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“52歳ひきこもり男性”が重度の糖尿病と診断 「人工透析しなければ命に…」 社労士が差し伸べた“救いの手”

オトナンサー / 2024年12月2日 8時10分

ひきこもりの人の中には、健康診断をまったく受けず、不摂生な生活を続けた結果、糖尿病が悪化していた事例も

 筆者のファイナンシャルプランナー・浜田裕也さんは、社会保険労務士の資格を持ち、病気や障害で就労が困難なひきこもりの人などを対象に、障害年金の請求を支援する活動も行っています。

 浜田さんによると、長年ひきこもりを続ける人の中には、人との接触を避けたいために、健康診断をまったく受けていない人がいるということです。体調を崩しても「我慢していれば、いずれ回復するだろう」と考え、検査も治療もせずに放置した結果、医療機関を受診したときには病状がかなり悪化していたケースも珍しくないといいます。浜田さんが、ひきこもりの男性とその母親をモデルに解説します。

■働くことに自信を失いひきこもるように

 52歳の野沢智明さん(仮名)は長年、ひきこもりの状態にあります。彼の障害年金の件で、私は母親(84)から相談を受けることになりました。

 まずは智明さんの状況を伺いました。

 智明さんは大学在学中に就職活動をしていましたが、面接官から厳しい対応をされることも多く、働くことに対して心底嫌気が差してしまったそうです。

 しかし、「さすがに無職のまま大学を卒業するのは望ましくない」と思った智明さんは、あまり気は乗りませんでしたが、とりあえず内定がもらえた会社に就職しました。

 仕事は不動産会社の営業。運動部のような厳しい上下関係で、新人には達成困難と思われるようなノルマが課されたほか、ストレスの多い飛び込み営業、毎日のサービス残業、成績不振による上司からの叱責などで次第に疲弊していきました。

「このままでは壊れてしまう」

 そう感じた智明さんは、就職から1年もたたずに退職。退職後は実家に戻り、再就職先を探そうとしました。しかし、働くことにすっかり自信を失った智明さんは、徐々に仕事を探すことを諦め、ひきこもりのような生活に陥ってしまったそうです。

 仕事をまったくしなくなった智明さんは昼夜逆転の生活をするようになり、深夜におなかがすくため、スナック菓子や菓子パンを毎日のように食べ、清涼飲料水もたくさん飲むようになりました。運動もまったくしなかったため体重はどんどん増えていき、最も重いときは90キロを超えていたそうです。

 智明さんが30代の頃までは、両親も「そろそろ仕事を再開したらどうか」と促すこともありました。しかし、そのたびに智明さんは顔を真っ赤にして怒鳴る、暴れるといったことを繰り返しました。また、智明さんの不摂生についても苦言を呈すると、同じように怒りをあらわにしたため、両親はそれ以上、智明さんに口出しすることはしなくなったそうです。

 長年、不健康な生活を続けていても智明さんは健康診断を受けることもなく、病院を受診することもありませんでした。

 そんな智明さんが52歳になった頃、母親に「体がすごくだるい。動くのもしんどい」と訴えるようになりました。

 心配した母親は、智明さんを近所にある内科に連れて行きました。血液検査の結果、医師から「状態がかなり悪いので、すぐに大きな病院で診てもらった方がよいです」と言われ、紹介状を書いてもらいました。

 その後、紹介された病院で精密検査をしたところ、「長年、糖尿病を放置し続けた結果、腎臓の機能がかなり低下しています。すぐにでも人工透析を開始しなければ命に関わります」と言われてしまいました。

 智明さんはすぐに人工透析を開始するために必要な手術(シャント手術)を行い、人工透析を受けることになりました。

■障害年金の請求時期には特例も

 智明さんの状況を話し終えた母親は心配そうな表情で言いました。

「息子は障害年金を請求できるのでしょうか。もし請求できるとしたら、いつ頃になるのでしょうか」

 この問いに答えるためには、もう少し情報が必要になります。

 そこで私は、智明さんの年金加入状況を確認しました。

 智明さんは20代で退職した後はずっと国民年金に加入しており、国民年金保険料は今まで親が代わりに支払ってきたそうです。

 よって、智明さんは糖尿病で初めて病院を受診した日(近所の内科を受診した日)は国民年金に加入中であり、国民年金保険料の未納もないので、障害基礎年金を請求することができます。

 障害基礎年金は1級と2級があり、より障害状態が重い方が1級で、年金額もその分、多くなります。

 なお、人工透析を受けている人の障害状態は2級に相当するので、金額は次のようになります。

障害基礎年金2級 6万8000円
障害年金生活者支援給付金 5310円
合計 7万3310円
※2024年度の金額でいずれも月額換算

 次に、私は障害基礎年金の請求時期について説明しました。

 障害年金(障害基礎年金および障害厚生年金)は、障害認定日以降に請求をすることができます。障害認定日とは、原則、初診日(その病気で初めて病院を受診した日)から1年6カ月を経過した日のことをいいます。

 ただし、障害認定日には特例があります。人工透析の場合、人工透析を受けた日から3カ月を経過した日が障害認定日となります。

 智明さんの場合、初診日(近所の内科を受診した日)は2024年3月10日。人工透析を開始した日は2024年3月29日、透析開始から3カ月が経過した日は2024年6月29日です。以上のことから、智明さんは初診日から1年6カ月を待つことなく、2024年6月29日以降に障害基礎年金を請求できます。

 説明を聞き終えた母親は言いました。

「息子には何かとお金もかかりますから、早めに障害基礎年金を請求したいと思います。ですが、請求に向けて何から始めればよいのかはまったく分かりません。請求にご協力いただけますでしょうか」

「はい、大丈夫です。まずは息子さんの同意を得るところから始めましょう。同意が得られれば、私が速やかに書類をそろえて請求します」

「分かりました。すぐに息子に確認し、ご報告します」

 面談後、智明さんから同意を得た私は、障害基礎年金の請求に必要な書類をそろえ、請求を完了させました。

 請求から3カ月を過ぎた頃。智明さんは障害基礎年金の2級が認められました。

 障害基礎年金が認められた後、母親から連絡がありました。

「おかげさまで息子は障害基礎年金が受給できるようになりました。年金が受けられるようになったのはありがたいのですが、息子はこれから一生人工透析を続けなければなりません。せめて数年に一度でもよいから健康診断を受けてくれていれば、ここまで病状が悪化しなかったのではないかと思ってしまいます。そんなことを言っても、もう遅いのですが…」

 母親は心から悔やんだ様子でそう言いました。

 今回のケースのように、人と接することを好まないため、病院に出向いて健康診断を受けることをためらってしまうお子さんも多いと思います。

 最近では、自宅で使える検査キットなども登場しています。お子さんのひきこもりが長期化し、何年も健康診断を受けていないようであれば、そのような検査キットを活用することも検討してみるとよいかもしれません。

社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也

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