な睡眠時間を確保できていない可能性があるのがよく分かります。

慢性的な睡眠不足が続くと、必要とされる最適な睡眠時間と実際の睡眠時間の差分が積み重なり、睡眠負債(sleep debt)となっていきます。睡眠負債が解消されないまま日常生活を送ると、起床時の強い眠気に悩まされることになるでしょう。

睡眠負債がある場合、ある日にたまたま8時間の睡眠を取れたからといって、眠気がすぐには解消されるものではありません。睡眠負債は、比較的長期間かけて返済していく性質のものです。

また、夜間にブルーライトなどの光を浴びると、体内時計の乱れを引き起こし、起床時の目覚めが悪くなります。『メラトニン』という自然な眠りを促すホルモンがありますが、就寝前にスマホやパソコン、テレビを使用した場合、本来、夜間に分泌されるはずのメラトニンが分泌されにくくなり、睡眠の質を低下させます。その結果、朝の目覚めが悪く、なかなか布団から起き上がれないという事態を招くことになります」

Q.起床困難の状態が何日も続く場合、病気の可能性はあるのでしょうか。こうした状態を放置すると、どのようなリスクがあるのでしょうか。

飯島さん「ここからは、疾患による起床困難について解説します。まず、精神科医や心療内科医が、『きちんと睡眠時間を取っているのにもかかわらず、朝起きにくい』という患者からの訴えを聞いて疾患として思い浮かべるのは、うつ病を含むうつ状態、熟眠障害、概日リズム睡眠・覚醒障害、起立性調節障害、発達障害を基盤とした覚醒困難といったところでしょう。順番に説明します」

(1)うつ病を含むうつ状態
うつ病を含むうつ状態では、睡眠の質の低下や早朝覚醒の傾向、もしくは過眠の傾向が現れることがあります。過眠傾向を伴ったうつ病の場合、「朝起きられない」という症状に陥ることは十分に考えられます。

(2)熟眠障害
日中の眠気や倦怠(けんたい)感が強く、起床困難となる場合は、睡眠の質の問題を疑う必要があります。睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群などによるものが代表的です。また、慢性的な心身のストレスの存在、睡眠環境によるもの(寝室が明るい、騒音がある、湿度や温度が不快、寝具が合わないなど)が熟眠障害の原因になり得ます。

(3)概日リズム睡眠・覚醒障害
概日リズム睡眠・覚醒障害は、体内時計の異常により、入眠・覚醒のタイミングが大幅にずれてしまう病態です。特に睡眠相後退型では、入眠時刻が後ろにずれ込み、その結果、起床時刻も大幅に遅れてしまいます。また、特発性過眠症という病気もあり、いくら眠っても眠り足りないのが特徴です。これらの病気では早朝の覚醒が著しく困難となり、昼夜逆転型の生活となることもあります。

(4)起立性調節障害
起立性調節障害は、いわゆる「低血圧の人は朝弱い」と一般的にいわれているものに相当します。自律神経系の異常により、起立時に目まいや動悸(どうき)、ふらつきなどの症状が現れる病態です。朝の起床時にこれらの症状が強く現れるため、なかなか布団から出られなくなることがあります。大人にも現れますが、基本的には小中学生に現れるケースが多いことが知られています。

(5)発達障害を基盤とした覚醒困難
自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などの発達障害では、睡眠リズムの乱れや睡眠の質の低下を伴いやすく、起床困難となることがあります。特に小児期や思春期では、起床困難の背景に発達障害があるケースが少なくありません。

朝の起床困難を放置するリスクについては、原因によって異なりますが、睡眠不足そのものが二次的にうつ病や不安障害のリスクを上げることが知られています。従って、可能な限り解決を試みる方が良いでしょう。

■どのような対策が必要?

Q.では、起床困難を改善するには、どのような取り組みが有効なのでしょうか。医療機関を受診する目安も含めて、教えてください。

飯島さん「起床困難の状態を改善するためには、基本的にまず睡眠衛生を改善する必要があります。毎日決まった時間に就寝・起床し、規則正しい睡眠・覚醒のリズムを作ることが大切です。

就寝前にスマホやパソコン、テレビの過度な使用を控えるとともに、『カーテンなどで屋外から入る光を抑える』『室温を適度に保つ』『静音』などで寝室の環境を整えることも重要でしょう。ベッドは睡眠以外の目的で使用せず、日中は適度な運動を心掛けるのも良い習慣です。

また、朝の太陽光を浴びることで体内時計のリセットを図ったり、人工照明を用いた光療法器具を使用したりするのも選択肢の一つとなります。起床時に爽快な音楽を聴いたり、朝食後に軽い運動を習慣化したり、コーヒーなどのカフェイン飲料を上手に活用したりなど、覚醒を促すさまざまな工夫も効果的でしょう。ただし、睡眠の質に影響を与えるため、午後以降のカフェインの摂取を控える必要があります。

これらの工夫を試みても、起床困難の状態が改善されない場合は、医療機関の受診を検討する必要があります。具体的には、2週間以上症状が持続する場合や日中の眠気が強く、日常生活に支障をきたす場合のほか、気分の落ち込みや意欲の低下が生じる場合、不安感が強い場合、いびきや呼吸停止、むずむず脚の症状を伴う場合などが、医療機関を受診するタイミングと言えるでしょう」

Q.起床困難は、どのような人に生じやすいのでしょうか。

飯島さん「先ほども少し説明しましたが、成人と比べて子ども、特に思春期の子どもたちに起床困難のケースが多く見られる印象があります。その背景には、いくつかの特徴的な要因が考えられます。先述の話と重なりますが、もう一度おさらいします。

思春期には生物学的に睡眠・覚醒リズムが後退する傾向にあり、生活が夜型化しやすく、朝の覚醒が難しくなりがちです。加えて、学業や受験、友人関係、家族関係など、思春期特有の発達課題によるストレスも睡眠衛生を乱す大きな要因となります。

また、現代の子どもたちはスマホやゲーム機器の使用に熱中しがちで、夜間の使用が睡眠の質の低下と睡眠リズムの乱れを招いています。こうした人工光が睡眠を阻害する傾向は、特に子どもに顕著です。夜間、たとえ短時間でもこれらの人工光にさらされれば、普通に起床できる子どもの方が逆に珍しいでしょう。

疾患という観点からも、先述の起立性調節障害は、多くの場合、成人前の子どもに起きる病気ですし、思春期はうつ病や不安障害、統合失調症などの精神疾患が好発する時期でもあります。加えて、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などの発達障害も、小児期から思春期にかけて顕在化してきます。これらの疾患では起床困難が主要な症状の一つとなり得ます。

このように、子どもたちの起床困難は、成人よりもさらに要因が複雑です。だからこそ、子どもの起床の問題は、単に『怠け』や『わがまま』として片付けるのではなく、心身の健康状態を総合的に評価し、適切な支援につなげていく姿勢が求められます。

子どもの起床の問題でお悩みの人は、まずは身近な小児科医に相談してみることをお勧めします。必要に応じて、さらに高い専門性を持った小児神経専門医や児童精神科医を紹介してくれるでしょう。子どもたちの『起きられない』という声に、もっと耳を傾けていく必要があるのかもしれません」

オトナンサー編集部

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