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今や「美容医療=韓国」じゃない!? 世界的トレンド【医療×観光】 業界のプロが見た日本の「医療ツーリズム」最前線

オトナンサー / 2024年12月26日 8時10分

「医療ツーリズム」で日本が注目を集める理由は?

 患者が医療サービスを受ける目的で、自国より医療水準が優れている国へ渡航し、治療や健診を受けることを指す「医療ツーリズム」。日本においても、高水準の医療サービスを求めて海外から多くの人が訪れるなど、インバウンドの形態の一つとして、世界的に注目を集めています。

 なぜ今、日本の医療を求めて来日する外国人が増えているのか――。「湘南美容クリニック」をはじめとする医療機関への経営支援事業を展開するSBCメディカルグループホールディングス CEOの相川佳之さんは、その背景として「信頼性の高い医療技術×おもてなし文化」という“日本ならでは”ともいえる医療体験の存在を指摘します。医療ツーリズムの現在地を熟知した業界のプロが見据える、医療と観光がつながる時代の最前線とは――。

■医療ツーリズムを「国家戦略」とする東南アジア

 先日、仕事の合間に人間ドックを受けに行ったとき、待合室で思わず「え?」と驚いてしまいました。外国人の方が想像以上に多かったのです。

 隣に座っていた外国人男性に思い切って話しかけてみると、3年前に膝の軟骨損傷の治療で日本を訪れた際、医師の技術とホスピタリティーに感動し、それ以来、毎年家族で健康チェックを受けに来ているとのことでした。

 そう考えると、人間ドックを毎年受診する習慣って日本独特ですよね。他国でも健康診断はありますが、個人が自費で毎年精密検査を受ける文化は世界的に珍しいのです。多くの国では、病気になってから治療を受けるのが一般的。特にアメリカやヨーロッパでは、医療費や保険制度の影響で定期的な検査はなかなか浸透していません。その点、日本の人間ドックは内容の充実さや短時間での効率的な検査が魅力であり、海外の人たちにも「信頼できる医療」として受け入れられているのが納得できます。

 筆者が経営支援を行っている「湘南美容クリニック」も、この数年で医療ツーリズムの需要が拡大し、年間1万人ものインバウンドをお迎えしています。このように、自国内では手が届きにくい水準の医療サービスを求めて渡航する「医療ツーリズム」が、世界的なトレンドとなっています。

 それぞれの国が医療分野で持つ強みを生かし、独自のサービスを提供していることがその背景にあり、歯科治療、外科手術、美容医療、再生医療に至るまで対象は幅広く、利用者のニーズも実に多様です。近年は、観光と治療を組み合わせるスタイルもリピーターを増やしています。

 健康や美しさを求める旅が、新しい体験をもたらす――。かつて「特別なこと」とされていた医療ツーリズムが、今やごく自然な選択肢の一つとなりつつあることに、驚きと感慨深さを感じずにはいられません。本当に時代は変わりましたね。

 では、「医療ツーリズム」の魅力を少し掘り下げてみましょう。

 何といっても注目すべきは、医療ツーリズムを国家戦略として位置づけた東南アジア各国の台頭です。医療サービスの質に加え、各国政府が医療ツーリズムを積極的に支援し、PR活動を行うことで、医療と観光の融合が進んでいます。

 筆者が知る限り、シンガポールはがん治療や予防医療、インドは心臓外科や再生医療の分野で国際的評価が高まっていますが、伝統医学「アーユルヴェーダ」をかけ合わせるなど、柔軟で幅広い医療サービスを低コストで提供しています。医療とリゾートの組み合わせとして人気が高いのは、美容医療や不妊治療の分野で世界的な地位を確立したタイです。

 ヨーロッパにも目を向けてみましょう。ドイツは高度な外科手術やリハビリテーション、スイスはアンチエイジングや予防医療で富裕層からの支持を集めています。そして、トルコの毛髪移植やメキシコの歯科治療など、特定の分野で特化した国々も見逃せません。個人的には、高級リゾートのような医療施設を持つスイスでの医療体験に憧れを感じます。いつか時間をつくって訪れてみたいものです。

■「美容医療=韓国」ではなくなりつつある?

 では、美容医療はどうでしょうか。「美容医療」と聞いて、真っ先に韓国を思い浮かべる人も多いでしょう。しかし近年、その魅力に陰りが見え始めていると感じる日本人も少なくないのではないでしょうか。

 かつて、日本人が韓国で美容医療を受ける主な理由の一つは、「リーズナブルな価格で多様な施術を受けられること」でした。しかし現在、その優位性は薄れつつあります。その背景には、日本国内の技術力、価格、そしてアフターケアの充実といった点で、日本が韓国に劣らない水準に到達している点があります。

 筆者が2000年に神奈川県藤沢市で最初のクリニックを開院した頃、韓国は価格面で圧倒的な優位性を持っていました。例えば、しわ取り注射「ボトックス」。当時、日本国内では治療自体が新しく、供給量が限られていたため、施術を提供できる医師やクリニックが少なく、その希少性が価格に反映されていました。1カ所で数十万円という料金にも違和感がなかったほどです。

 しかし、時代は変わりました。現在、湘南美容クリニックでは、最も信頼性が高いとされるアラガン社製のボトックス注射を1カ所8000円(税込み)で提供しています(これはかなり頑張っています…!)。

 ボトックスやヒアルロン酸などの注入系や、レーザー治療など、あらゆる治療における韓国との価格差は相当縮まっていると感じています。それどころか、渡航費や宿泊費、そしてアフターケアの手厚さを考慮すると、国内で治療を受けた方が、結果的にコストパフォーマンスが高いケースも増えています。

 …と、日本と韓国の美容医療についてお話すると、どうしても「コスト」に焦点が当たってしまいますね。「顔」は、その人の個性や生きざまを象徴する、一生涯を共にする大切な一部。顔に宿る表情や美しさは、人生そのものの豊かさにもつながるというのが筆者の考え方です。だからこそ、コストだけでなく、安全性や信頼性を何よりも重視するクリニックを選んでいただきたいなと切に思います。

■インバウンドが日本の美容医療を選ぶ理由

 日本の美容医療を求めて来日するお客さまが増えている背景には、「信頼性の高い医療技術」が大きく影響しています。医療技術に関しては、経験豊富な医師陣による施術の質の高さはもちろん、衛生基準や安全対策が徹底されている点が評価されています。

 仕事柄、海外の美容医療クリニックを訪問する機会が多い筆者が感じるのは、日本独特の「おもてなし文化」が、医療体験をより心地よいものにしているという点です。海外のクリニックでは効率性を重視する傾向があり、お客さまとのやりとりが淡々としている印象を受けることが多いです。

 美容医療を受けるということは、多くの人にとって心理的なハードルを伴うものですが、日本のクリニックではお客さま一人一人に対する配慮が行き届いており、緊張を和らげ、安心して施術に臨める環境が整っています。湘南美容クリニックはもちろん、日本国内の多くの美容クリニックが、海外から訪れる人々が「日本で治療を受けてよかった」と思える体験を生み出しています。業界全体で美容医療の質を高め、世界に誇れる「信頼の医療大国」を実現していることは、日本の強みといえるでしょう。

 最後に。インターネットやSNSで簡単に情報を手に入れられる時代ですが、その情報がすべて正しいとは限りません。「この治療が安い」「ここは評判がいい」という響きのいい情報ばかりに目が向いてしまうと、リスクを見逃してしまうことがあります。

 医療ツーリズムを選ぶ際は、信頼できる医療機関かどうか、アフターケアは万全か、言語や緊急時の対応はどうなっているかなど、しっかり確認することが大切です。SNSの口コミは参考程度にとどめ、公式情報や現地の医師との相談を通じて、納得のいく判断をしたいですね。

 情報があふれる時代だからこそ、一歩立ち止まり、自分にとって本当に安全で最適な選択肢を慎重に見極めること。それが、安心して医療ツーリズムを楽しむための鍵となります。

SBCメディカルグループホールディングス CEO 相川佳之

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