熟年離婚は“今そこにある危機”…転勤族の夫を支えるも「能面をかぶった妻」と離婚を突きつけられた57歳女性の顛末
オトナンサー / 2024年11月10日 9時10分
長年連れ添った夫婦が、数十年にわたる結婚生活の末に別れを選ぶ「熟年離婚」。離婚に至る理由は夫婦によってさまざまですが、「ある日突然、離婚を切り出された」というケースは少なくないようです。
実際に、数々の夫婦の悩みと向き合ってきた「恋人・夫婦仲相談所」所長の三松真由美さんは、熟年離婚について「“地震、雷、火事、熟年離婚”といえるほど、突然降ってくる困難な事象」と指摘します。夫に突然別れを突きつけられ、57歳で離婚に至ったある女性の実話から、熟年離婚という“今そこにある危機”について考えます。
■「冷酷な妻のために、給料を運ぶだけの存在になりたくない」
私は「中年」という言葉より、「熟年」という言葉を好んで使います。「成熟した大人」というすてきなイメージがあるからです。50代で離婚したお二人を「中年離婚カップル」とするより「熟年離婚カップル」と示す方が、「よくよく考えてきれいに離婚されたに違いない」と感じるのです。
ちなみに、一般的には、結婚して20年以上たった夫婦が離婚することを「熟年離婚」といいます。
さて、私はポジティブな「熟年再婚」を勧めていますが、再婚は“離婚ありき”です。熟年離婚したことで、結婚しているときより不幸になっては元も子もありません。「経済的に困窮する」「病気になって看病する人が誰もいない」など、ネガティブな話ももちろんあります。
「熟年離婚して、完璧に幸せ」と言い切る女性。「精神的には安定して満足だけど、生活の質が下がった」と嘆く女性。「精神的に幸せだから、節約生活も気にならない」という女性――。熟年離婚後の「気持ち」と「生活状態」が、てんびんにかけられることが多いのですが、捉え方は人それぞれです。財産分与で老後も心配ないほどの資産をもらったものの、子どもと相続でもめ始めた…という人もいます。
実際の「熟年離婚」事例を見てみましょう。
典子さん(仮名、57歳時に離婚)は、転勤族の夫・佳孝さん(仮名)との29年間の結婚生活に見切りをつけました。夫は1歳年上で、電気関係の会社勤務です。2人は20代の頃、東北地方の支社で知り合って職場結婚。子どもができるまでは、夫の転勤地について行っていました。
子どもが生まれてからは、典子さんの実家近くの東京郊外に家を買い、佳孝さんが単身赴任をすることに。子育ては実家の母の応援の下、典子さんが1人で担います。夫は役職が上がったり、海外出張もあったりして生き生きと社会に出ているのに、自分は進歩なく、このまま年を取っていくのかと、漠然と不安を感じるものの夫に言えずに過ごしました。
典子さんは20年間、子どもの教育に注力します。子どもは偏差値が高い高校と有名私大を卒業し、大手代理店に入社。子どもの手が離れてからはパートの仕事を始めたり、陶芸を習ったりと、やっと「自分」を意識した生活を始めましたが、そこで佳孝さんから離婚を突きつけられます。
理由は「たまに家に帰ってもうれしそうな顔もせず、事務的な会話しかない」「子どもに自分の価値観を押し付け、勉強を無理にやらせた。教育に対する考えを言っても聞く耳を持たなかった」。極め付きの言葉は「能面を着けているような冷酷な妻のために、給料を運ぶだけの存在になりたくない」でした。
もちろん、典子さんはすぐには離婚に応じません。探偵をつけて探ると、佳孝さんが、同世代の女性と付き合っていることが分かりました。典子さんは、離婚すると生活に困窮すると思っていたので、責めることなくそのまま約2年放置することに。
夫は週1回帰宅するかしないかの状況で、家にいるときは険悪です。夫に対する愛情はなくなっているのに、1人で大きな家に住むことのむなしさ。実家の母は年老いて兄夫婦と同居しており、今は頼りになりません。
どうすれば、中途半端な状態から抜け出せるか。典子さんは悩み抜きます。本やインターネットで調べ、私のところにも相談に来ました。
そして、家と家具、夫名義の貯金の半分、さらに、夫に近々支給される退職金を3分の2もらうという条件で離婚しようと決意。弁護士経由で佳孝さんに条件をのんでもらいました。その後、パートの仕事を増やし、老後資金をせっせとためています。何かあれば家を売る覚悟もあります。1人暮らしには慣れてきたので、むしろ気持ちはすっきりした…と。
典子さんは、浮気をした夫に腹が立たなかったという時点で、「夫婦としては終わっていた」と気付いたそうです。夫に「能面をかぶった妻」と言われ、確かに、お金のために淡々と暮らしてきたことも自覚できたといいます。幸せな結婚ではなかったので、これから幸せになりたいと前を向いています。
■「ただ一緒にいるだけ」という夫婦に告ぐ
私は、そんな典子さんに、もちろん再婚を勧めています。
夫の気に入らない部分だけに目を向けるのではなく、自分の結婚観に気付くことができた。これは成長です。夫側も仕事優先で家のことを妻任せにし、結果、文句を言うというのも公平ではありません。両者ともに反省点があります。
転勤中でも、せめて一緒にいるときは愛を育む時間を過ごすことで、夫婦愛は冷え込まなかったかもしれません。単身赴任家庭でも仲良し夫婦はたくさんいます。
熟年離婚したいほど相手のことが嫌な人は無数にいますが、離婚に踏み込まない人はどこかで、「結婚なんてこんなもんだ」と諦めていたり、「日々の生活に困らないのであれば仮面夫婦でいい」と妥協していたりする傾向があります。
もちろん、2人がクールな日常に納得していれば問題はありません。ただ、相手から突然「別れたい」と突きつけられたときの動揺は半端なものではありません。経済的弱者の方は途方に暮れます。その上、健康面の問題が現れる年代でもあり、老後を1人で過ごす体力と気力が継続するかという不安も襲います。
相手のことを愛しているわけでもなく、楽しくもなく、ただ一緒にいるだけというお二人に告ぐ。「熟年離婚は今そこにある危機」という危機管理意識を持ってください。
「地震、雷、火事、熟年離婚」。それくらい、突然降ってくる困難な事象という位置付けを自覚すれば、目の前のパートナーに優しい気持ちを持つことができるのではないでしょうか。
「恋人・夫婦仲相談所」所長 三松真由美
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