「障害児」に“クビ宣告” 9歳自閉症児の母が直面した厳しい現実 施設が“態度一変”
オトナンサー / 2024年11月9日 7時10分
ライター、イラストレーターとして活動するべっこうあめアマミさんは、知的障害を伴う自閉症がある9歳の息子と、きょうだい児(障害や病気を持つ兄弟姉妹がいる子ども)の6歳の娘を育てながら、発達障害や障害児育児に関する記事を執筆しています。
「放課後等デイサービス」と呼ばれる、障害がある子や発達に課題がある子を対象とした通所型の福祉サービスがあるのをご存じでしょうか。アマミさんによると、このサービスは、放課後や休日に施設で生活能力の向上に必要な訓練などを行うもので、障害児育児にとって重要な役割を担っているということです。
しかし、重度の障害がある子の場合、そんな「障害児の居場所」からさえも、退所を迫られてしまうことがあるといいます。今回はそんなショッキングな出来事について、アマミさんが自身の体験談を踏まえながら紹介します。
■さまざまな状態の子どもが利用
放課後等デイサービスは、小学生から高校生までの子どもが利用できます。「放課後」という名前が付いていますが、実際には放課後だけではなく、長期休暇も使える、学童に似た施設だと考えると、分かりやすいかもしれません。
事業所によって内容は異なりますが、障害を持つ子や発達に課題を抱えている子を支援する「療育」に重点を置く所もあれば、安全な居場所の提供を重視する所もあるなど、その実態はさまざまです。
学童とは違い、療育の役割を持つ放課後等デイサービスの利用には、居住先の自治体から交付される「通所受給者証」が必要です。
しかし、発達に関する診断がなくても受給者証の取得が可能なため、障害の診断がつくか、つかないかぐらいのグレーのお子さんから、重度の障害がある子まで、幅広い状態のお子さんが通っています。
特に、重い障害がある子どもにとっては、放課後の時間を1人で過ごしたり、保護者が同伴しない状態で友達と遊んで過ごしたりすることが難しいため、放課後等デイサービスは貴重な居場所となっているのです。
■「障害児の居場所」から退所を迫られた
あるとき、私は、息子が小学校入学時から3年以上通っていた放課後等デイサービスから、「来年度以降、息子さんを預かるのは難しい」と伝えられました。
かつては「息子さんを末永く見ていきたいと思っています」と言ってくださった事業所からの、突然のクビ宣告のようなものでした。
息子は自傷や他害行為などはなく、私の認識では特に大きな問題を起こしてはいませんでしたが、やはり重度の知的障害児なので、問題行動とされる行為はいろいろあります。
そのため、3年生の後半くらいから、何か調子が良くなかったり、問題行動が激しくなったりしたときに、「このままでは難しいかもしれない」ということは折に触れて言われていたのです。
ただ、息子が比較的調子が良く、落ち着いて毎日を過ごせていたときに伝えられたため、私にとっては青天のへきれきのようなものでした。
息子のほかにも、他のお子さんが小学校高学年くらいになって、長年通っていた放課後等デイサービスから利用を断られたり、退所せざるを得ない状況に追い込まれたりしたというケースはよく聞きます。
子どもによって理由や状況はさまざまですが、本人や周囲にとって危ない状況になってしまったり、そのような事態を防ぐことができない人員不足の状況があったりなど、難しい問題があるようです。
■成長に伴い扱いが難しくなっていく現実
障害がある子どもを持つ親としては、長年通った放課後等デイサービスを突然利用できなくなるというのは、死活問題です。
仕事をしていたらなおのこと、重い障害がある子を一般的な学童に通わせるのは難しいですから、仕事をやめなければならないこともあります。事実、私の周囲でも、放課後等デイサービスを利用することができなくなったため、仕事をやめざるを得なかった人もいました。
しかし、必ずしも放課後等デイサービス側が理不尽に対応を変えているというわけではなく、子どもにも、学齢期特有の難しい問題が生じやすいともいえます。
小学校高学年にさしかかると、障害がある子も他の子と同様に思春期を迎えます。そうすると、どうしても情緒が不安定になりやすく、問題行動が激しくなりやすいのです。
また、一般的に子育ては、子どもが育っていくほど楽になるといわれていますが、障害児育児は違います。成長とともに、いろいろなことの認知が進み、かえって特性が強くなってしまうこともよくあるのです。
さらには、学齢期という体が大きく成長する時期だからこそ、体格が大きくなって制御が難しくなるという問題もあります。
小学1年生のときは、まだ小さくて力も弱く、支援者が簡単に抱きかかえたり制御できたりした子どもも、小学4年生、小学6年生と成長していくのに伴い、大人に近い体格になっていきます。かつては壁をたたいても何ともなかった子が、成長とともに壁に穴を開けるようになってしまうかもしれません。また、物を投げる力が強くなって、周囲に危険を及ぼすかもしれません。
放課後等デイサービスの事業所側としても、「以前は大丈夫だったけど、今は…」ということになってしまうのでしょう。
■時には環境を変えることも必要かも
本来であれば、子どもの情緒の安定のためにも、同じ放課後等デイサービスに長く通うことが、親としても、子どもとしても望ましいことだと思います。しかし、先述のように、子どもの成長に伴って、事業所側が対応に苦慮するようになってしまうこともよくあるようです。
放課後等デイサービスには福祉の専門スタッフがいますし、研修などを行っている事業所も多いとは思いますが、今のご時世、どこも人員不足という状況は否めません。
また、放課後等デイサービスは、どこも均一な体制というわけではなく、少人数制の所もあれば、大人数でわいわい過ごす所もあります。
そして、比較的軽度の障害の子どもたちが集まっている所もあれば、重度の障害を持つ子どもたちが中心の所もあるのです。また、年齢層もさまざまで、小学生中心の所もあれば、中高生が多い所もあります。
このような状況を鑑みて、時には子どもの年齢や状態に応じて、放課後等デイサービスの事業所を変えることを検討するのもよいかもしれません。
事業所側から苦慮している状況を伝えられたり、毎日の生活の中で、「ちょっと最近大変になってきたな」と感じたり、あるいは事業所での子どもの様子を見た際に、ちょっとした違和感を覚えたりすることがあったら、事業所の変更を考えるのに良いタイミングである可能性があります。
軽度のお子さんであれば、そろそろ放課後等デイサービスを卒業して、習い事や塾に移行してもいいかもしれません。
勇気が必要ですが、何かしらそのような兆候を感じたときに別の道を模索してみるのも大事なことなのかなと、最近は思うようになりました。
■次の所属先が見つかってからやめるのが理想
別の道を模索するとはいっても、放課後等デイサービスはどこも激戦。すぐには空きがないことも多いです。
そのため、「次が見つかってから」やめることが理想的です。事業所側が早めに言ってくれる場合もあります。
一般的に放課後等デイサービスは、次年度の新入生の就学先が決まる10月頃から、新年度の募集や人数調整などで本格的に動き始めることが多いです。もちろん、もっと早くから動けるならそれに越したことはないですが、秋ごろに事業所側が新年度の募集や人数調整などで動き出す時期には、探す側も動いていたいところです。
そして、年明けの1月、2月ごろには、恐らく入れるかどうかが確定することが多いのではないかと思います。中には3月のギリギリのタイミングでようやく入れることが確定する場合もあります。新しい居場所が決まったタイミングで退所の申し出をし、新年度から心機一転、新しい事業所に通い出すのが一番理想的な気がします。
健常児が通う所に無理やりお願いして入れてもらっているわけではなく、「障害児の居場所」とされている福祉サービスの施設に通っているのに、障害を理由に通えなくなるのは何とも悲しく、ショックな出来事です。
しかし、嘆いていても仕方ありません。「そういうこともある」と事実を冷静に受け止め、次の一手を模索していきたいものです。
また、願わくは、このように居場所が急になくなってしまう障害がある子どもたちの存在を世間にもっと知ってもらい、どんな子にも適した居場所が提供されるよう、福祉がより充実していったらありがたく思います。
ライター、イラストレーター べっこうあめアマミ
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