【台風】吹き飛んだ「屋根瓦」で近隣住宅が“損傷” 持ち主は弁償しなきゃダメ? 弁護士に聞く
オトナンサー / 2024年11月2日 7時10分
年によっては、11月以降も台風が発生することがあります。台風の接近時や上陸時は強風により、住宅の屋根瓦や植木鉢などが飛ばされることがあるため、注意が必要です。また、台風が温帯低気圧に変わった後も、広い範囲で強風が吹くといわれています。
もしも、台風などによる強風で吹き飛んだ自宅の屋根瓦や植木鉢などが近隣の住宅や車に当たってしまい、損傷させた場合、賠償責任を問われる可能性はあるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。
■対策が不十分だと賠償責任を負う可能性
Q.もしも、台風などによる強風で吹き飛んだ自宅の屋根瓦や植木鉢などが、近隣の住宅や車に当たってしまい、損傷させた場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。事前に屋根を補強したり、物を室内に移動させたりするなどの対策をしていた場合はいかがでしょうか。
牧野さん「台風や大雨など、自然災害(不可抗力)が原因で発生した損害については、故意・過失の責任を負う人がいないため、誰も損害賠償責任を間われません。ただし、工作物の設置の瑕疵(かし)により、他人に損害を与えた場合は別です。瑕疵とは、法律上、何らかの欠点や欠陥があることを指します。
『住宅の屋根瓦や植木鉢などが吹き飛ばされて近隣の住宅や車に当たり、損傷させた』場合、法律的には、屋根瓦などが飛ばされてしまった家の占有者や所有者について、民法717条で定められていますが、土地の工作物の設置者の損害賠償責任が発生するかどうかが問題になります。この場合、家の占有者は『持ち家の持ち主、賃貸住宅の借り主』、家の所有者は『賃貸住宅の持ち主』とそれぞれ解釈できます。民法717条では次のように定められています」
【民法717条】
土地の工作物の設置または保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
通常規模の台風により、住宅の屋根瓦や植木鉢などが強風で飛ばされて近隣の住宅や車に当たり、損害を与える可能性が予見できたにもかかわらず、住宅の占有者が何の対策もしなかったとします。この場合、瑕疵による損害発生の相当因果関係が証明されれば、安全性を欠く瑕疵があったとして、家の占有者は被害者に対して損害賠償責任を負う可能性があります(民法717条)。
一方、通常の台風なら耐えうる程度の屋根の補強対策を行っていたものの、想定外の強さの台風で周囲のほとんどの家が屋根を損傷したような場合は、損害の発生防止に必要な注意をしたとして、安全性を欠く瑕疵がなかったとされ、家の占有者は損害賠償責任を負いません。
ただし、占有者と所有者が異なる賃貸住宅の場合、瑕疵による損害発生の相当因果関係が証明されると、最終的に住宅の所有者が損害賠償責任を負う可能性が高いでしょう。民法717条ただし書きでは、『必要な注意をした場合』には家の占有者は免責されますが、家の所有者が損害賠償責任を負うと定められているからです。
Q.台風などによる強風で吹き飛んだ自宅の屋根瓦や植木鉢などが他人に当たったとします。その際に、物が当たった人がけがを負ったり、亡くなったりしてしまった場合、持ち主が法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。
牧野さん「家の占有者が十分な安全対策(必要な注意)を講じていなかったことで、台風による強風で吹き飛んだ自宅の屋根瓦や植木鉢などが他人に当たり、死傷者が出た場合、瑕疵による損害発生の相当因果関係が証明されると、家の占有者が原則として民法717条の土地の工作物の設置者責任を問われ、損害賠償責任を負う可能性が出てきます。
家の占有者が十分な安全対策(必要な注意)を講じていた場合には、そもそも安全性を欠く瑕疵がなかったと見なされ、家の占有者は損害賠償責任を負いません。
ただ、賃貸住宅の場合、占有者が十分な安全対策を講じていたとしても、瑕疵による損害発生の相当因果関係が証明された場合、民法717条ただし書きに基づき、所有者が原則として土地の工作物の設置者責任を問われ、損害賠償責任を負う可能性があります」
Q.台風の際に建物の屋根や外壁などが吹き飛び、近隣の住宅や車などに損害を与えた事例について、教えてください。
牧野さん「台風による強風で吹き飛ばされた工場の屋根や外壁が、工場近くに駐車されていた自動車に当たり、損傷した事例があります。裁判所は、工場が老朽化していたにもかかわらず、建物の安全確保の措置が不十分だったとして、工場側に損害賠償責任があると判断しました」
オトナンサー編集部
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