「帰宅拒否」の原因は“妻だけにあらず”? 夫たちの「家に帰りたくない理由」から浮かび上がる、もう一つの視点
オトナンサー / 2024年7月6日 9時10分
近年、増加しているといわれている「帰宅拒否(帰宅恐怖)症」の夫。何らかの理由で「家に帰りたくない」「家に帰るのが怖い」と感じ、仕事が終わってからも真っ直ぐ帰宅せず、街で時間をつぶして過ごす……そんな夫を指す言葉で、「妻に原因がある」とされるケースが少なくないようです。
しかし、「恋人・夫婦仲相談所」所長の三松真由美さんは、「妻が悪い」という視点に偏りがちな“帰宅拒否夫”の問題に対して、「本当に、夫側には何も原因がないのか」と疑問を呈します。数々の夫婦の実情と悩みに向き合ってきた専門家の目線を通して、“帰宅拒否夫”のリアルを見つめます。
■コンビニのイートインでぼーっとしてから帰る夫
「帰宅拒否症」という言葉を聞くと、「仕事の後、家にすぐ帰りたくない症状なんだろうな」と容易に想像できます。職場や学校に行きたくなくなる「五月病」の真逆版です。「帰宅拒否夫」は、“怖い奥さんが家にいるから居心地が悪いのだ”というのが一般的な見解です。
家に帰りたくないから、街で時間をつぶして帰る夫を、私は「おひとリーマン」と名付けました。妻側に「もっと優しくしましょう」と伝えるものの、一方で、夫側の声を聞くにつけ、「子どもっぽくないですか」と突っ込みたくなるケースもあります。そう、夫側の原因も、なきにしもあらずなのです。
「妻が悪い」視点ではなく「お互いにどうよ」の視点で、おひとリーマンの事例を見てみましょう。
【俺は家が嫌だ:事例1】
彬さん(仮名、30代)は、2人の子どものパパ。長女が生まれたときはかわいくて、「早く家に帰って抱っこしたい」と胸を躍らせて家路を急いでいました。しかし、2年前に下の子どもが生まれてから、妻の締め付けが次第に厳しくなります。
妻は「日中、家事も子育てもワンオペなんだから、夜はあなたがやって」と、食器の片付けや風呂掃除、オムツ替え、寝かしつけなどを、彬さんに全部押し付けます。その上、子ども2人で家計が大変だからと、小遣いも3分の2に減額。結婚当初の、妻の優しい笑顔は消えました。顔を合わすたびに「あれやって、これやって」です。
彬さんは仕事の後、わざと1時間、ファストフード店で100円のコーヒーを飲むか、コンビニ併設のイートインでぼーっとしてから帰るようになったといいます。
【俺は家が嫌だ:事例2】
良樹さん(仮名、40代後半)はリストラで一度職を失いました。そのとき、妻に散々嫌みを言われたのが心に残っています。今は再就職しましたが給与は減り、妻はパート先を掛け持ちして働き始めました。
妻のレストラン勤務が夜番のときは、普通に帰宅してのんびりしますが、妻が夕方から家にいる日は、コミックカフェか駅ビルで時間をつぶしてから、深夜に帰宅します。妻の顔を見ると下腹が痛くなるので、トイレにいることも増えました。
妻は暗い顔で、「私がこんなに働かなきゃいけないのは、あなたが前の会社を辞めさせられたせいだ」と毎日愚痴を言い、高校生の長男に「父さんみたいになるな」と告げることもしばしば。良樹さんは、自分に自信がなくなっています。
■逃避を続けた先にあるのは「恐怖の老後」
……いずれも、話を聞くとつらくなる状況です。「妻が怖いから家にいたくない」という短絡的な発想ではありません。「自分でも他にどうしていいか分からない」「出口がない闇のような日々で、気持ちを落ち着けるには1人の時間を過ごすしかない」というジレンマを感じます。
妻の視点で見ると、「気持ちに余裕がないから夫に頼る」「ストレスのはけ口を夫に向ける」ことになります。トゲのある現状に、妻自身はとても悩んでいます。このような状況の妻側に「あなたが我慢して、まずは夫を癒やしてあげようよ」と言うのも酷です。
まずやることは、両者の気持ちをくみ取る余裕がない状況を“自覚”することではないかと思います。
「最近、夫の帰りが遅い」と感じる妻の皆さん。「家事を手伝いたくないから家にいないような男性と、私は結婚してしまったのか?」…そんなはずはない。「夫は、昔から顔を見れば悪態をつきたくなるような人だったか?」…そんなはずはない。「私は、夫が家に帰ってきたら『おかえり!』とうれしそうな顔をしていたか?」…いや、最近していない。
このように一つずつ深掘りすることで、夫への配慮だけでなく、自分の気持ちの整理もできます。
一方、おひとリーマンになりかけている夫側は「妻との会話が面倒くさい」という感情を封印することです。
おひとリーマンは気持ちが優しく、ケンカが苦手で、トラブルを回避する傾向が強いといわれます。しかし、妻(家)からの逃避を続けていては、「人生100年時代」を乗り切ることは難しいではありませんか。
40代までなら、帰宅拒否をしてもまだお互いに耐えられますが、高齢になってからも家から逃げていては、体も精神状態もむしばまれていきます。そして“帰宅拒否時代”のツケが来ます。体調が悪くても妻が優しく看病してくれない、「1人の方が楽」と言われる――恐怖の老後が忍び寄っているのです。
おひとリーマンを自覚し始めたら、まず妻と向き合いましょう。「なぜ、妻は自分を見ると嫌なことを言うのか」「妻から優しさを奪ったのは、もしかして自分ではないか」…ここまで落とし込むと、見えなかった真実が浮かび上がると思います。
夫を帰宅拒否に追い込む妻たちには、悪い点がいくつもあるでしょうが、私は、夫たちにも「面倒くさがらないで妻を見て」と伝えたいのです。
「恋人・夫婦仲相談所」所長 三松真由美
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